空中分解2 #2147の修正
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★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ねえ、そろそろお弁当にしない?」 太陽が僕等の真上に差し掛かろうとしたとき、真理子が言った。 「えっ?」 僕の親は決して、特に厳しいほうではなかっ たが、子供だけでこんな遠くまで来ることを許してくれるほど甘くもなかった。 だから、ここに来たことも、親には秘密だった。当然、お弁当なんて用意してきて いるはずがない。 「ウフフッ。だいじょうぶよ」 そんなことを見透かしてか、いたずらっぽく、真理子は、笑った。 「ちゃんと大介君の分も、用意してきたんだ」 そう言って、水色のナップサックから小さな包みを取り出した。 「朝、急いで作ってきたから、あまり、上手にできてないんだけど…」 『あまり上手にできていない』などと言うのにはとんでもない、とても良くできた サンドイッチだった。おそらく、前の晩から下ごしらえをしてあったのだろう。ハム や、サラダ、そして僕の大好きな玉子サンドもあった。 僕たちは、川原の大きな岩に腰掛け、食事にした。 親に内緒で出てきた僕は、朝御飯も抜いておなかがぺこぺこだったので、真理子の てずくりサンドイッチを夢中で頬張った。 あまりにも夢中になって頬張っていたので、途中で僕は喉をつまらせてしまった。 「ほら、慌てて食べるから」 『ごほ、ごほ』 僕は咳き込みながら、真理子がふたを開けて手渡してくれた、オレンジジュースを 飲み干した。 「ふーっ」 僕は大きく息を一つついた。 「へへっ、真理ちゃんのサンドイッチがあんまり、美味しかったからつい、慌てちゃっ て、へへへ…」 我ながら情けないと思える笑顔で、僕は真理子に言った。 静かな午後に、さらさらと流れる川面に、どこからか一匹のギンヤンマがすーっと、 飛んできて、そして、そっと水面を尻尾で叩いていった。 涼しげな風がそよそよと、そよいでいった。 その風が優しく、そっと、少女の長い髪を空に漂わせた。 それは何か、一枚の絵画を見るような美しい光景だった。僕はただ、その姿に見取 れていた。 「どうしたの?大介君」 僕に気付いた真理子が、こちらを見て優しく微笑んだ。 『女の子って、何て不思議な生き物なんだろう』 僕はそう思った。 こんな、大人びた優しい笑みを見せたかと思えば、先程のように突然、理由の分か らないことで怒って、子供のように泣き騒いだり…、僕にはとても理解できない。 でも、僕は、そんな少女がとても好きだと思った。 今にして思えば、それは恋心だったのかも知れない。 「え、ああ…あの、ま、真理ちゃんが、とっても奇麗だなあって、思って…」 言った後で、僕は自分でも驚いてしまって、耳たぶまで真っ赤になってしまった。 『ば…馬鹿、何て事、言ってるんだ、僕は…!』 僕以上に、真理子も驚いたようだった。大きな目を見開いて、こちらを見ている。 『ま、まずいこと言っちゃったかな…』 僕は心のなかで後悔していた。 せっかく、仲良くなった真理子とも、この一言で気まずくなってしまうのではない かという気がした。 大声を上げて、この場から走り去りたい、そんな衝動がこみ上げてきた。 しばらく、そんな間があって、突然、真理子が大きな声を上げて笑い出した。 「あは、あはははは…、やだあ、大介君」 真理子は本当に可笑しそうに笑っていた。僕は、とてもいたたまれなくなった。 「ごめん… 迷惑だったよね」 「違うの、気を悪くしないでね。男の子にそんなこと言われたの、初めてだったから …、 でも、とっても嬉しいわ。ありがとう、大介君」 その一言で、僕は目の前に光が射したように感じた。 「へへっ、そんな。でも、不思議だな。真理ちゃんみたいな子だったら、みんなから いくらでも、『かわいい』とか『きれいだ』とか、言われてても、ちっともおかしく ないのに…」 真理子の言葉に、元気づいた僕は、そんな恥ずかしい台詞を何の抵抗もなく、一気 にはいていた。 僕のこの台詞が、きっと少女を喜ばすに違いない。そんな自信があった。 ところが予想に反して、今度は真理子の顔は悲しげに曇った。 子供ながらにも、女って、なんて分からないものなんだろうと、僕はそのときそう 思った。 そんな僕の、怪訝な顔に気付いたのだろうか、真理子は優しく、しかし何処か悲し げに言った。 「私、あまり学校に行ってなかったから…、体が弱かったんだ」 『!』 どうりで、初めて会ったあの夕暮れ時から少女の姿が儚げに見えたのも、僕の一方 的な思い込みではなかったようである。 「あ、でも今はだいじょうぶよ。ほら、こんなに元気」 そう言って真理子は、腕をくっと曲げて、力こぶを作るような仕草をして見せた。 「さ、おなかも一杯になったし、行きましょうか」 どのくらい歩いただろうか? 川の流れはだんだんと早くなり、道も次第に険しく、子供の足にはかなりきついもの になってきていた。 予想以上に歩は進まず、そろそろ引き返さなければ日のあるうちに戻ることができ ないだろう。 「真理ちゃん」 そのことを少女に告げようと、僕よりやや、前を歩いていた真理子に声をかけた。 「え、? 何か言った?大介君」 額に浮かべた玉のような汗を、右手で拭いながら、真理子が振り返った。 体が弱いと聞かされたためか、少女の疲れ方が異常に感じた。だが、実際には僕の ほうが真理子より先に参っていて、先程から少女に遅れまいと付いて行くのに必死だっ た。 それでもやはり、振り返った真理子の顔色はあまりいいものではないように思えた。 「そろそろ戻らないと、明るいうちに帰れなくなっちゃうよ」 「お願い、もうちょっと。もうちょっとで着くから 大介君、疲れちゃったんだらすこし、休もう、ね、だからもうちょっと」 僕の両肩を掴んで、真理子は哀願するように目を見つめて僕に言った。 「でも…、真理ちゃんの家の人だって心配するだろうし」 その言葉に真理子はしばらく俯いていた。そして不意に上げたその目には、涙が溢 れていた。 「私、行く」 そう言うと、少女は僕に構わず一人で歩き始めた。 『やれやれ』 いつしか僕の心の中にこのわがままな少女に、まるで、自分が保護者であるような 気持ちになっていた。 「待ってよ、真理ちゃん」 真理子は振り返らなかったが、歩く速度を落としていた。真理子が僕の次の言葉に、 何を期待しているのか、僕には良く分かっていた。 「一緒にいくよ。約束したじゃないか」 「でも、大介君だって、遅くなったらお家の人に怒られるでしょ」 僕に背中を見せたまま、拗ねたような口調で真理子はそう言った。 「僕は男だからね。女の子一人を置いたまま、先に帰る訳には行かないよ。 それに…」 「それに…?」 「僕だって、少しでも真理ちゃんと長く一緒にいたいし…」 真理子はさっと振り向いて、目に一杯の涙を浮かべ、しかし、とても嬉しそうな笑 顔を見せた。 そして僕は、この日二度目の少女の抱擁を浮けた。 辺りはだんだんと、オレンジ色に染められてきていた。 先ほどとは変わって、今度は真理子のほうが僕に遅れがちになってきていた。 「だいじょうぶ? 大分疲れてるみたいだけど…」 「だ…だいじょうぶよ。気にしないで」 そうは言うものの、真理子の息は切れ切れで、顔色も悪くなっていた。 「だって、真理ちゃん、辛そうだよ。すこし休んだほうがいいよ」 「平気だって…、きゃ…!」 そう言って更に先に進もうとした真理子が、 突然、ふわっと、僕の視界からきえた。 僕は慌てて、両手を延ばして中に浮いた少女の体を受け止めた。 少女の体は、羽のように軽かった。 「あ、ありがとう」 そう言って僕にお礼を言った後、真理子はパッと、飛び起きて、顔を赤らめた。 真理子を受け止めたとき、僕の手が少女の胸に触れていたのだ。 「あ…あの、ご…ごめん。そ…その、べ、別にわざとじゃ無いんだ」 どもりながら、僕は必死で弁解した。 「うん…。分かってる。ありがとう」 真理子も恥ずかしそうに、でも、とても素直な口調でそう言った。 僕達は、二人とも俯いたまま、しばらくその場に立ち尽していた。 「ねえ…、なにか聞こえない?」 不意に真理子が顔を上げて、僕に問いかけてきた。 「え…」 真理子に言われて、僕は耳を澄ました。 川をさかのぼるにつれて、確かに、それまでとは違う、激しい水の音が聞こえていた。 「川…、渓流の…おと?」 「違うの、もっと良く聞いてみて!」 真理子に言われて、僕は更に耳を澄ましてみた。 しかし、僕には激しい水の流れる音しか聞こえなかった。 「ほら、聞こえるでしょ?」 真理子の目が輝きだした。 「ね、聞こえる。水の湧きでる音!」 「あ」 僕達は互いの手を取り、駆け出した。 そして… ついに、小さくて激しい流れの先に、泉を見つけた。 それは廻りをごつごつした大きな岩に囲まれた、本当に小さな泉だった。 しかしその泉の中央からは、常に、ごぼごぼと音を立てながら、水が湧き出してい るようだった。 「これが…川の…もと…?」 僕は、特に少女に語りかけるわけでもなく呟いた。 「ええ…、もちろんこれ一つが、私たちの町の川の水の全てではないでしょうけれど …、でも…これが…」 そして、真理子はその場に屈み込み、両手で泉の水を掬い上げて口に含んだ。 「つめたい」 真理子はそう言って両方の目から、大粒の涙をぽろぽろと溢れさせていた。そして そのまま、その場に体を崩した。 つづく
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