空中分解2 #2477の修正
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地獄の足音は寡黙である。高血圧は、【沈黙の殺人者】と呼ばれる。自覚症状は何も 無い。「酒・満肥・しお・運動不足」が四大危険因子。脳卒中や心臓病の危険が大層に 増す。先程までは、確かに微かに聞こえていた 「タプタプタプタプ・・・・・」 という音さえ、はちきれんばかりになった今では聞こえなくなった。時折聞こえるのは 「ムシャムシャムシャ・・・・・バグバグバグバグ・・・・・」 そして、赤子の泣き声と夫が怒鳴られる罵声。 メゲずに夫は、昔のアルバムを何の風の吹き回しか眺めている。陶然とした表情で、 写真の中のホッソリとした美しい女に見とれている。 「 あぁ・・・・こんな女と結婚していれば・・・・」 後悔は行き所を失って迷走する。実を言えば、女房殿のウン年前の御写真なのである。 「 アンタっ!何見てんのよ!」 妻は先程から不機嫌だ。 「 お前・・・・・本当に奇麗『だった』んだなぁ・・・・・」 付け焼き刃のお世辞は禁物である。が、咄嗟の事で誠に失敗であった。 「『だった』とは何よっ!『だった』とは!」 哀れなるシモベは懇願する。 「 いえ・・・・・今も大層に御美しくおわしまする・・・・・ヘヘェ〜・・・・・m(__)m・ 耳半分に聞きながら、女房殿は塗り固める手を休めない。築35年。モルタル仕上げ。 おっとイケナイ。また、この口からこぼれそうであった。 いつの頃からか、炬燵の前にデンと構え、「プクプク」という音響を立て始めていた かと思うと「タプタプ」という弛みの音になり、張り詰めたせいか、その「タプタプ」 も消えて、まさに家の中心に「デーン」と位置を占めている。 妊娠中は栄養所要量が著しく増大する。 「 あ〜・・・・何でも美味しい!・・・・お腹の子のためよ・・・・子供のため・・ と拡張に拡張を重ねた食習慣は、出産後も一朝一夕には変わらない。子宮が復古して、 小さくなった分だけ脂肪が溜まる。しばらくして、食欲も下方修正されるが、それまで の分がシッカリと蓄積される。 優しい旦那様は乳母車を押し、ミルクを飲ませ、オムツを替え、フトンの上げ下ろし までやって下さるので、運動不足は解消されない。従って、 「タプタプタプタプ・・・・・」 の音声がして、やがて、それも消え、はちきれんばかりの勢いにて・・・・ 「 ドスコ〜イ・・・・・ 」 振り向いた女房殿は、 「 面倒見といてね・・・・・友達が砂かぶりのマス席取れたんだっていうから・・・・・ 返事をする間もなく、マンションのドアはバタンと閉まる。赤子は無邪気なものだ。 「 バブバブ・・・・・ブゥブゥー・・・・・」 ミルクをやるとおとなしくなった。 する事も無いから、TVをつけた。某国営放送では相撲をやっている。赤子が興奮を し始めた。 「 バブバブ・・・・・ママァー・・・・・ママァー・・・・・」 桟敷に居るのが映ったかと思ったが違う。小錦と曙が大写しになっていただけだった。 改めて昔のアルバムをシゲシゲと眺めた。 「 本当のお前を取り戻したいんだ・・・・あの頃のお前を・・・・」 夫はヨヨと泣いた。 が、女房殿は帰ってこなかった。この日、新弟子検査に合格し、相撲部屋入りをした からであった。「砂かぶり」の席が取れる訳なのであった。
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