空中分解2 #2317の修正
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真実子がアメリカに留学してから半年がすぎた。女手ひとつで育ててきた一人娘 を海外に行かせるのはとても心配だったけど、真実子の熱意に負けたの。今日まで 一通も手紙をよこさないけど、便りのないのがよい便り、って言うから、私はべつ に心配はしてないの。だって、あれこれ考えだすときりがないし、日本にいる私に できることはなにもないから。一年間の語学留学だからもうすぐよ。もうすぐ元気 に帰ってきて、「ハロー、ママ」なんて言うんだわ。英語なんかペラペラなんだか ら。ああ、早く帰ってこないかしら。あの子は私の生きがいなのよ。 「宅急便でーす」 「はーい」 「おくさーん、アメリカからですよ」 「はーい、ちょっと待っててね」 「はんこお願いしまーす」 「ええ、まあ、真実子からだわ。素敵」 「はんこお願いしまーす」 「まあ、なにかしら。楽しみだわ」 「はんこお願いしまーす」 「なにかしら。なにかしら」 「はんこお願いしまーす」 「ワクワクするわ。ドキドキするわ」 「はんこお願いしまーす」 「ちょっと待ってね、待っててよかったわ」 「はんこお願いしまーす」 「真実子、元気なのね。よかった。よかった」 「はんこお願いしまーす」 「確かサイドボードのこの引き出しに、何かしら、中身は何かしら」 「はんこお願いしまーす」 「あら、丸いものね。何かしら。帽子かしら」 「はんこお願いしまーす」 「御免なさいね、宅急便やさん」 「はんこお願いしまーす」 「見つからないの、どっかしまいこんじゃったらしくて」 「はんこお願いしまーす」 「拇印でいいかしら」 「はん…、拇印でけっこうでーす」 「じゃこれね、ここ、はー、よいしょっと」 「ありがとうございましたー」 「ご苦労様」 包みは意外に重かった。私はそれをこたつの上にのせ、お茶を入れにキッチンに たった。なにかしら。なにかしら。 わたしは、こたつに入り一口お茶を啜って渇いた喉を湿してから包みの紐に手を 掛けた。熱いわ。こたつが熱くなりすぎていたので私はスイッチを切った。さあ、 なんでしょ。とそこへ、 「ジリリリーン、ジリリリーン」 電話のベルが鳴りだした。私は立ち上がった。まったくもう、誰かしら。 「はい、榊原でございます」 「ハロウ、サカキバラ」 「あら、え、英語、……ハ、ハロウ」 「ハイ、ハロウ、コチラハアメリカデス。サクラハサキマシタカ」 「イ、イエス、ソチラハ、違うわ。アーユーインナアメリカ。でいいのかしら。 ドンチュウノウアバウトマイドウタアマミコ」 「イエース、ヤアヤア。サクラハチェリーデス。サクランボハスッパイデスネ」 「チェス、ノウ、ノウチェス。あのですね。アイドントプレイチェス。アイエン ジョイショウギ」 「ハイ、モチロンデス。カミサマハアナタノソバニアリマス」 「え、なんですって、キャンユウショウミイハウトウコンタクトウィズマミコ。 マミコハ、マミコハどうしてますか」 「イエス、ワタシハアメリカデス。マミコモアメリカデスヨ」 「はあ、なんですって、あ、英語ね。ハアーイ、ホワットデイドウユウセイ。マ ミコガドウシタンデスカア、ア、ベッグユアパードン」 「ワタシハアメリカデス。マミコモアメリカニナリマシタ」 「え、アメリカジンニナッテシマッタンデスカ、エ、ソチラハドチラデスカ」 「チガイマース、ノウノウ、アメリカデス。アメリカデス」 「あ、やっと話しが噛み合ってきたわ。アノデスネ。アナタアメリカにイルンデ スヨネ」 「アメリカデス。アメリカデス。ビコウズアメリカピイエスアイラビュー」 「まあ、いやだわ。ソンナコトおっしゃらないで、ワタシハ夫がいるのです」 「ソンナコトカンケイナイデェース、オクサーン、ビュテーフル」 「マア、イヤヨン。ソンナコトおっしゃらないで、ダッテ、ダッテ、アタシハオ バサンナノヨ」 「ソンナコトカンケイナイデエス。ハンサムナワタシトケッコンシテクダサイ」 「ダッテ、ダッテ、ワタシハオバサンナノヨ、ウフン」 「ソンナコトカンケイナイです。アナタハトッテモキレイデス。ケッコンシマシ ョウ」 「ソンナコト、ソンナコトキュウニ言われても、家族とも相談しなくちゃならな いし」 「アイラビュウ、ヨウコ」 「イヤン。ミンナトモソウダンシナクチャナラナイデスシ。マミコにも話さなく チャナラないし、え、マミコ、ソウソウ、マミコハどうしてますか」 「アメリカデス。アメリカデスヨ。ヨウコサンモワタシトケッコンシテアメリカ ニナリマショウ」 「アメリカデスね。アメリカになればマミコに会えるんですね」 「イエース、カゾクグルミノオツキアイ」 「ワカリマシタ。ケッコンシマショウ。淋しかったの。本当はワタシトッテモ淋 しかったの」 「アメリカノパトマックリバーノソバデ」 「夫を亡くしてからずっと一人ぼっちだったの。マミコを育てるのでセイイッパ イだったの」 「アメリカノベネズエラノトランジスタデ」 「ああ、マタシアワセナヒビガ戻ってくるのね」 「アメリカノイッカクジュウノキバデ」 「ああ、もう一度シアワセナ家庭が作れるのね」 「アメリカノ」 「マミコモ帰ってきて」 「アメリカニヨル」 「ワタシハステキナガイジンさんとコクサイ結婚」 「アメリカノタメノ」 「ああ、なんてシアワセナのかしら」 「アメリカ」 「アメリーカ、違うかしら、アメーリカ、カシラ」 「ジャア、キマリデスカラネ」 「エエ、ワタシハアナタノツマニナリマス」 「ジャ、コレカラムカエニイキマス」 「ハイオマチシテオリマスワ」 「ハクバニノッテハンサムナワタシガムカエニイキマス」 「ステキ、コレデゴキンジョノ皆さんをミカエスコトガできるわ」 「デハ」 「デハ」 ああ、しあわせだわ。これまでずっと苦労して頑張って来たかいがあったわ。真 実子だって、反対なんかしないんだから、きっと、お父さんができて大喜びするの よ。あら、真実子はどうしているのかしら。聞きそびれてしまったわ。そうそう、 なんか送ってきたんだっけ。ええと。ごそごそ。あら。 中から出てきたのは大きな缶だった。剥がれかかったラベルを読む。それは業務 用のトマトケチャプのようだった。ただそれは既に一度開缶されていた。そして、 トマトにしては重すぎる。 「ごめんください」 まったく誰かしら。 「はーい」 「こんにちは、郵便です」 「なんだ、そこのポストに入れてくださいよ」 「あ、ポスト、これか」ゴソッ。「はい、入れました」 「どうもありがとう」 「どういたしまして」 まったくもう、変な郵便屋さんね。アルバイトなのかしら。よいしょ、と立ち上 がって、玄関にいく。郵便受けに半分見えている手紙を引き抜く。アラ。抜けない。 顔を上げると、玄関のすりガラスの向こうに人影がある。どうも、その人がこの郵 便を掴んでいるらしい。 「どなたですか」私は声を荒げた。「なにか御用ですか」 「なにって、私は郵便配達人ですよ」 「え、どうしたんですか」 「手紙をポストに入れました」 「はあ、そしたら、手を離していいんですよ」 「なるほど、じゃ、そういうことで」 「はい、ご苦労さま」
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