空中分解2 #2239の修正
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野生児ヒューイ 第一部(2) 悠歩 「そんな…」 ティナ達がどのくらいの時間を眠っていたのかは、分からない。しかし、ティナに とって研究所の周りの風景を最後に見たのはほんの数時間前のことである。 そのときにはこの研究所は小高い丘の上にあり、周りには緑豊かな広葉樹が生い茂 り、その先にはティナの住む閑静な住宅街が見えていた。 だが、その研究所は風化して幽霊さえ住み着かないような赤錆の固まりと化し、そ の上に積もった土には様々なシダ類が生い茂っていた。 そしてその場所はティナの記憶よりも、三倍は高い崖の上に位置していた。 この土地の隆起が、ティナ達六人以外のカプセルで眠っていた人々の生命を奪った 犯人だろう。 そして、ティナ達の眼前には果てしなく地平の彼方まで広がる密林があった。 それはティナの知っている広葉樹の森ではない、熱帯樹であった。 ティナと父の住んでいた家も、よく遊んだ公園も、たくさんの友達がいた学校も、 すべては密林に飲み消されていた。 ティナの受けた衝撃は並大抵のものではなかったが、それはアルトマン達生き残っ た他の人々にとっても同じことだった。 だが彼等は、ティナがただ茫然と立ち尽している間に研究所の中を調べ、これから の彼等にとって必要と思われるものをかき集めていた。 研究所の傷みかたは、彼等の予想していたよりも遥かにひどく、六人が生き残った だけでも奇跡といって良かった。 彼等以外にこの世界に人間が生き残っているのかどうか疑わしいが、それを確認す るための通信機はまるで使い物にならず、いざというときの護身用の銃もどうにか使 えそうなのは小型の拳銃が二丁、弾は1ダース、薬品類もない。 何よりも切実に困ったのは食料だった。 この研究所には、常時、百人の人間が1ヶ月食べられるだけの非常食が用意されて いたのだが、それが缶詰めの缶ごとすべて風化してしまっていた。 「とにかく…これ以上ここにいても仕方無い」 重々しい空気のなかでアルトマンが口を開く。 彼はまだ26歳であったが、生き残った四人の男のなかでは一番年上だったことも あり暗黙のうちに六人のリーダー的存在になっていた。 彼等六人は意を決してジャングルの中へと入って行った。 「ギャーキャー」 「ウオーン」 あちらこちらから、様々な獣や鳥達の鳴き声が聞こえてくる。 「チイッ! ここは本当にアメリカなのか!」 誰かが忌ま忌ましそうに呟く。 当然ジャングルの中に路などはなく、彼等は細い獣道を一列になって進んで行った。 頻繁に木々の枝に行く手を遮られたが、それを降り払うナイフもなく、生い茂った 草むらの中を迂回することを余儀無くされた。 「とにかく何処か、キャンプの張れる場所を捜そう。後のことはそれから考えよう」 疲れ切った皆を励まそうと必要以上に元気な声でアルトマンが言った。 常に研究所で己の研究に没頭する日々を送っていた彼等にとって、この行軍はかな り辛いものがあった。 まして、ティナのようなどちらかと言えばおとなしく、普段は家のなかで料理や裁 縫をすることを好んでいた少女には想像以上のものであった。 だがティナは、『もしかしたら、パパも私と同じようにコールドカプセルの中で眠っ ているかも知れない』と、その思いに希望をかけ何とか行軍について行った。 しかし彼女の父が生きている可能性は限り無くゼロに等しい。 ティナ達の眠っていたカプセルは、本来外に取り付けられたセンサーに直結してお り、外が人の生きられる環境になったとき直ちにカプセルの中の人間を解凍し、蘇生 させる仕組みになっている。 それが、外がこのようになるまで作動しなかったのは明らかな異常である。 他のカプセルの惨状からして、カプセル本来の限界以上の時間が過ぎていたのだろ う。そのなかで六人が生き残っていただけでも奇跡である。 仮に、ティナの父が同じようにカプセルのなかで眠っていたとしても、そのカプセ ルが正常に動いていたとしたら既に目覚めている筈である。 もし目覚めているとしたならそれはティナよりも何十年、いや、場合によっては何 千年も前のことである。 それよりもティナの見た多くのカプセルのような惨状にあっているかも知れない。 やがて彼等は小さな広場のようなところに出た。 「よし、とりあえずここにキャンプを張ろう」 まず、アルトマンが木の枝を使って地面の上に図面を書いた。 それはうる覚えであったが、以前テレビで見た何処かのジャングルに住む人々の小 屋の図であった。 早速、彼等は作業に取り掛かった。と、行っても必要な工具はおろかナイフの一本 もない。 各々にナイフの代わりになりそうな石を拾ってきたり、力任せに枝を折ったりして で、作業は思いほかはかどらなかった。 もちろんティナとて子供だからと言って休んでいる訳には行かない。 研究員のなかでただ一人生き残ったキャサリンと言う女性と共に、近くの草むらで 小屋の骨組みの枝を結ぶのに使えそうな蔓を捜していた。 草を手で掻き分けながら、ティナは自分の袖が汚れぼろぼろになっているのに気付 いた。 よく見るとそれは袖だけではなかった。 父に買ってもらった、お気に入りのチェックの模様の入ったワンピースの全て、黄 色のスカーフに至るまであちらこちらに引っ掻けて出来た裂け目が入っていた。 「?」 暫く自分のぼろぼろの姿に何か悲しい思いを感じていたティナは、ようやくキャサ リンもまた、何かに気を取られ動きを止めていることに気が付いた。 「キャサリンさん? どうかしたんですか」 「あっ、ティナちゃん」 不意に声を掛けられ、少し驚いたようにキャサリンは振り返った。 「何かそこで動いたような気がしたの」 そう言ってキャサリンは前方に茂っている灌木のほうを指さした。 「えっ?」 ティナは恐る恐る、その指さす先に視線をやった。 このような状況下である、どんな猛獣がいても不思議では無い。 しかし、あれからどれ位の時間が経っているのか分からないが、ここはアメリカで ある。 少なくともティナはこの国に猛獣が生息しているなどという話は知らなかった。 おそらく、キャサリンの見間違いか、風の悪戯か、あるいは何かの小動物かも知れ ない。 暫く二人は黙ってその灌木の辺りを見つめていた。 だが、何かがいるような気配は見られなかった。 「何もいないみたいだわ。きっと、キャサリンさんの気のせいよ」 「え、ええ。そうみたいね」 二人は再び仕事を始めようとした。 「ウーッ」 今度は確かに低く唸るような声が聞こえた。 「!」 二人はほとんど同時に顔を上げ、先程の灌木のほうに目をやった。 「ガーッ」 身も凍るような雄叫びと共に巨大な人型の怪物が二人のほうを目掛け飛び掛かって きた。 「!」 ティナは声も出ず、動くことも出来ず、その場に立ち尽した。 「ティナちゃん、危ない!」 怪物のまるで鉈の様な五本の爪が、ティナの体を引き裂こうとした瞬間、寸前のと ころでキャサリンがティナの体を突き飛ばした。 「あうっ」 ティナはそのまま、横に飛ばされ近くの木の幹に強く背中を打ち付けた。 一瞬、呼吸困難となったティナの目にはチーズケーキにナイフを入れるように切り 裂かれて行くキャサリンの無残な姿であった。 「あ…キャサリン…さん」 自分の代わりに絶命していくキャサリンの姿を見ながらティナは何も感じる事が出 来なくなっていた。 「私…きっと…まだ、夢の中にいるんだわ…」 そのまま地面に座り込み、そんなことを呟いていた。 「お嬢さん! ティナお嬢さん、大丈夫ですか?」 アルトマンが駆け寄ってきて、ティナに声を掛けた。 「だいじょうぶ… 私はだいじょうぶよ、アルトマンさん」 抑揚の無い声でティナが答えると、アルトマンは怪物のほうを見た。 「畜生! この化け物め!!」 ばらばらに引き裂かれたキャサリンの亡骸を見て、アルトマンは逆上し、怪物にめ がけて拳銃を連射した。 それに呼応するように駆け付けた他の男も拳銃を撃つ。 拳銃を持たない二人も手頃な木の棒を手に、臨戦体制を取ったがこれは気休めにし かならないだろう。 「ガーッ」 3メートルはあろうかと思われる毛むくじゃらの怪物の体に、二発、三発と弾丸が めり込む。 だがさして威力の無い拳銃では怪物に致命傷を与えることは出来なかった。 反って怪物の怒りに火を着けただけだった。 「カチャ、カチャ」 アルトマンの指が空しく引き金を引いていた。弾切れだ。 怪物は己に苦痛を与えた力が無くなったことを知り、猛然と男達の中に突っ込んで きた。 「くそっ! ここまでか」 アルトマンは拳銃を投げ捨てると、近くに落ちていた木の棒を拾い上げ、他の男達 と同じように臨戦体制を取った。 「お嬢さん、ここは私たちが何とかします、早く逃げて下さい」 「でも」 ようやく事態が認識できるようになったティナが、アルトマンの言葉に答えた。 「いいから早く!!」 それはティナの知るかぎり、初めて聞くアルトマンの命令だった。 「わああああ」 次々と男達が怪物の強力な爪の前に、無残な肉塊へと変わって行った。 今や、生き残っているのはアルトマンとティナの二人だけとなっていた。 全身を血で赤く染めながらも、なおも殺戮を続けようと怪物がこちらに向かってき た。 「早く行け!!」 アルトマンの気迫に押され、ティナは駆け出した。 「ぎゃあああ」 後ろのほうから叫び声が聞こえた。 アルトマンの声だ。 「いや、いや、もういや〜!!」 ティナは走りながら泣き叫んでいた。 つづく
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