空中分解2 #2329の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「あさがお」 文/悠歩 「もう、この子はいつまで起きてるつもりなの!」 お母さんは、まるで団地じゅうに聞こえてしまうのではないかと思える声で怒って います。 でも、みちこは、まるで何も聞こえていないように ベランダの入口の一段高くなっ たところに、ちょこんと腰かけて外のほうを眺めています。 「ほら そんなところに座っていたらパジャマが汚れるでしょ!」 お母さんは、さっきよりさらに怒った声で言いました。 それでもみちこは、黙ったまま、けっしてお母さんのほうを振り向こうとしないで 外を見ています。 本当のことを言うと、みちこは振り返るのが怖かったのです。 あのお母さんの声の感じからすると、なみたいていの怒りかたではないようです。 みちこは、絵本に出ていた怪獣やお化けより、怒ったお母さんのほうが怖いと思っ ていたのです。 それなのにどうして みちこはお母さんを怒らせてまで外を見ているのでしょうか? 「いいかげんにしなさい!!」 とうとう、お母さんはみちこの右手をぐっとつかんで、お家の中に入れようと引っ 張りだしました。 「ヤダー」 みちこは必死で抵抗します。 そして大声で「きゃー」とも、「ぎいー」ともつかない叫び声を上げました。 「なんだなんだ」 「ひとさらいか?」 その声があまりにも大きかったので、団地じゅうの人が窓を開けて辺りを見回して います。 「勝手にしなさい」 さすがにお母さんも呆れてそう言うとみちこの後ろの戸をぴしゃっと閉めてしまい ました。 みちこは泣き出したい気持ちをぐっとこらえて、膝をぐっと抱えて、ベランダの柵 のほうをじっと見つめました。 「本当に頑固な子なんだから。きっとお父さんに似たんだわ」 お母さんはそう言いながらふとんに入り、眠ったフリをしながらも、そっとみちこ のほうを見ていました。 でも、いったいどうしてみちこはお母さんを怒らせてまでベランダを動こうとしな かったのでしょうか? いったい何を見ているのでしょうか? ベランダの柵のほうを見てみると、柵に何か巻き付いているのが見えます。 それは、あさがおのつるでした。 みちこは絵本で見た、あさがおの花の開く瞬間を自分の目で見てみたいと思ったの です。 でも、今はまだ十時をまわったばかりです。 みちこにとってはもう、いつもならとっくに眠っている時間ですが、あさがおの花 が開き始めるまでは、まだまだ時間があります。とてもみちこのような小さい子が、 花の開き始める時間まで起きていられるものではありません。 それよりも、もっと早く寝て早い時間に起きたほうがよっぽどいいのですが・・・ みちこは絶対にその瞬間を見逃すまいとして、あさがおのつぼみをぐっとにらみつ けます。 カッチコッチ、カッチコッチ 時計の針は、もうすぐ十二時を指そうとしています。 団地のほかの家の人たちも、もうとっくにみんな、眠っています。 こっそりみちこのことを見守っていたお母さんも、いつの間にか本当に寝てしまっ たようです。 辺りはすっかりと静まりかえり、ときどきどこからか犬の遠吠えが聞こえてきます。 みちこは暗いベランダで一人でなんだか心細くなりました。 「おしっこ、してこよう!」 だれも聞いているわけでもないのに、みちこは、わざと大きな声で元気良くそう言 いました。 でも、かえってその声が静かな団地にひびいて、いっそう寂しく感じます。 みちこはお母さんを起こさないように、そっとベランダの戸を開け、でも急いでト イレに行きました。 −−サバーッ−− いきおいよく、水の流れる音がしてちょっとほっとした顔のみちこがトイレから出 てきました。 そしてまたゆっくりとベランダに向かいました。 途中でちらっと寝ているお母さんのほうを見て、みちこは一緒にお母さんの布団で 眠ってしまいたいと思いました。 ほんとはみちこも、眠たくて眠たくてしかたなかったのです。 でも、ここで寝てしまったらあさがおの花のさく瞬間が見れなくなってしまいます。 ぐっと我慢してみちこはベランダの同じ場所に座りました。 それからしばらくして… 「みちこちゃん、みちこちゃん」 名前を呼ばれてみちこはハッと目を覚ましました。 どうやらいつの間にか眠ってしまったようです。 「みちこちゃん、みちこちゃん」 みちこは辺りを見回しました。 「こっちよ、こっち」 おどろいたことに、どうやらその声はあさがおのほうから聞こえてくるようです。 「?!」 「やーあっと、気がついた」 よく見るとあさがおの葉っぱの上に、小さな女の子が座ってみちこのほうを見てい ます。 「あなた、だあれ?」 「こんばんわ、みちこちゃん。ちょっとまってね」 そう言ってその小さな女の子は、一つのつぼみを指さしました。 そのつぼみは、ずいぶん大きくふくらんで、いまにもはなが開きそうです。 「みちこちゃん、これが見たかったんでしょう?」 小さな女の子は、みちこに優しくほほえんで言いました。 そうです、みちこはそれを見るため、お母さんに怒られてまで眠い目をこすって、 こんな時間まで起きていたのです。 みちこは、食い入るようにそのつぼみを見つめました。 ゆっくりと、ゆっくりと、あさがおのつぼみが開いて行きます。 なぜだか分かりませんが、みちこはとても胸が熱くなる感じがしました。 「あっ」 おどろいたことに、その開いたあさがおの花の中に葉っぱの上に座った子と同じよ うに、小さな女の子があらわれました。 葉っぱの上の女の子は、すーっととんで (なんと、その子の背中には透き通った 羽があったのです) 花の中の子に手を貸してあげました。 「あなた立ち、だあれ?」 「私たち、あさがおよ。正確に言うと、あさがの妖精よ」 「わーっ、妖精さん。わたし初めて見た」 「私たちも、生まれるところを人に見られるのは、みちこちゃんが初めてよ。 ねえ、私たち、お友たちになりましょう」 みちこは、うれしくてうれしくて、「うん」と、顔じゅうを笑顔にして答えました。 みちこが目を覚ましたとき、お日様はすっかりお空のてっぺんまでのぼりきってい ました。 みちこはいつの間にか、いつもの自分のふとんで眠っていたのです。 きっと、お母さんが寝かせてくれたのでしょう。 「やーっと、起きたのね。今度こんなことしたら、幼稚園の先生に言いつけますから ね」 お母さんは、台所でお昼のしたくをしながら言いました。 でも、そんな言葉はみちこの耳には入りません。 ダッシュでベランダに出ます。 でも、あさがおの花はみんなすっかりとしおれてしまっていました。 みちこは、とっても悲しくなってそのまま泣き出してしまいました。 「みちこ? どうしたの、みちこ?」 おどろいてベランダに出てきたお母さんに抱きつき、思い切り泣きました。 夕方になって、あたりはみんな真っ赤な色になっても、みちこはベランダでずっと しおれたあさがおを見つめていました。 こんなに悲しい気持ちになったのは、生まれて初めてです。 「悲しまないで、みちこちゃん」 突然、みちこの耳にあの女の子たちの声が聞こえてきました。 「ごめんね、みちこちゃん。でも私たち、大人の人に姿を見られちゃいけないから、 夜しか会えないの。本当はまだ早いけど、今日は特別よ」 あさがおの葉っぱのかげから、妖精たちが顔をのぞかせていました。 妖精は、口のところに指をあてて「しーっ」とやりました。 みちこはとってもうれしかったのに、なぜだか涙がいっぱい出てきました。 おしまい
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