空中分解2 #2453の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
★ 「なんか食うもんあるかな?ママ」 「あらっ久しぶりに来たと思ったら、また食うもんあるか?先生そればっかり。 それにふたりの時にママって言うのは止めて−−」 「はいはい、恐れ入りますがお客様に何かお出し頂けませんでしょうか?」 「そうですね、ポテトチップスかピーナッツ?」 「おまえ−−」 「あらら今度はおまえ?でもそれのがましかな」 「−−ほら、この前の写真」 「−−あらっ凄い美人!先生の恋人かしら?」 「叶順子さんといいましてね、それは大好きな人でした」 「でした。って後にマルつけちゃうのね?」 「……ふられた模様です」 「そうかしら?」 「最初にお会いしたのは、あれは確かKBSのGスタでした。 キャメラの前で歌っているこの美女を、私こと駆出しの作家虎人はスタジオの隅 の暗がりから、ただ憧憬の眼差しで−−」 「嘘ばっかり!やめましょ昔の話しは、先生2週間ぶりだわ」 クラブ叶。銀座のクラブといえども、そのすべてが下品なクラス意識を持った人 達のために深い絨毯と大理石のテーブルを用意している訳ではない。 ここはクラブというよりもどちらかといえばバーといった方が近いか、数年前か ら叶順子がやっている店だ。 元歌手の割にはどちらかといえば地味な彼女だが、何の気取りもなく普通にして いるだけで、いやそれこそが本来のいい女という事になるのか−−たとえば彼女が 銀座通りを歩いていても誰も振向きはしないだろうが、目の前に座って5分と立 たないうちに、実は大変な美女であったと誰もが気づかされる筈だ。 「叶」のお客は常連のみ、満席になった事もないが、適度に空いているのが常連に とっては嬉しいに違いない。 「タカさんの事、知ってたか?」 「新聞で見たわ、行ったんでしょ」 「ああ」 「先生まだあの人に忠義だてしてるんですか?」 「結果そういう事になるのか」 「私の事も忠義だてのうち……?」 「いや違う、未だに順子に逢ったとたんに胸がへんな感じになるよ、17・8の頃 みたいにな」 「はいはい、それで」 「胸がヘンになるぐらいのいい女が隣に座っていて、こうやって酒を飲む。俺にこ れ以上何がいるんだ?」 −−彼女は彼の右手に手を重ねたと思うとすぐそれを放り出し、小さく笑った。 「いいアイデアがあるわ。服を脱がせて、好きなようにして、ひとりじめにしてみ たら如何?」 「うっ−−はは、ウイスキーを」 「切らしてますが?」 「……でもそれがいちばん恐いよ順子。俺の帰りを待ってセーターでも編んでくれ ようってのか?いい女はそんな事をしたとたんにいい女じゃなくなるのかもしれ ないんだぞ」 「ふふ、セーターを編んで欲しいのかしら、編んで欲しくないのかしら?それにし ても自信がないのね」 「自信か、ある時もあるしない時もある、どっちの時もいやな奴で中間がない」 「おまけに困った迷子」 「ああそうだ。ピーターパンが迷子になったまま大人になってしまって、今度は冒 険に出たんだが遭難してしまった。それにそのピーターパンはたいそうお腹が空 いていてシンデレラ姫が助けに来てくれるのを待っているのだ」 「只の駄々っ子ね。ここは食堂じゃないんです、今夜はお酒しかありませんからね 彼女は虎人の肩をポンと叩くと調理場に向った、常連達が来るにはまだだいぶ時間 が早い。 ★ 「あなたは海岸に立っている、そして水平線の向うに行きたいところがあるとする しかし、それは見えない。……さてどうする?」 銀座の地下道をずっと歌舞伎座あたりまで行ったところの階段の脇にちょっと したへこみというかスペースがある。そこに新聞紙を敷き、スーツの紳士と女性が 座り込んでなにやら話しをしている。 「タカさんそれ詞の事ですか?」 「笑子さん、なんでも同じなんですよ」 「−−行く前に沢山の知識をいれておいた引出しを開け……」 「それを取出して繋げて船を作る、そう虎人に教えられましたか?」 「−−そういう訳でもないですけど」 「まあいい、銀色虎人はそのつまりバンガロー……」 「先生気にしてましたよ」 「そうかそれならまだ救える。その知識の船には櫂、あるいは帆をはらませる風が いる」 「気力?」 「そう、誰でも少なからず持ち合せているでしょう。しかし、更に道を探さなけれ ばいけませんな」 「思考しながら少しづつ進む?」 「少しずつ?いや、船の縁つまり足元ばかり見ていますとな、くらげや蛸や海ヘビ が欲の塊となってウジャウジャ出没しよる、それにかまっているうちに北も南も わからなくなる」 「じゃ遠くの一点を?」 「遠くをジッと見つめていると、確かに目標物は見えてくる。 しかしそれは実感の伴わない夢幻、いかにも頼りなく、いずれ見えなくなる」 「…………」 「なにも禅問答をしたいわけでもないだがね笑子さん、その思考は平面でなく常に 三次元なんじゃ」 「はあ」 「思考はいくら横に広げても限界がある。だから縦に、要するに自分を高みに持っ ていく」 「空にですか?」 「前へ進む前にやっておく事がそれなんだが、誰もその事に気がつかずに、ただが むしゃらに1センチでも前に進みたがるのですよ。 こころを集中して昇りつめる、つまりイメージの樹の高みに自分を置くのです。 そこにはたいそう気持の良い空や雲があって、蛸やくらげや海ヘビといった邪念 がない。そこで初めて水平線の向うまで道は開けるのです。 あとは簡単だ、もう何も恐れるものはない。そのままゆっくりとかの地へ向えば いい、それは楽しい旅だ」 「はあ」 「では笑子さん用のマントラ(呪文)をお教えする、絶対に人には教えてはいかん 「あっ、はい」 「座って目を閉じて、それを永遠に繰返す、それで昇る−−浮く−−飛ぶ」 「………………………………」 「何かが見えてきましたかな笑子さん」 「……いえ」 「君の回りには魑魅魍魎がうようよしとるわ、私はいまそれを叩き落しておる。 それも君には見えんかね、あっはっはっは」 タカさんが笑うと同時に地下道に突風が吹抜け、彼の下に敷いてあった筈の新聞 紙が風に舞っていった。 「タカさん?新聞紙……」 笑子は一瞬なにが起きたのか理解できず、すぐその後に息がとまりそうになり、 ただ呆然と立ち尽していた−− 新聞紙が飛んでいくのも無理はない、彼は座ったままの体を10センチ程だろう か中空に浮かせ、静止していたのである。これこそ彼がインドで修得したという瞑 想なのであろうか。
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