空中分解2 #2415の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
家に帰ると、誰も居なかった。俺はホッとした。洗面所で、コルゲンのうが い薬で、うがいをした。俺は、砂時計を逆さにした。薬用ミューズで、手と顔 を洗う。手と顔は、正確に六十秒間、洗う事にしている。顔の泡を流している 時、前にテレビで見た、不潔恐怖症の小学生についてのリポートを思い出した 。彼は、強迫行為から、毎日六時間も手を洗っているそうだ。俺も又、不潔を 、恐れていた。しかし、俺の場合、皮膚の不潔など、たかが知れていた。むし ろ、別の部分の不潔が、俺を悩ませる。例えば、俺の大腸の内側に詰まってい る物。 さて、俺は、さっぱりした俺の顔を、鏡に映して、点検する。俺は、鏡の中 のツヤツヤした俺に、思わず「お疲れ様」と呟いた。そうしたら、丸で、俺が ピエロで、ここがサーカスの楽屋の様な気がして来た。実際、俺は、今、縫い ぐるみを脱いだのだ。今から、俺は、世界と、リアルタイムで接するだろう。 ジンジャエールとポテトチップを持って、俺は、部屋に帰った。正に、俺は 、部屋に『帰る』のだ。机につくと、俺は、机の一番下の引出しを抜き取った 。隠しておいたタバコと、灰皿代わりの薬瓶を取り出して、机の上に並べる。 コンポのスイッチをONにして、ダイヤルをJ−WAVEにセットする。ユー ミンの曲が流れて来る。俺は、ジンジャエールを飲みながら、タバコを2本続 けて吸った。タバコの先っぽから立ち登る紫の煙を見ていると、めまいがして 気持ちが良かった。俺は、タバコを深く吸って、天井に向けて煙を吐いた。俺 の吐く煙は灰色だった。ユーミンの曲が終わる。バイリンガルのDJが日本語 でギャグを吐く。「リターニに、アンナチュラルと言われて、教師生活25年 の英語の先生、びっくり」。山下達郎の曲が流れて来る。俺は、今、いい気持 ちだ。俺は、今、くつろいでいる。一日の内で、この時間が一番好きだ。もう 少しすると、父母が帰って来る。その時俺は、再び、縫いぐるみを着なくては いけない。ここ以外の場所で、俺は、縫いぐるみを被っていなければ、いられ ない。結局の所、俺は、この部屋にあるものを通してしか、世界を感じられな い、と言える。この部屋にあるもの、CD・ラジオ・テレビ・VHS・16ビ ットパソコン、そして電話。 哲也に電話をする約束を思い出して、俺は、少し憂うつになった。俺は、コ ンポのボリュームを絞り込む。俺は、哲也の家に電話した。呼出音を聞いてい る時に、留守番電話になっていればいいな、と思った。最も恐ろしいのは、肉 体をさらした会話だと思う。しかし、リアルタイムの電話も、十分に、恐ろし いものだ。留守番電話ならば、俺は、言いたい事が言えるかも知れない。しか し、3回目のコールで哲也が出た。 「元気シテル?」と哲也が言った。 さっき、会ったばかりじゃないか!、という台詞は吐かないでおく。 「バリバリ。そっちは?」と俺が言う。 「バリバリ! 今、何シテルの?」と哲也が言った。 「一応、暇シテルんだけど」 「さっきピア買ってたじゃん?」と哲也が言った。 「ああ、あれ?」と言いながら、俺は動悸を押さえる。やっぱり見られていた か! 「コンサート、行くの?」 「多分ね」 「誰のコンサート?」 「バン・ヘイレンだよ」 「バン・ヘイレン?」 「もうすぐ来日するじゃない」と俺は言った。 「何処でやるの?」 「東京ドームだよ」 「東京ドームか・・・」 「ああ」 「疲れると思わない?」と哲也が言った。 「えェ?」 「どうせよく見えないし、疲れるだけだよ」と哲也が言った。 俺は、熱狂する観衆の人いきれや、パンクヤローどもの汗臭さや、乱暴な警備 員や、帰りの水道橋のラッシュを考えてみた。恐らく、コンサート会場の俺は 、二重にも、縫いぐるみを被っているだろう。その時俺は、俺の受信スイッチ をOFFにしている。俺は、ワンフレーズも、感じられないに決っている。 「それより」と哲也が言った。「その金でCD買って、俺の家で聴かない?」 「そうだなァ」 「そうしろよ」と哲也が言った。 「その方が、気持ちいいかも知れないな」と俺が言った。 「そうだよ」 「じゃあ、そうするよ」 「決まりだな」と哲也が言った。 「ああ」 「・・・」 「・・・」 しばらくの間、沈黙。俺は、焦った。ギャグを吐かないと白けそうだ。俺は、 胃袋が飛び出しそうになった。 「じゃあ、また電話するわ」と言って哲也が受話器を置いた。 俺も、恐いものを閉じ込めるみたいに、受話器を置いた。 コンポのボリュームを上げて、ダイヤルをFENに変える。TONE・LO Cの訳の解らないラップが流れていた。黒人の腋臭が、臭って来そうだった。 俺は、黒人の口臭を嗅いだ様な気がした。「うえッ!」。猛烈に、吐き気を感 じる。俺は、吐き気を押えながら、コンポのボリュームを絞る。俺は、大きな オクビを1つした。それから、地下鉄で会った黒人の事を、思い出した。何故 、あの時、俺は、生きている黒人に、吐き気を感じなかったのだろうか?と、 俺は考えた。奴らは、俺の鼻先にまで、迫っていたのに! その俺が、何故、 今、ラジオの黒人に、吐き気を感じるのだろうか? しかし、俺は、すぐに、 考えるのを止めた。解決済みの問題を蒸し返しても、脳味噌の無駄使いだろう 。つまり、やはり、俺は、この部屋でしか感じられない、と結論するしかない 。 コンポのダイヤルを、再びJ−WAVEに合わせる。マドンナの曲が流れて いた。俺は3本目のタバコに火を付けた。もう、めまいはしなかった、が、美 味しくもなかった。俺は受話器を取って、8301#を押した。 −−−NTT東京ダイヤルセンターです。ピッという音の後に連絡番号と#を 押して下さい。 0129・0129・# −−−登録している暗証番号と#を押して下さい。 0129・# −−−伝言されるか、お聞きになるかをご指定下さい。新たに伝言される時は 、数字の3と#を、また伝言をお聞きになる時は、数字の7と#を押し て下さい。 7・# −−−新しい伝言からお伝えします。お聞きになっている途中で数字の9と# を押すと次の伝言に移り、数字の8と#を押すと伝言を繰り返します。
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