空中分解2 #2313の修正
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4.捜査一課にて 「全く、どうにもならない事態なのか……! どうにかならんのか!」 と、課長がまた、怒鳴った。 トワイライトが予告状を出してきた直後、その日である。 もう、5時か、6時にはなっているだろう。 捜査一課も、中年の古株は、さっさと今日の報告書を提出し帰ってしまってい て、人がまばらで、さすがに動きやすくなっていた。 そして、ずっと愚痴を呟いているのが、あのユニークな予告状を類から受け取 った塚川課長である。 「課長」 と、庄内刑事が口を挟んだ。「しょうがないじゃないですか、予告状がもう来 てしまった後で」 「いや、しかし、今度、狙おうとしている物は『女神』なんだぞ! あれは博物 館行きぐらいの秘宝なんだ!」 「それは、よくわかりますが……」 「うむ。そうか。私のように中途半端に責任のある立場だと、大変なのだ。 ……おっと、新聞記者の奴らには、嗅ぎつかれていないだろうな?」 課長が声を潜めて、庄内に問いただした。 「はい。今の所はまだ……。でも、時間の問題でしょう」 「今、嗅ぎつかれていなければいいんだ。どうせ、『トワイライト』から予告状 が来たと分かれば、記者会見で『意思表明』とか『傾向と対策』とかを発表しな きゃならんに決っとる。その辺りは、しっかりコメントしとかんと国民から非難 の声が上がる。しっかりやっておけば、たとえ『女神』を盗まれても、言い訳が できるというものだ。----その辺、警視総監も同意見だ」 「あ、成程……」 庄内がうなずくと同時に、課長は自分の机の上をさっさと片付け始めた。 「あの、課長、もうお帰りに?」 「後は適当にやっといてくれ。近代美術館の方で集会があるのだ。勿論、あの 『女神』と『トワイライト』についての緊急会議としてな。その中に捜査一課 の代表として、私が選ばれているのだ」 そう。今や、その近代美術館の方の館長や関係者達は、警視庁から極秘に『ト ワイライトが女神を狙っている』との連絡を受け、大騒ぎだった。 宝石、約2000個が『宝石の河』に入るのが、約一週間後。 その宝石は護送車で送らなければならない。 日にちをずらそうか、との声もその日の内に上がったが、結局、狙われるのは 同じだし、2000個の送られて来る宝石を見物しに外国の要人も来るとの理由 もあって、お流れになった。 しかし、近代美術館当方などの警護や輸送の手続きなどは、いっそう、厳しく なることだろう。 「へ? ……なあんだ。さっきから愚痴を聴いてて損しましたよ。じゃ、課長、 やる気あるんじゃないですか!」 「何を言う。いやいや、だ!」 課長はジロリと庄内をにらんだ。「何かいい対策案でも出れば、やる気も起こ るかもしれんがな」 課長が帰るためにノブを回そうとした途端、外側からノブがクルリと回った。 「あら、庄内さんに、課長、どうしたんです?」 美香江はにこやかに微笑みながら、課長と庄内を見比べた。 ----そのドアの外側から姿を覗かせたのは、長井美香江刑事であった。 美香江刑事----彼女は、別口の殺人事件の聞込みに回っていたのだ。 この笑顔だと、何か収穫はあったらしい。 いかに秘宝中の秘宝、『女神』を狙うトワイライトとはいえ、警察の仕事とは それだけではない。 『トワイライトの傾向と対策』について多少は話し合ったが、とりあえず今日 の所は、お互いノーコメント。 本格的な話合いは、きっと明後日になるだろう。 各自、抱えている事件というものがあるのだ。 課長は、各自、最適と思える警備体制をできれば、練ってきてほしい、と発言 していたが、これは、きっと『逃げ』の戦法だ、と美香江は確信していた。 前回、課長自身が指揮をとった事件で、すべて『トワイライト』に裏をかかれ ていたせいである。 しかし、どうあがいても、『特別捜査本部』成るものを本格的に開設しなけれ ばいけないようである。 「ああ、長井さん」 庄内は、困りきったような顔をして課長から離れた。 「どうにかなりませんかねえ、全く。課長は、あの通りだし……」 庄内は、『まるで、やる気のない課長』が、早々と去って行く姿を眺めながら 言った。 「半分、現実逃避してますね、あれは。やる気があるんだか、ないんだか……」 「誰しも、責任という重荷が嫌になる時があるわ」 珍しく美香江が、教訓めいた事を呟いた。 「----それはさておき、どうにかするには、やはり、『トワイライト』を阻止す る万全な計画を立てなければいけないでしょうね」 美香江は軽く、いかにも簡単にもっともらしく言ったつもりだったが、庄内は それに、いたく感銘を受けたようだった。 「やはり、阻止ですか! いや、私と同じです!」 そんな事は、どの刑事にでも解りそうなものだが。 「今度こそ、私が『トワイライト』を捕まえてやる! 見ててください!」 と、やおら、盛り上がっている。 「勝手にして」 美香江は、ため息をついて自分のデスクについた。 ギイ、と捜査一課のドアがまた、開いた。 佐山刑事だった。 美香江は、顔を上げた。 「あら。お帰り、佐山君。あなたも張り込みだったの?」 「聞き込みで。似たようなもんです」 佐山は疲れたように、美香江の隣のデスクに座った。 そして、思いだしたように、 「あ、そうそう。鑑識から、トワイライトの予告状を調べた結果が出たんですが」 佐山は手に持っていた、大判の封筒を見せた。 「あら、早いわね、珍しく」 「トワイライトに関する事ですからね。他の件は後回しにして調べさせたんです」 「そう。課長に提する前に、ちょっと私に見せて」 美香江は、封筒を受け取った。別に、封もされていないのだから、課長より先 に見たって、悪いことはない。 報告書らしき紙を取り出し、字を目で追ってから、眉をひそめた。 そして、呟くように言った。 「----駄目だったようね。指紋も課長のしか、検出されなかったってあるし。予 告状は、名刺ぐらいの上質紙。字はワープロらしかったけど、よく売れている種 類でもあって、予告状からの手掛かりは、なし、か……」 「ええ。カツどんの方も一応、調べたらしいですけど、指紋は全く、発見されな かったとか……」 「そうでしょうね。トワイライトはそんなに、馬鹿じゃないもの」 美香江は、いまいまし気に、パシッと爪で報告書を叩いた。 その時----。捜査一課のドアがスッと開いた。 こんな所には、およそ、不似合いな人物----。 髪は豊かな金髪で、堂々とした体格。そして、外国人特有の白い肌。 それに気づいて、驚く様もなく、その人物に声をかけたのは、美香江だった。 「あら……お帰りなさい。他の警察署は見てきたの?」 「ええ」 その人物----(男だ)は、微笑んで言った。「さすがに、日本の警察は優秀で すね。規律が正しいときている」 滑らかな日本語で、英語なまりは、殆どない。 この男は、言うまでもなく、外人----アメリカ人である。 ここ、一週間ぐらいから警視庁捜査一課に身を置いている。 つまるところ、アメリカから日本の警察を見学に研修に来たのだ。 名前はラルディ・クルー。歳は25、6という所か。研修、というだけあって、 まだまだ、若い。 研修に選ばれるだけあって、アメリカでも有能な刑事として、活躍、仕事も実 に素早く機敏に済ませる。 「ところで、ですね……」 ラルディが美香江に容れて貰ったコーヒーをゆっくり、飲み干しながら切り出 した。 「今、確かトワイライト……って言ってましたよね?」 美香江は驚き過ぎて、あやうくコーヒーを吹き出しそうになった。 「あ、あら、どうして?」 と、わざとらしく聞く。 「隠さなくてもいいですよ」 ラルディはそう言って、 「さっきの内容は、ちょっと外で聞かせて貰いましたからね。あれだけの声です から。十分、聞こえました」 「そうなの……」 美香江は、諦めたように言った。 「別に隠しておくつもりじゃなかったんだけど、課長がうるさいのよ。あ、警視 総監もだけど」 課長や警視総監の言い分では、ラルディは日本の警察を研修中なのだ。だから、 妙な事に巻き込んで、国際問題に広がると、まずい、というものだった。 ラルディは、青い瞳をまっすぐ美香江に向けた。 「トワイライトのことは、母国の方でも有名になってきています。一体、何が……」 「実はね----。あ、その前に、近代美術館で宝石の河っていう美術品ができるの、 知ってる?」 「ええ、知ってますよ、勿論」 ラルディはうなずいた。「あの『女神』という美術品を日本が請け負ったもの だとか。さぞ、立派でしょうね。あれは。特に『女神』が」 「そう! その、『女神』なんだけど。それが事もあろうに、トワイライトに狙 われるらしいの」 「トワイライトに!?」 ラルディは心底、驚いた様子だった。「あ、あの『女神』を?」 「そうなの。また、予告してきたのよ」 美香江はお手上げという感じに肩をそびやかせてみせた。 「そうですか……あの女神を狙って……ね」 考え込むようにしてラルディは、顎に手をあてた。「----美香江さん」 ラルディは何事か決心したようだった。 「は? 何?」 「その『女神』の件に僕も、加わらせてくれませんか?」 「ええっ? でも、これは極秘だったのよ。本当だったら、あなたにも知らせち ゃいけなかったの。警視総監から、他国から来た研修中の刑事に余計な迷惑をか けるなって……止められてるのよ。……大体、あなた、もう研修は終わりに近い じゃないの」 「それぐらい、引き延ばせますよ」 「だって……それに、トワイライトだって、近々と予告して来ただけで正確には いつ狙ってくるのかも……」 「それだって、せめて一ヶ月以内でしょう」 「うん……それは、そうだけど……」 美香江は思いきり、渋った。なにせ、警視総監にも言われていることなのだ。 「だったら、何とかなります。ご心配なく。僕にも是非、やらせてください。で は、警視総監に頼んできますから」 ラルディは、きっぱり言いきり、美香江はため息をついた。 不用意に大きな声で話すんじゃなかったわ! まあ、この意気込みは、私としては嬉しいんだけども……。 課長が、なんて言うかなあ。何せ、あの石頭だから! しかし、それはともかく、宝石の河(『女神』)の一般公開まで約一週間。 「明日、すぐにでも本腰を入れないとねえ……。でも、課長、本当にやる気ある のかしら?」 不安気に美香江は首を捻った……。 <続く>
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