空中分解2 #2307の修正
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9 あけみさんが戻ってきた。 「すみません、一本頂いてます」 「どうぞご自由に。私も一本飲もうかしら。ティークオリティのミルクはある?」 私はそれを探して、あけみさんに渡した。あけみさんはカウンターに腰を下ろした。 「一か八か外に出てみようと思うの」 私は驚いてコーヒーを吐き出すところだった。 「で、でも」 「わかってるわ。ねえ、私の考えを聞いてくれる?おかしなところがあったら言って ちょうだい」 私はうなずいて、あけみさんの顔をみつめた。 「ずっと考えてたのよ。おかしな事になったのは雨が降り出してからよね。大宮がこ こに来たとき言ってたわ。このドライブインから2キロくらいのところで急に降り出し たって。 ひょっとしたら、雨が降っているのはこのドライブインを含めた何キロ四方かの地域 だけじゃないのかしら。そして、この雨の中と、雨の向こうとははっきりと境界が別れ ているのよ。 雨の向こうでは確かに何かが起こっているわ。戦争かもしれないし、怪獣が上陸した のかもしれないし、原発事故かも知れないわ。でもそれはこの際問題じゃないの。それ がなんであれ、雨の中はそれから隔離されているということが問題なの。 あの自衛隊員は間違いなく、雨の向こう側から来たのね。彼が必死で行くなと言った のを憶えているでしょ。向こう側から決死で脱出を測ったのか、偶然ここに着いたのか はわからないけど、ここに着いた途端に、雨の中が一種の安全地帯だってことに気付い たんだわ。 のりちゃん達も一度は間違いなく、雨の中から出たんだわ。だけど、その瞬間に何か が起こったのよ。のりちゃんに起こったことを考えると、あまり想像したくないような ことがね。のりちゃんは必死でここに戻ってこようとしたのよ。しげさんと自衛隊員が どうなったのかはわからないけど」 私は考え込んだ。もし、その通りだとしたら、車が全然来ないことが雨の向こう側の 状況をある程度物語っている。地震や原発事故や戦争などなら、人々は避難しようと四 方八方に逃げ出すだろう。当然、何人かはこちらにやってきてもいいはずだ。ところが 誰も逃げ出してこない。考えられるのは二つだ。誰も逃げ出すことができない理由があ るのか、人間が全く消えてしまったかだ。 私がその考えを口にすると、あけみさんも頷いた。 「確かにそのとおりね。住民が避難しているとして、自衛隊や警察の手で避難経路が 決まっているのかもしれないわね。それがこっちの方じゃないだけなのかも」 それとも雨の向こう側に、異次元の怪物が出現したのかもしれない。人々はそれと戦 うのに必死で、雨の中にまで頭が回らないのかもしれない。私は頭に浮かんだB級映画 のような考えとは別のことを口にした。 「でも、それならどうして、外に行くんですか?ここにいた方が安全なんでしょ?」 「いつまでもここにいるわけにはいかないわ。食料も尽きるだろうし、水もなくなる わ。雨水を集めて飲むのはぞっとしないしね。のりちゃんも医者に見せたいし」 「でも…」私の声をあけみさんは遮って、床に倒れている大宮と、ぶつぶつ呟いてい る阿部を指さした。 「もうひとつの理由があれよ。大宮は目を覚ましたら、怒り狂って私たちに襲いかか ってくるわ。阿部はあのとおり当てにならないし。その前に何とかしなくちゃ。 もちろん、できる限り危険はさけるわ。ゆっくり進んで、雨が切れる直前まで行くの よ。そこから雨の向こう側を観察して、何が起こっているのかを確かめる。全てが私た ちの思い過ごして、平常通りの世界が広がっていたら、助けを求めればいいわ。 もし、戦争か何かでも助けを求めることはできるわ。原発事故なら早く避難しないと 危ないし。 万が一、とんでもない危険な状況が雨の向こう側で進行中ならすぐに戻ってくるわ。 それでも、何が起こっているのかだけはわかるし」 私はまだ反対だった。外に出れば取り返しのつかないことになるような気がした。い つまでもここにいるわけにはいかない事はわかっている。何も異常な事などないという 可能性もある。全てが笑い話ですむかもしれない。しかし、理屈でわかっていても不安 は消え去らなかった。 それを無理矢理抑えつけて私は訊いた。 「どうやっていくんですか」 「レインコートを着て、自転車でいくつもり。ライトもついてるし」 「私のバイクを使って下さい」 「駄目よ。私はスクーターしか運転ができないの」 「じゃあ、私が行きます。その方が速いし」 「駄目よ」あけみさんは繰り返した。「雨が降ってるのにバイクは危険よ。それに音 で何かを呼び寄せるかもしれないでしょ」 「でも…」 あけみさんはわたしの肩を叩いた。 「大丈夫よ。自転車ならふもとまでいったとしても1時間。多分そこまで行く必要は ないと思うわ」 「どうしてですか?」 「あの爆発らしい煙を憶えてるでしょ。ここからあそこまでは4キロくらいなのよ。 そこまで行けば何かわかると思うのよ」 どうしてもやる気らしい。私はとうとう頷いてしまった。 「わかりました。でも気をつけて下さいね」 「ありがとう。私が留守の間、のりちゃんを頼むわ」 あけみさんはすぐに準備にとりかかった。阿部のレインウェアを拝借して、身につけ た。果物ナイフを護身用にポケットに入れた。それから阿部のフルフェイスのヘルメッ トをかぶった。 私たちは外に出た。私は傘をさして、あけみさんを自転車置き場まで送った。 あけみさんは自転車を引き出した。タイヤとチェーンを調べる。古ぼけてはいるが、 何とか動きそうだ。 「じゃあ、行ってくるわ。うまくいけば2時間で帰ってくるから」あけみさんはにっ こり微笑んだ。 「気をつけてください。すぐ戻ってきて下さいね」 「わかってるわ。待っててね」あけみさんは雨の中に自転車をこぎだした。ゆっくり と駐車場を横切った。国道に曲がろうとして、あけみさんは私の方を振り向いた。小さ く手を振ると、国道を走りだした。自転車のライトが遠ざかり、やがて私の視界から消 え去った。
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