空中分解2 #2455の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
★ 六本木アマンドの坂を下り、しばらく行くと、左手のビルの2階にそのビルはあ る。ビルの2階には通りに面して10程の窓があり、その窓すべてを使いそのフロ アにあるプロダクションが社名を表にむけ表示している。 |桃|謙|エ|ン|タ|ー|プ|ラ|イ|ズ| 桃謙エンタープライズ、つまり桃田謙一のプロダクションだ。 虎人は1つだけ開いていた駐車スペースにクルマを押込むと、左端の小さな階段を 上がりチャイムも押さずにドアを開け、中をのぞき込んだ。 −−同時に騒々しい電話の声 その社員達は虎人の顔をみるやいなや一斉に立上がり、50m向うでも聞えるよ うな大きな声で−−いらっしゃいませ!と来た。これも桃謙の教育の一端なのか。 「恐れ入ります、社長ちょっと打合せ中ですので、そちらでお待ち下さい。 お茶でよろしいですか?」 −−虎人はうなずくと、かたわらにある趣味の悪い応接セットに座った。 売出中の歌手の大きなポスターが天井いっぱいに張巡らされ、壁には有線のリク エスト回数のグラフ、そのとなりにはCDの販売数TOP100の順位表。 更に、社長のお言葉という事か「仕事は足で拾え」だとか「タレントは神である」 だとか下手な筆ペンでかいた色紙のようなものがそこかしこに張ってある。 マネージャー用の大きめの能率手帳をみせて貰った事もあるが、そこにもそれは 書いてある。つまり、毎年正月には社長のお言葉を書いた有難い手帳が全員に配ら れるという話だ。 いつも思うのだが、こういった昔気質のプロダクションは選挙事務所に酷似して いる。現に目の前の棚にも必勝ハチマキ付のダルマさえあるのだ。 −−これでタレントが名前の入ったタスキでもかけりゃ大笑いだ 女子社員が来客名を書いたメモを渡しにか、社長室のドアを開けたトタンにあい つのだみ声が聞えてきた。 「お前なぁマネージャーやって何年になる!えっ、それともアルバイトか……」 −−相変らずやってら 最近の稼ぎ頭はピンクスという女性5人組だ。 オーディションで採用しておいた5人を乱暴にもひとつに束ね、その圧倒的なハイ レグぶりを、すべてといっていいほどの男性雑誌のグラビアに一斉登場させた。 もともとは歌と踊りのうまい連中ではあったが、まずそのグラビアで度肝を抜き その後に、本来の歌の巧さで勝負をかけたというところが桃謙らしい。 ここはプロダクションというよりも、モデルプロといった方が近いか−− つまり、モデル、女優、歌手などを志望する数百名にも及ぶ女性たちとパーセンテ ージ契約を結び、例えばテレビのCFガールやバラエティーのアシスタント、ラジ オのDJから、ミュージカルのわき役まで、すべての芸能媒体に彼女たちをプレゼ ンテーションする。 殆どがそれほど大きな仕事ではなく、それなりのギャラを支払って終る事になる が、そうこうしているうちに、その中からピンクスの様な人気者が登場する事にな る。そこで彼は、初めて彼女達と正式な契約をかわすというシステムだ。 かなり合理的で、言ってしまえばずるい。 しかし、スターの要素を持った女性を見つけだす眼力、そしてそれを更にブレイ クさせるまでの力量/哲学には確かに尊敬せざるを得ないものがある。 一方、彼が商品といってのけるタレントも、昔の様にただの着せかえ人形ではな い。彼から正当に収められる報酬額を確認し、それだけの仕事をしたたかにこなし 慢心するでなく次の指示を待つ、そして人の礼儀もわきまえている。 いわばその両者は信頼感と緊張感がスレスレのラインで保たれた一心同体である ま、しかしそれはウエットといえばウエット、前時代的といえばそれであり、好き 嫌いで片づけて一向に差支えない美的感覚ではある。 「いやいやー久しぶりだな虎人、騒々しいとこ来て貰っちゃって」 「ピンクスとやらで左手にうちわ持ってんだってな」 「まだまだだ、だけどこれからのあいつらは凄いぞ」 「俺にまでハッタリか?」 「へへ、ここじゃなんだ向いの三木行くか」 −−桃謙が移動電話を抱え、ドアを指さした。 桃謙とは俺お前の中だが、確か虎人よりいくつか歳は上の筈。昔彼がレコード会 社のディレクターをやっていた時代に、虎人はギタリストとしてよくスタジオに呼 ばれた。スタジオミュージシャンといえども虎人は二流であり、言ってしまえば当 時10人ぐらいいた“一流”のスケジュールがとれない時にのみ登場するといった ところだった。 お呼びをかけるのはディレクターという事ではあるが、一流プレイヤーともなる とそれなりのプライドみたいなものがあり、実績のないディレクターにはなかなか 使いづらいものである。そんなところでのお呼びであったのかも知れないが、それ にしては性格が正反対からかよくウマが合い、もともとどちらかといえば才能があ った虎人の詞作力を認め、ヒットを飛ばしてくれたのも彼であった。 そしてそれは彼にとっても初のヒットであり、その後は作曲の青山とで三色コン ビなどといわれ、もてはやされた時代もあった。 その後、彼はお気に入りのタレントを連れ、レコード会社を辞め独立、現在のプ ロダクションを設立したようだ。 しかし彼の感性は別としても、そのビジュアルは一般人が憧れるディレクター像 を完璧に破壊するまでの体型−−具体的には腹部の肥満と足の短さを誇り、更にそ の気で派手なジャケットを着、長髪をうしろでちょんまげのように束ねているから 異様といえば異様である。 −−通りに出る 「おお八丁目の先生は、まだこのクルマかよ」 「ああ」 「確かヒット御礼とやらで、会社の経費をごまかして俺がプレゼントした。しかし なぁ昔の優勝カップをだっこしてなきゃ仕事出来ないお前でもあるまいし、ベン ツにしろベンツ」 「桃謙社長のベンツは、どうせタレント様送迎車だろ」 「ああまったく、俺は社名入りのカローラバンで飛び回ってら、それもピンク色」 「−−こちら老兵も老車と共に時を刻む也」 「おいおい、盆栽いじるのはあと100年待て、な」 「−−ところでなんだよ急に」 「ま、特に急ぎでもないんだけどな、例のピンクスのCDが初登場でベスト5位に 食込んだんだ」 「また俺に−−」 「いやいや違う、ベスト5だが売行きはたかが3万枚だよ。それにCF出演が五社。 はたから見たらいくらか景気よく見えるだろうがな、これじゃ大所帯はまかなえ ない。もう昔みたいな快進撃はいくらやっても出来ないんだろうかってな−−」 「弱音か、天下の桃謙が」 「時代の事を言ってんだ俺は。宝くじよりは確立がいいのがこの商売だと思ってた んだが、その宝くじの賞金3億円が3千万になったらどうすりゃいいんだ。 やくざのクセにボランティア活動をやってるみたいなもんだ、まったく何の為に こんなつまんねえ事をやってんだか……」 「なるほどなぁ、そういえば俺はその宝くじでさえ買うのも忘れてら」 「−−クルマを見ればわかるけどな」 「確かに金はねえけどよ、ピカピカのクルマなんて欲しかあねえ。お前にゃあのク ルマの良さは一生分らないさ」 「ああわからない。−−ところで虎人、お前音楽は好きか?」 「はっは、凄え質問だなそれ」 「好きなのかおい」 「……嫌いじゃない」 「その程度か?」 「ああその程度だ、プレイヤーだった頃みたいに夢中な訳ないだろうが」 「やっぱりな、俺はそれより悪い。音楽が嫌いだ」 「うほっほ、その割にはレコーディング中のお前にはおっかなくって誰も声をかけ られないって噂だぜ」 「ああ、音の他には何にも聞えなくなって邪魔するやつは許せない。だが少なくと も高揚状態じゃないな、どこかしら醒めていて、漠然と想像していたところまで ひとりでこぎ着けるだけだ」 「俺も同じだ、それがプロってもん−−」 「それがプロなら随分つまんねぇ」 「……何を言いたいんだよ」 桃謙が身を乗出して小さな声で話しはじめた。 「なあ虎人−−バンドをやる気はないかお前」 「−−誰か気に入ったヤツがいるのか?」 「いやいやお前がだ」 「俺が?」 「そうだ俺も一緒だ」 「−−−−」
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