空中分解2 #2371の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
2ヵ月が過ぎた Mの言う通り 月の日本人学校の生徒は 張り合いのないほど おとなしく 真面目だった 逆に日本史を担当しているMは 地球にいる時と較べ 人間が 6分の1に軽くなった 俺はといえば おとなしい生徒に おとなしく英語を教えていた 「・・・In the last night、 they shanghaied him。 阪本くん 訳しなさい」 「はい えと ゆうべ 彼は その男達に売り飛ばされるために誘拐された」 「よろしい shanghaiは上海が語源だが 日本語のん じゃなくて んがっ に近い 口を開け 息を鼻から抜くように さあ 言ってみよう」 SHANGHAI 同じ単語を しかも NGの綴りをクラス全員が口を揃えて叫ぶのは 非常に間の抜けた光景だ 「バッカみたーい」 一瞬 その通りだと思ったが 慌てて声の主を捜した 廊下に色白の少女が立っている 長い髪は薄茶色 その少女を見た瞬間 俺は背筋を羽根で逆撫されたような感覚に襲われた あの少女だった 屋上のコンクリート床で仰向けに倒れている俺の胸に 馬乗りになり首を絞めたアイツ 「なんだっ 君は 名前を言いなさいっ」叫ぶ声は 予定外に上ずった 少女はフテブテしい視線を こちらに向けた が 途端に 大きく目を見開き 俺の顔を凝視したかと思うと 急に踵を返して走り去った より正確に言うと 跳び去った 重力が弱い月面では一歩ずつが広い しかし 走り出す時に ギュッと ひときわ大きく鳴った ゴム底の靴音 少女はリーボックのスニーカーを履いていた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「よお あー疲れた 今日もウケたで 高等部で近代史やっとったんよ 5・15事件 それまでの財閥と政党の結び付きじゃの 日本的政党政治の説明じゃのを ひとくさりやって クライマックスの犬養毅の暗殺の場面 ほれ 例の政党政治とファシズムの対比として引き合いに出される 話せば解る 問答無用 ってやつ 実は この台詞 抜けてる部分があるって ホラ吹いたんよ 本当は 話せば解る いくら欲しいんだ 問答無用 バーン バーン ってね やっぱり こういう穿った冗談は高校生以上じゃなきゃ通じんな あれ どしたんで」 「ん えっ ああ いや それで?」 「それで やないわい どしたんで ボオーとして」 「いや 別に」 「フウーン ん あれ ああ ヘッ 女け 商売モンに手ぇ付けるんは御法度なんやぞ」 「なっ何言よるんぞっ ほっほんなっ 俺はっ」 「ホオー やったら 窓の隅から おまえを窺おとる美少女は何なん」 「えっ ああっ」 例の少女がMの言うように 廊下側の窓から こちらを窺っていた 俺が立ち上がると同時に少女は またも逃げ去った ゴム底の靴音を残して 「説明してみいや」 学校からの帰り 人影がなくなったのを見計らって Mが尋ねてきた 「笑わんか」言いたくないのと 聞いて欲しい気持ちが半々だった 「聞かな解らん ほやけん言うてみ」 「うん」 俺は夢の話をMに聞かせた うつむいて一気に喋った後 恐る恐る Mの顔色を窺った Mは腕組みして 子細らしい顔をしている 「ほんまに あの娘見るの 今日が初めてやったんか」 「あ ああ そうやと思う」 「ほうやろうな あの娘はな・・・」 Mの話では あの少女は科学者の娘で 父親がドイツの大学で教鞭を執っていたため 生まれた時から一度も 日本に来たことはなく 病気で3ヵ月前から隔離病棟に入院していたという 回復して今日は学校に遊びに来たらしい 名前は恵子 高校2年生 最悪なことに 俺のクラスだという 「なんでやろな あの娘の態度 どう見ても お前のこと知っとるようやったけど 会った筈ないしなぁ 考えたぁないけど 二人がおんなじ夢見たとしか思えんようになってきた」 「ほやけど ほんな事・・・」 「やって ほやないと説明つかんやん 会うた筈のない二人が 互いに顔を知っとって しかもアッチも まともな知り合い方やのおて お前の見た夢みたいな会い方したみたいやし あの逃げ方・・・ ほおよ お前 家庭訪問せえ ほれで それとなく 聞いてみ 直接」 「な なんで 急に 家庭訪問なんか」 「ヘッ 長いこと学校休んでて 何か解らんことや 不安なことあったら 言うてみ とか 理屈やったら なんとでも付くがぁ うん そおせえや」 「そおせえや って お前」 「他になんか エエ考えあるんか」 まったく Mは 悪知恵だけは 立派に働く奴だ 結局 俺は 恵子を家庭訪問することにした ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「はぁーい」 ドアが開いた 少女が立っている 俺を見て蒼ざめるほど驚いている 「え あの お お父さんいるかな」 少女は無言で俺の顔から目を離さないまま頷いた 「あ これは先生 わざわざ お尋ねいただいて どうぞ お上り下さい」 父親は白髪混じりの端正な紳士だった 「お邪魔します」 俺は極力 少女と目を会わさないように 家に上がった 頬のあたりに 焼けつくような視線を感じる 「いや 幼い頃 母を亡くし 男手で育てたもので 無作法な娘で・・・ 恵子 お茶を 入れて差し上げなさい」 「はい」 少女は ずっと うつむいて話を聞いていたが 立ち上がる瞬間 チラと俺に視線を投げた ゾッとするほど妖艶な ネットリとした視線 「先生は どう思われます アレのこと」ドアが締まると同時に父親が口を開いた 「え アレ?」 「恵子です どこか そう どこか変だとは お思いになりませんか」 「あ いや まあ ちょっと人見知りなさっておいでのような」 俺は 必死で取り繕おうとした 「それだけですか」父親の目は 明らかに 疑いを含んでいた 「そ そおいえば なんだか 殻に閉じこもっているような」 口から 教採試験の問題集で読みかじった言葉を 出任せに言う 「そおでしょう その通りです」 父親は我が意を得たり とばかりに 深く頷いた 「あの娘は 心を病んでいるのです ご存知のように あの娘は 病気で入院しました 高熱にうなされていた頃 そう2ヵ月ほど前だったでしょうか 激しくうなされ 跳び起きました 付き添っていた私に イキナリ 抱き付き泣きながら こんな話をしたのです アタシ 男の人を殺しちゃった 学校みたいな所で 一人 廊下を歩いていたの そうしたら 部屋から 男の人が飛び出して来て 走り去ったの アタシ 何故だか 追い掛けなきゃ って思って 走ったの 長い長い階段を 息を切らせて昇って とうとう屋上で 追い着いたの その男の人は あおむけに倒れて 荒い息をしてたわ 胸が波打ち 苦しそうだった アタシ その人の胸に跨って 跨って・・・・ 首を絞めたの どうしてだか解らない でも でも その人 気持ちよさそうな表情で・・・ 気がついたら 動かなくて 呼吸もしてなくて アタシ 殺しちゃった 殺しちゃった どうしよう お父さん どうしよう アタシ アタシ・・・ 驚きましたよ ひと晩中 私が付き添っていましたので 夢には違いないのですが あまりに話が真実味を帯び 娘が泣きじゃくるものですから 私も心配になって 医者に相談したのです 医者は 熱でウナサレたのだろうと 結論を下しました 私も それ以後 そういう事もなかったので 忘れておりました しかし 昨日 学校に遊びに行って帰ると 塞ぎ込んで 今朝 起こしに部屋に入ると ごめんなさい 殺す気はなかったの 月を見てたら・・・ だから だから ああっ ごめんなさい ごめんなさい などとうわごとを言っていたのです ・・・娘が不憐で 不憐で・・・」 俺の夢の通りだ 間違いない 俺は 夢の中で 確かに あの娘に殺されたのだ (続く)
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