空中分解2 #2376の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
憲兵隊宛てに あの娘から手紙が届いた 名前は松本恵子というらしい 今晩 会いたいと書いてある 幸い今日は用事がない 少女の滑やかな白い肌が思い出される Mが面会に来ているという 部屋に通すよう当番兵に言い付ける Mは兄の同級生だが 私大で日本史の助教授をしている アカがかった不肖の兄と較べて しっかりした人だ 性格も懐疑的で陰鬱な兄と正反対に 明るく快活だ 子供の頃から一緒に遊んでくれた 取り替えられるものなら こちらが兄だったら どんなに楽しいだろうと思ったものだ 実際10年前から兄になった 私の姉の加奈江と結婚し 3児をもうけている 3人とも よく懐いてくれている 可愛い子供たちだ 実兄の惟義といえば まだ独身を通している 一高の教授とて 欲望くらいは持ちあわせている筈だ だいたい 有為の若者たちに 女々しい英文学なんぞを教えていることからして気に食わない 「よお 惟顕くん どうした 難しい顔をして」 「あ Mさん お久振りであります」 「兄弟やのに 固い挨拶は抜きにしよや」 「はあ 義兄さん 今日はどうしたんです」 Mを ニイさん と呼ぶのは楽しく嬉しかった 「いや 惟義のことやけど ゆうべ ワシの家に来て 呑んだんよ 珍しく酔い潰れてな アイツ うわごとで メグミ メグミ いうて繰り返し言うんよ 苦しそうでな ・・・なんか 思い当たる事ないか」 「はあ ないですねえ そおいえば 妻(さい)と子を連れて正月に行った時 妻が脂粉の臭いがする とか言ってましたし・・・ 女でもいるんじゃないですか」 「相変わらず 惟義のこととなると 冷たいな お互い隠し事はせぬ仲だが ひとつだけ・・・ どうも高校の時から 女を隠している風があったんや 余程のナラヌ仲やろ思て ワシも ワザと詮索せなんだんやけどな・・・」 「どこかの 浮かれ女じゃないですか 文学なんぞ やってる男です その程度のことでしょう」 「オイオイ 坊主憎けりゃか どうして そんなに嫌う かりにも 君の兄貴やぞ」 「あ つい 興奮しまして 申し訳ありません しかし 惟義は危険思想の持ち主です 現に ロシアの外交官などとも交際しておりました 弟が憲兵をしているというのに まるで面当てのように」 「考え過ぎだって・・・ ああ そうだ 加奈江も会いたがっている 今度 ウチに来いや」 「はいっ 喜んで 是非 お邪魔します」 「奥さんと子供もな ウチの坊主も楽しみにしてるから」 約束のカフェーに行くと 時間にまだ 15分程あるのに 少女は 小さいサジで パフェを舐めていた 短髪から覗くスッキリとした うなじが 際立っている 「あら お早いのね」少女は先手を打ってきた 「来てたのか あ ウィスキイを」 「ごめんなさい 急に呼び出したりして」 「いや いい 母上には気の毒なことをした あれから どうしている」 「伯父の所で世話になっています 良い方なのですが・・・ 話し相手もいないし 息子さんばかりだし なんだか 詰まらなくて」 少女はサジをクリームの山に 突き立て 引き抜き モジモジしている 「学校には 行っているのか」 「いえ ご本を読むのは好きですのに 学校は 何だか・・・」 「ははは 勉強は詰まらないものだが 友人ができたら楽しいぞ」 「ふふふ 軍人さんて 面白い 軍人さんは学校好きだった」 「私は小学校を出てすぐ仙台の幼年学校に入った それから士官学校を出て 陸軍大学に入った 10年ばかり同じ仲間と一緒に学んだことになる 奴らは心から信用できる仲間だ」 「お羨ましい・・・ あたし 友達なんか・・・・」 「どおした 友達くらい いるだろう 幼ななじみとか 稽古仲間とか・・・」 「・・・いえ あたくし ・・・私生児なのです 母が女学校の時 くにの宇和島で妊娠して・・・ あたくしが幼い頃 逃げるように くにを出て 10歳ころまでは仙台におりましたが 急に東京に越して来て いえ 親戚の方々は良くして下さいました 母の方が頑なに くにに帰らなかったのでございます 縁談も幾つか持って来て下さったのに・・・ それに 私生児というだけで 幼ななじみがいるわけでなし・・・ あたくしも 学校にはなじめませんでした ・・・ごめんなさい 変な話しちゃって・・・」 うつむいた少女の目は潤んで見えた 急に少女は顔を上げた もう 目は 潤んではいない 「あたし 働こうと思って」 「働くって 何をするんだ」 「こういうカフェーの女給なんか いいな」 俺はウィスキーをあおって言った 「何を言うんだっ そんなことは 堕落した女のすることだ お母さんも きっと反対する」 「まあ お堅いのね さすが 憲兵さん」 少女はキッと俺の目を見据えた 「いや これは常識だ 断じてイカン」 「ふうん ムキになるのは何故」 「こ これは・・・ あの事件で知り合ったのも何かの縁だ 年端もいかぬ娘を教導するのは 大人の義務だ」 「あら 子供だと 仰しゃるの ふふふ 試してみる?」 猫のような三白眼だ と思った 「軍人さん あたくしと 寝たいんでしょ だから ここにも 来たんでしょ」 少女は銀色のサジを突き出し 俺の目の前で軽く振った 「な 何をっ しっ失敬なっ」 俺は本当に腹が立った 椅子を蹴って出口に向かった 驚く女給に10円札を突き出し 道に出た 軽い足音が駆けてくる 珍しいゴム底の 粘り付くような音だ 少女だとは思ったが 無視して歩いて行った 後ろから 首ったまにかじりついてきた 俺は無言で立ち止まった 「ごめんなさいっ ごめんなさいっ 許してっ おねがいっ おこらないでっ ごめんなさいっ あなたにきらわれたらっ ごめんんさいっ おこらないでっ ゆるしてっ ゆるしてっ」 見掛けより発育した柔らかい胸の感触が背中で波打った 全速力で駆けて来たのだろう 激しい息遣い と おえつが 耳をくすぐる 見上げれば 少し欠けた月が 輝いている 俺は首に回された腕を 極力柔らかく掴んだ 「もう 泣くな」 少女は慌てて腕をほどき 体を離して前に回り込んできた 「おこってない もう おこってない?」 見開かれた大きな目が不安げに俺を見つめている 「ああ だが・・・」 「だが 何 ねえ 何っ」 「お前を・・・ 抱きたい」 大きく見開かれた目の表情は 不安から驚きに変わっていった 「あ あたしを・・・」 「お前を 抱きたい」 (続く)
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