空中分解2 #2257の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
アルバートが、草原を抜け山地に入ると、急に寒さが増してきた。地図では、この 山道を越えれば敵の村が見えてくるはずだ。山道がきちんとあるものの、他は岩肌が ごろごろとしており、整地しても、恐らく堅い岩が邪魔で農作物は育たず、人が住め ない場所であろう。 辺りは静けさを増し、夜は刻々と大気に闇を溶け込ましていく。 隠密行動の為、移動は夜に限る。偵察隊の鉄則でもあった。 人の気配に注意しながら歩いていくと、山肌にわずかにできた平地に木の家が建っ ているのが見える。窓には明かりがともり、煙突からは煙がもうもうと出ている。 アルバートはとっさに岩陰へと隠れ、遠眼鏡を懐から取り出す。 レンズの焦点を合わせ、窓の付近を覗く。 しばらく見ていると、人影が窓の方へと寄っていく。ちらりと頭が見える。 「黒髪か」 アルバートはとっさにそう呟き、ほっと胸をなで下ろす。敵種族との区別の方法は 髪の色だ。何回かの偵察により敵は赤毛であるという事実をアルバートは知っている。 というより、これは常識に近いものがある。敵の来襲や実戦をつんだ者ならば誰も が知っていることであった。だから、偵察隊は常に帽子を被っている。敵に悟られな い為である。 アルバートは、情報を得る為にその家に行くことにした。同じ仲間ならば協力は惜 しまないだろうと考えたのだ。 コンコンと、二、三回ノックをする。 「なんだい?こんな夜遅くに」 中からは、少しくたびれた感じの三十代の男が出てきた。 「こんばんわ。夜分遅くにすいません。おれ、ミスリルの村の本部の偵察隊のアルバ ートと申します。この先の村のことで情報を得たいと思いま……」 ばたん、とアルバートの挨拶が終わらないうちに戸が閉められる。 「ちょっと待って下さいよ。あなた『レス』の種族の方でしょ?おれもそうです。す いません、帽子を脱ぐの忘れてました。開けてください。……今度この先の村を攻め るかもしれないんで、調査に来たんです。あの……」 その言葉に再び戸が開く。だが、家主の顔は穏やかではなかった。 「ちょっと入れ!」 家主がアルバートの手を引っ張る。急に引っ張られたものだから、戸の敷居につま づき転びそうになる。 「なんですか?いきなり」 「この先の村を攻めるというのは本当か?」 家主は真剣な眼差しで問う。 「いや、その…調査次第らしいんですが」 アルバートは、急な質問に戸惑いながら答える。 「そうか。じゃあ、頼みがある」 「なんですか?」 「このまま帰ってくれ」 家主の顔があまりにも真剣だったので、アルバートはそれが冗談ではないことがわ かった。 「なぜですか?敵なんですよ。あなたは悪魔の種族に味方をするのですか?」 「ふっ…悪魔の種族か……お笑いぐさだよ、まったく」 家主は、顔をゆるめて軽く嘲り笑う。 「あなたは自分が何を言ってるかわかってるんですか?」 アルバートは、興奮しながらその男にそう唱える。 「その言葉、そのままおまえにかえすぜ!」 アルバートは、ハインツと名乗った先ほどの男の言葉を思い出しながら敵の村へと 向かっていた。 この山地が昔、豊かな平原で敵の種族が暮らしていたという。ところが、『魔災』 により、マグマが吹きだし一瞬にして村は消滅し、あとには死の山ができたのだと。 そして、その『魔災』を起こした人物が、あの家主の男であるYということを。 「神への信仰心が深ければ深いほど、神の声が聞こえてくる。そして、その声に耳が 届くものは、偉大なる力を手にいれることができる」 「それぐらい知ってますよ。大いなる大地を整え、命の水を操る力でしょ?」 男の語りに、そう言葉を添えたアルバートであったが、それ以外の真実を知る事に なってしまった。 「偉大なる力は、それだけではない。神は、種族の繁栄の為にその力を与えたという が、それは違う。同時に破壊の力を我らに与えたのだ。それが『魔災』と呼ばれる狂 気の力だ。大地を裂き、洪水で大地を沈め、炎を操り村々を焼き尽くし、人々を殺戮 者と仕上げる。破壊はすべてを無に帰すだけだ。そんなものを神が与えるか?もはや、 あれは神ではない」 「そんなの嘘だ!神は、我が種族の繁栄の為に最善を尽くしてくれてる。破壊を行っ ているのは、悪魔の種族だけだ。それに戦争は、破壊ではない。新たに開拓する為に、 敵から奪還する聖なる戦いだ!」 アルバートの反応に、男は信じるも信じないもおまえの勝手だと言った。 そして、何が正しく何が悪なのかを自分で見きわめろ、と言ってアルバートを追い だした。 「おまえはまだ若いのだから」という言葉をつけ加えながら。 アルバートは、男の話を信じるわけにはいかなかった。今は、大切な任務遂行中で あるのだ。下手な迷いは、行動に支障をきたす。 だが、そう思い込もうとしながらも、完全にはふっきれなかった。 今まで自分の信じていたものに、疑惑の文字がつきまとうのだ。それは同時に、自 分の存在価値さえも危うくさせている。 「本当に正しいもの……」 口の中で何度も呟き、アルバートは自分に問いかける。しかし、答は決まっている はずだ。誰もが信じて疑わない答がある。 だが、その答は心の中にわだかまりを残すだけだった。 悩みながらも歩みは確実に、敵の村へと近づいている。アルバートは、立ち止まっ て心のもやもやを消したい気分であったが、今はそんなことをしている余裕がない。 一刻も早く、情報を本部に持ち帰らなければならないのだ。 峠を越えて、数刻歩いた所で村の明かりがぼんやりと見えてくる。 小さな明かりが、3つ4つ。 明かりを消している家をいれても10件にも満たない小さな村であろう。 アルバートは、日の出に備えて、昼間でも村を観察できるような場所を探し、そこ で朝を待つことにした。 朝鳥〔あさどり〕の声が耳にこだまする。 甲高い鳴き声で、朝を告げる山地の小鳥である。 柔らかい朝日は、アルバートを優しく眠りからさまし、時を告げる。 背負い鞄から堅パンとチーズを取り出すと、水筒の水を飲みながら朝食を取る。そ して、朝日の位置を測ると、地図とにらめっこしながら現在位置を書き込んだ。 朝食を食べ終わり、ひと休みすると、鞄から取りだした遠眼鏡で村の様子を観察す ることにした。。 村の規模は予想通りかなり小さいものであった。木造りの家が8件、人口も30人 ほどで、軍らしきものは存在しない。 村人はのんきな感じで、赤毛であるという以外は、アルバートの育った村となんら 変わりなかった。 これならば簡単に攻め落とすことができるだろう。そんな考えが頭にふと浮かんだ。 しかし、その考えを心の中で消化しかけた途端、アルバートは自分自身に恐ろしさ を感じるようになった。 たしかに敵は悪魔の種族なのだから、滅ぼすのに情けは禁物だ。 「だけど、それでいいのか?」 アルバートは自分の考えに怖くなり、口に出して自問する。 「いや、敵が滅びるのは自業自得なのだ。おれたちに酷い仕打ちをしてきた報いなの だ。だから…だから……」 風は鋭く舞い、空は轟轟たる涙を流す。 嵐。 だが、『魔災』ではない。自然の驚異が大地に牙を剥いてるだけだ。 情報収集が終わり、アルバートが本部に戻る日は最悪の状態であった。 アルバートは山の梺まで来て、今、峠を越えて行くのがどんなに危険かを悟った。 荒れ狂う風雨は、地盤をゆるめ土砂崩れを起こす。特にこの山は乾燥した土砂のた めにかなり危険であった。 アルバートは暦を確認し、侵攻の日まではまだ少しだけ日にちがあることに気づく。 無理に行って命を落とし、情報を伝えられないよりは、多少遅れても確実に情報を持 ち帰るほうがいいだろうと判断し、どこかで嵐の過ぎるのを待つことにした。 風の強さは刻々と強さを増し、ついには雷をも呼び込んだ。 空が裂け一筋の閃光が、近くの大木に命中する。 雷に砕かれた大木の破片が炎をはらみ、アルバートめがけて落ちてくる。 アルバートは、それを避けようとするが、石につまずき地面に倒れてしまう。だが、 あきらめず、とっさの判断で身体を右にひねった。 右足に激痛が走る。 直撃は避けたものの、ひねりが足りずに右の足首に破片がぶつかったのだ。 足を抱えながら、痛さをこらえようとするが、我慢できるものではなかった。足首 そのものは感覚がなくなっているのだが、中から熱くなるように神経が痛みだけを脳 に伝えている。 とりあえずころがりながら、近くの岩肌にある少しえぐれて、雨をしのげそうな場 所へと移動する。立てずにころがりながら行ったものだから、全身が泥だらけになっ ている。だが、そんなことはかまっている暇はなかった。 痛さと疲れで、目的の場所についた途端、アルバートは気を失ってしまった。 次の朝、嵐は去り、澄み切った青空が広がっていた。 しかし、そんな天気とは裏腹にアルバートの体長は最悪だった。 右足がじんじんと痛み、全身寒気がする。濡れたまま一晩いたので風邪をひいたよ うだ。 視界はぼんやりとし、頭もがんがんと痛い。 ぼーっとしているアルバートの頭の中に何かが浮かんでくる。 ぼやっとした黒い人影が段々と近づき、微かに甘い香りがしてきた。 誰だかわからないが、何か懐かしい感じがする。なぜか、そう思っていた。 人影がだんだんとはっきりしてくる。柔らかい肌、優しい瞳。 「…ママ……」 アルバートは、いつの間にか声に出してそう呼んでしまった。 「かわいそうな子。アルバート、あなたは生まれてはいけなかったのよ。生まれなけ れば、こんな苦しい目に合うこともなかったのに……」 優しい目が、急に悲しげになる。アルバートを見据え、柔らかい腕で頭を撫でてく れる。 急に頭の中が真っ暗になる。もう誰も見えない、誰も感じられない。 アルバートは、必死で鳴きながらそう叫ぶ。叫んだつもりだった。 「……ママ……ママ、行かないで……」 だが、もう誰も答えてくれるものはいなかった。 ネオ・ポピュラス(3)へ
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE