空中分解2 #2424の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「えェ?」 「ほら、ダスティン・ホフマンの出ているやつ」 「別の話?」と俺が言った。 「まあ、聞けよ」と健一が言った。「俺、女と、あれを観に行ったんだ。それ でさァ、いいシーンがあって、俺が感動してたら、女がうるさいんだ。ベタベ タしてきやがって。だから、うるせー、少し黙ってろ!って言ってやったんだ 。そうしたら、女が泣き出しやがって・・・。スクリーンの人に同情するくせ に、何であたしに優しくしないの?だって」 「何の関係があるの?」と俺が言った。 「だからさァ、俺も、本当の女よりスクリーンの女の方がいい時もある、って 事」 「へェー」 「だから、お前は、ちっとも変じゃないよ。普通さ」 葬式の日、全ては淡淡と進む。余りにもそうなので、VHSの早送りを見て いる錯覚を起こす程だった。坊主が来て、お経をあげて、知らない人々が焼香 に来て、最後のお別れがあって、花を棺に詰めて、霊きゅう車に運んで、火葬 場へ行って・・・。気が付いたら、おばあちゃんは、ステンレス製の台車の上 で、骨になっていた。本当に、VHSの早送りを見ているみたいだった。 親戚の大人達は、泣きながら、おばあちゃんを骨壷にしまっていた。俺は、 離れて見ていたのだが、何かを捜していた。実は、VHSのリモコンを捜して いたのだ。俺は、何故か、ビデオサーチで巻戻しを押せば、骨がまた炉に戻っ て、おばあちゃんの肉体が復活する様な気がした。 おばあちゃんの家に帰ってから、精進料理を、食べた。孫達は孫達で、集ま って、食べた。 女の子達の一人が、おばあちゃんのレコード・プレーヤーで、レコードをか けた。別の女の子が「歯が浮く歯が浮く」と騒ぎ出した。 「どうした、って?」と俺が聞いた。 「キーキー、聞こえない?」と女の子が言った。 俺は、耳を澄してみた。「いい音楽だよ。キーキーなんかしてないよ」 「針の摩擦する音、聞こえない?」 「なんだって?」 「摩擦で、火を吹いちゃうかも知れない!」と女の子が言った。 女の子は両耳を覆って、しゃがみ込んだ。 感じやすすぎて感じられない、というのは、俺達の世代に共通の事だ。俺も 感じやすい。俺は、コンサート会場が汗臭くって、ロックを感じられない。し かし、もっとすごい世代が、俺達の後に続く。女の子達は、針が火を吹きそう で、メロディーを感じられないでいる。 レコードを、プレーヤーから下ろして、俺達は精進料理を食べた。女の子達 は、部屋の隅に固まって食べている。俺は、登の隣で食べた。登の向こうには 、健一がいる。 「登」と俺が言った。「健ちゃんに、のりピーの写真、見せてやれよ」 「何だよ、それ」と健一が言った。 「酒井のりピーだよ、アイドルの」と俺が言った。 登は、黙って、ジュラルミンのケースを開けた。健一もケースを覗き込む。 「おいおい、なんだかいっぱい、あるなァ」と健一が言った。「何だこれ?」 健一は、子供が描いた様なイラストがプリントされてある、パスケースを、取 り出した。 「のりピーグッズだよ、これがのりピーマン」と言って、登はイラストを指し 示す。 健一は税関みたいに、ジュラルミンのケースを漁ると、次から次と、のりピー グッズを出した。のりピーマンのイラストがプリントされたノート・アドレス 帳・ペンケース。 「こんなの、何処で売ってんだ?」と健一が言った。 「のりピー・ハウス」と登が言った。 「マルクスに見せてやりたいねェ」と健一が、難しい事を言う。 「何?それ」と俺が言った。 「物神崇拝と逆だろ?」 「ああ、そういう事か」と俺は、解らないまま、うなずいておく。 俺は、カヨと不可能だった晩に聞いた、深夜放送の事を思い出した。 「なァ、登」と俺は言った。「そういうの、触ってて、感じるのか?」 「何を?」と登が言った。 「だから、のりピーマンを触っていて、のりピーを感じるか、っていうの」 登は、少し考えてから、「感じる」と言った。 「そういうのって、フェティシズム、って言うんだぜ」 「そうでもないよ」と健一が言った。「そんなの普通だよ」 「何で、普通なの?」と俺が言った。 「大抵、人間は、その人本人よりも、その人の持ち物に多くを感じるよ」と健 一が言った。「親父達を見てみろよ」 親戚の大人達は、おばあちゃんの形見を漁って、泣いていた。 東京の自分の部屋に帰って、一人になった時、おばあちゃんの事を思い出し て、泣いた。約1時間、泣いた。 § 8301# −−−NTT東京ダイヤルセンターです。ピッという音の後に連絡番号と#を 押して下さい。 0085・0085・# −−−登録している暗証番号と#を押して下さい。 0085・# −−−伝言されるか、お聞きになるかをご指定下さい。新たに伝言される時は 、数字の3と#を、また伝言をお聞きになる時は、数字の7と#を押し て下さい。 7・# −−−新しい伝言からお伝えします。お聞きになっている途中で数字の9と# を押すと次の伝言に移り、数字の8と#を押すと伝言を繰り返します。 9# −−−5時30分は、カヨの、もうこれで最後コールです。もう、本当に、こ れで最後コールですよ。明日、ルノアールで、待ってます。お昼に、で すよ。絶対に来て下さい。来てくれ なかったら、明日が私の命日 になるかもよ! 寂しいカヨであった。 −−−次の伝言をお伝えします。 −−−12時と50分は、カヨですけれど。本当に、どうしちゃったのかしら ・・・。昨日も、その前も、カヨが、自分で開けていますけれど。自分 の声しか入ってない、伝言ダイヤルを聞くのは、寂しいですね。ジガ電 を入れても、出ないし・・・。なんだか落ち込んでいる、カヨであった 。 −−−ご利用いただき、有難うございました。
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