空中分解2 #2139の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
副題:通信お見合い 男女の比率が歪んでいる。どうして心理科には男性が居ないの。工学科には掃 いて捨てる程居るのに。サークル棟だって、そう。教育学部用のサークル棟には 女性ばかり、工学部用のサークル棟を歩くと私は珍しがられて、でも互いに近寄 り難い。工学部には嫌な思い出もある。新入生の頃の、いわば若気のいたり。誰 にでもあるような事。 大学が東京郊外にあると、合コンのお誘いも面倒になる。はるばる都心まで出 向いてめぼしい相手の居なかった時は虚しくなる。私の足は家と講義棟、そして サークル棟しか行き来しない。退屈しながら半日の講義で今日も終え、こうして 私は全ての男性と縁遠く老いさらばえて行く。このままだとせいぜいお母様のい いなりになって、お父様の会社が下請けをしている大会社の社長の二回り近く離 れて未だに独身の親離れできていないおじさんと婚約させられて、ずるずる結婚、 姑にいびられて死んでゆくのよ、冗談じゃないわ。でも、それならお金持ちでた くさん遊べるかしら。それとも、姑が居たら遊べないのが相場かしら。 いつもよりややすさんだ気持ちのまま、眉間にしわ寄せ、サークル棟に入る。 コンピューター・サークル。我が校の教育学部のお嬢様方は機械類を少し敬遠 なさるのか、当初、工学部にしか存在しなかったものを私が友人と作った。最初 は二人きりの同好会だったので、彼女が副部長がいいと言うので、私が部長になっ た。ああそうだった、やがてサークルにするにあたって例の『若気のいたり』氏 に手伝って貰ったのだった。おかげで部室を手にいれたけれど、今はもうここに 『若気のいたり』氏が来る事はない。 扉を開けると複数の声がすかさず、こんにちは、と挨拶の声を掛けてくる。 パソコンでゲームしかしない、すべからく女性の後輩の部員達。けれど今日は いつもと様子が違う。妙な緊張感がみなぎっている。最近ようやくMS−DOS に慣れたばかりの副部長が、PC9801歴二年目の私に真剣な面もちで近寄っ て来た。 「事務棟の掲示に出ていたの。まさか、と思ったけれど、念の為行ってみたの。」 何の事かさっぱりわからない。 「うちのサークル宛に、今日、部の設立以来初めて、郵便物が届いたのよ。ねえ、 驚いたでしょ。」 確かに、驚いた。 ダイレクト・メールじゃないでしょうね、と、郵便物を覗き込む。大きい封筒。 「違うの、中が、信じてね、フロッピーなのよ。」 そこで部員達が口々に言った。 「先輩、NETって、何ですか。通信って、何ですか。モデムって、何ですか。」 中にはどうやら、通信ソフトが入っていたらしい。 部員総出でその後は、秋葉原まで繰り出した。女性の大群相手にパソコンショッ プの男性達は嬉しそうに説明した。この街には女性が少ない。パソコンショップ の店員となればまして。男女の比率が歪んでいる。ここでも。 にこにこしながら値引き交渉をする副部長。かげで店員の示す最終的な値段と 親切度をメモする私。おしゃべりに興じる後輩達。これを延々と10件程繰り返 して、比較的安くかつ比較的親切な店を選び、モデムを買う。今は通信ソフトは いらない。あの史上初の郵便物に入っていた。但し、専用のものと書いてあった し、やがて私達の手を離れていく。その時に通信がしたければまた秋葉原までく ればいいし運がよければ普通の通信ソフトが通信で入手出来るかもしれない、こ れが財政難の我が部の結論となった。 秋葉原から電車で私の家に向かう。 電話回線はどうする、という事になって結局、部室は諦め、自室に個人所有の パソコンがあり大学の近くに家がある、という二つの条件を満たす私の部屋で通 信が行われる事になった。道すがら、買ったばかりのモデムと史上初の郵便物を 眺めまわしいじくりまわし秋葉原の余韻に浸りながら質問をする部員、答えるの は私。 先輩、この、NETって何でしょう。ネットワークじゃないの、パソコン通信 なんだから。アクセスって何でしょう。電話回線を使ってホスト局に接続する事 じゃないの。ホスト局って何でしょう。そこにアクセスするとパソコン通信でき るのよ。 ちっとも答にならない事を、推測混じりで答える。 「先輩、さすがですねえ。どうして、すぐわかるんですか。」 ええと確か前に少し、と言い掛けて私は口ごもる。例の『若気のいたり』氏が アパートのパソコンで通信にアクセスした時の事をぼんやり覚えている為だと、 もう私は気付いている。 少し滅入った私の気持ちを吹き飛ばす勢いで副部長が話し掛けて来た。 「でもちょっとおかしいわよね。」 彼女が言うのは例の封筒の中にあった『ル・サイファーNET専用通信ソフト』 なる物の説明書の事。そこには『ル・サイファーNET説明書』と題して色々奇 妙な事が書いてある。 「これ、やっぱりオカルトみたい。『ディスクでNETにアクセスなさった時点 から起算して、13週間後に回収に伺いますのでその場合は速やかにご返却なさっ てください』だとか、『ご利用者の魂の純粋な部分をいただくのと引換えにNET ではあらゆるサービスをご満足いただける形で提供する』とか。回収にきます、 って、悪魔が人間に化けて来たりして。ね、オカルト。こわいわよ。」 こわいと言う声はむしろ、楽しんでいる様子。 そういえば『若気のいたり』氏は、醜悪な顔に似合ってオカルト・マニアだっ た。そう思い出して、追い打ちを掛けられた様に滅入った私は、急に電車の中の 醜悪な中年男性達に呪詛の言葉を吐きたくなった。汚い顔。あなた達は大嫌い。 接続するわよ。ソフトはもう、立ち上げたし。これで、いい筈。 ようこそ、と画面が迎えた瞬間、部員の歓声が上がる。キーボードを叩く私の 後ろで、ねえあれ見てメール到着だって手紙の事かな、と声がする。なるほど、 メールのコーナーに、到着、の文字がある。一瞬、薄ら寒い感覚。私達が今アク セスしているのを誰かが、見ている。悪魔。まさか、考え過ぎ。 メールを読む、という項目を選ぶ。内容は説明書にあった事と重複する事がほ とんど、そして違うのは最後の部分。 『ご利用者の魂の純粋な部分をいただくのと引換えにNETではあらゆるサービ スをご満足いただける形で提供するので、お望みのサービスをメールにてお知ら せ下さい。そうすれば、大至急、取り計らいます。』 そこでにわかに部会がはじまる。今、一番興味がある事。今、一番したい事。 今、一番知りたい事。今、一番欲しい物。何でもいいから言ってみて。 副部長がぽろりと言った。 「オトコ。」 居合わせた全員が赤面したが、居合わせた全員が同意した。勿論、私も。「お 見合いサークルをつくるのはどうかしら。ここでは、SIGというらしいわね。 お見合いSIG。」 私がそう言うとすかさず副部長が具体的に案を出した。 「年齢や学歴、居住地、家族構成とか条件を入力して、よりどりみどり。交際の 相手や内容は、他人に極秘。」 よし、それに決定、ということになりメールにその旨を書いて返信しながら、 先のメールの発信人は悪魔なのかもしれない、と考えた。 魂の純粋さは、年を経る毎に失われてゆく。 男性と付き合うと醜くなる。特に、醜い男性と付き合うと、もっともっと醜く なる。そしていつまでも後悔が残る。段々あざとくなってゆく。 『若気のいたり』氏以外にも、私の心を深入りせずに横切った男性達が居て、彼 らは立ち止まって念入りに気を引いてから急に去っていった。私だけが取り残さ れ、持て余した気持ちの処理に泣いた。それならいっそ最初から、近付かないで。 来ないで。 悔しい。男性達に、いつも気を引きつけられてきた。 悔しい。でももしそれが、逆だったなら。私が男性達を悔しがらせる事が出来 たら。私は、可愛い。スタイルも悪くない。大学も、良家の子女が通う大学。きっ と、出来る。そう、悪魔に心を売り渡す様に、私の良心をいっとき捨ててしまえ。 本当に素敵な人と思い思われるその日まで、男性をからかい、男性を弄び、男性 をおもちゃにし、男性を裏切って、そして男性を捨ててやる。 昨日の今日で気の早い部員達が部室から私の部屋に直行した。メールの返事が 届いて居ないかな。まさかね、と私は笑いながら半ば期待してアクセスした。 メールに、到着、の文字。 はやく読んで、と騒ぐ部員達。やや興奮しながらメールを読む。 『早速お望みのSIGをつくりました。ご自分のデータを入力の後、希望なさる 異性の条件を入力し、異性をお選び下さい。団体でお使いになれる様に、ご自分 のデータの変更が出来るようになっています。相手にご不満の際は、何度でもや りなおす事ができます。本日からサービスを開始できますので、どうぞご利用下 さい。』 後はSIGの名前がOMIAIと書かれている。 全ての項目を入力した。 1週間交代でIDを使う。部員は丁度13人。まずは今日、部屋の提供者であ る私。男性の条件も全て入力した。表示を待つ。 急にモニター画面一杯に男性の名前とIDがひろがり始めた。それはどんどん スクロールする。止めなくては。どうしよう。そうか、通信記録をとっているか ら後でゆっくり読めばいい、そう思い直して待ってみる。スクロールが終わるま でが随分長く思えた。取り合えず、メールを出そうか。その前に人数を絞らなきゃ。 でも、どうやって。 ふと見ると、新しい項目の追加、とある。そうか、条件をもっと厳しくすれば いい。何がいいかしら。付き合ったら気になるのは、そうだ、顔。声。足の長さ。 体臭。早速項目を追加すると、データが揃うまでお待ち下さい、と表示される。 今日中にはきっと、無理よね。そう思ってアクセスを終える。通信記録を読み返 すと、100人程の男性が私の持つ条件を求めていた、という事がわかった。 この人達も、かわいそう。ここに来ればすぐに女の子が釣れると思ったのに、 顔や体臭をコンピューターに尋ねられるなんて。ううん、男性に同情する事はな い。彼等は皆一様に、薄汚く醜悪で、自分本位で女性には肉体しか求めない。彼 等に同情する事はない。大嫌いよ。 翌日、またアクセスする。今度は、顔や声で選ばねば。顔。丸顔は可、逆三角 は不可。声。テノールは可、バリトンは不可。足の長さ。身長との割合を計算し て長めは可、短めは不可。体臭。無しは可、有りは不可。これで随分絞れたろう か。前回の手順で表示を待つ。 またもやモニター画面は一杯になって、スクロールを始める。前回より短いど ころか、長く感じる。そうか、会員が増えているんだ。このSIGは出来たばか りだから。どうしよう。 同じ事を延々と繰り返した。私の一週間は最後の日となった。あの後会員は増 え続け、結局私は誰を選べばいいのかわからなかった。アクセスすると、メール のコーナーに、到着、の文字。動揺した。私の順番が今日で最後と知っているの は、サークルの人だけなのに。やっぱり、悪魔が、私を見ている。 少しおびえながらメールを読むと、発信人は知らない男性。 『はじめてお便り致します。』 内容は、今日OMIAIに入会して相手の条件を厳しくしたら残った人は私だ けだったという事、できれば付き合って欲しい、という事。 そう。ここも、男女比が歪んでいるのね。どこに行っても私は満たされない。 男女比が半々位の所で私を過大評価も過小評価もしない人と、永遠の愛を築く事 は一生出来ないのだわ。でも、それなら、遊んでやる。そう、男性を弄ぶ事に私 は決めた。この人でいい。誰でも良い。 早速私はメールを書く。次にこのIDはサークルの仲間が使うのでもう私は使 えない。良かったらお電話下さい。待っています。 すぐさま掛かってきた電話の声はテノールではあったけれど、汚い音色。即日 のデートを約束して会えば丸顔ではあったけれど、寂しい表情。足は長くはある けれど、ぼろぼろで穴の開いたジーパン。はにかんだ顔で、やあどうもこれから どこへ行こうか、そう言う口元から漂う酒の息。 私の身体はすくんでしまう。そして最早意志とは正反対に私の口は動いている。 どうもはじめまして、お会いできて嬉しいわ。国立大の文学部なんて、お勉強大 変でしょう。趣味いいのね、そのジーパン。私、胸ぐらの厚い人って大好きよ。 立ち話もなんだからちょっとコーヒーでも飲みませんか、お酒の方がお好きかし ら。その後なんて、いやあね、せっかちな人。 「昨日のデート、どうだった。」 部室で副部長にソフトとモデムを渡す。次は彼女の番。彼女はノート・パソコ ンを買ったばかり。 朝帰りはしないで済んだわ、とだけ言い、私はため息をつく。 それから毎日電話が掛かる。『国立大文学部』氏から。 私は時々考える。私は男性を弄んでも、ちっとも楽しくない体質なのかしら。 無駄な事ばかり、しているのではないのかしら。いつの日か現れる私の王子様は 汚れきった私を嘆くのかしら。 私の望んでいた事は、男性への復讐。けれど『王子様』も、男性。『若気のい たり』氏や、『国立大文学部』氏が男性なのと同じ様に。私は復讐自体に疲れて
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