空中分解2 #2117の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
夜の10時。 風呂上がりの更紗は、いつものように台所でテレビを見ていた。 頭の上にバスタオルをのせ、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、ぷしゅ っとプルトップを引き上げる。それをうまそうに飲むと、「ぷはぁっ」と 息をはいた。 相変わらず、見かけよりもおばんくさい更紗であった。 ビールの缶を持ちながら、テレビの前の机に腰をおろす。 台所は、夕食を食べ終えてゆっくりと牛乳を飲む萌荵と、片付けをする 舞姫と、その手伝いをする芳春がいて、いつもは暗く落ちついた台所が明 るく和やかだった。 『東南アジア系の3人組が昨夜、下校中の女子高生から現金1万5千円を 奪いとり。そのまま逃走しました』 意図的に無機質によまれるニュースが、台所に流れていった。 そういえば最近は本当に外国人労働者が増えてきた。そしてそれに伴っ て、日本人の外人コンプレックスはいよいよ目立ってきているような気が、 更紗はした。 日本語を話せない、外国人労働者はそれだけでほとんど身体障害者と同 じ扱いの就職しかできないこの現実は、なんとかならないのだろうか。 「外人さん、お金に困ってるね。就職の門戸が狭いせいよ、まったく」 更紗がぶつくさと文句をいい始めた。 「更紗、そう言う文句は、本当に自分が雇ってからいいなさい」 舞姫の言葉に、更紗は少し眉をしかめた。 「厳しいなぁ」 「弱者から見るだけでなく、ちゃんと強者からも見てやらないと論理は中 途半端になる。そう教えてくれたのは、更紗よ」 「うっ………」 この幼い舞姫にいつ教えたのだろう、と更紗は思わず考えてしまった。 『外国人の被害はこれまでに何度かあったものの、外国人による日本人へ の被害は初めてで、警察では厳重に警戒するよう住民に呼びかけました』 辺りが静かになった。 なぜ、苦しく数の少ない外国人の被害の方が、ずっと多いのだ? 「ちょっと違うんじゃない?」 更紗の呟きに、舞姫は返答しなかった。 つまり、反論の余地があまり見いだせなかったのだ。 「この前の小錦の横綱の話もそうよ。委員会さんの話は解らないでもない けど、それに対する国民の意識は頷けない。どうして、本音で言えば外人 を横綱にしたくないが半数以上もいるの?」 「今までずっと日本人だったもの。急に変わることには、誰だって抵抗が あるわ」 「それにしては、外国のものは好んでどんどん中にいれるのね」 舞姫はまた黙ってしまった。 「アメフトを日本でやっても何も思われないのに、相撲がアメリカで行わ れることは良くは思わないわけ? 別に、こんな考え方が絶対に正しいと は思わないけど、いらない『囲い』で人を傷つけないで欲しいなぁ」 幼い芳春には高度すぎて、話のほとんどは理解できなかった。そしてむ しろ、外国でおこなっている相撲を想像して非常な違和感を感じていた。 更紗はくるりと振り返り、萌荵の方を向いた。 「ねぇ、萌荵はどう思う?」 「僕?」 萌荵はお気に入りの、白い雲の浮かぶ透明なグラスを両手で持ちながら、 ふと目を閉じた。 萌荵の頭の中には、あの少年達と浮浪者の姿が浮かんでいた。 誰もが弱くて、誰かを傷つけなくてはやっていけなくて、 辛くて、 自分を傷つける。 悪いことを誰も叱ってくれないから、 自分で自分を叱るように自分を傷つける。 それがあまりにも純粋で、健気で、 「……みんな、大好きだよ」 心から、そう思う。 更紗は、呆れたように両手をあげた。 「萌荵には負けるわ」 「更紗もあれぐらいの純粋さがあればね」 「いーだ。これぐらいひねてないと、舞姫の姉ができないもんでね」 「あら、萌荵も私の姉よ。自分のことは、ちゃんと自分に責任を持ちなさ い」 どうしても、舞姫に勝てない更紗であった。 ある街の、ある駅前の公園。 夕暮れになって、くっきりと月が浮かびあがってきていた。 青白い空にくっきりと白い輪郭が、まるで額縁のように月を飾りたてて いる。 そんな月を見つめながら加藤さんは、真っ白になっていく心を感じてい た。 心が真っ白になっていく。 水面にうつる、月のように。 ふと、すぐ近くに人が立っていることに気づいて、加藤さんはふと視線 をさげた。 そこには、あの少年達が立っていた。 「………………」 あの時のような恐怖を、加藤さんは不思議と感じることはなかった。 月の白さが、心を覆い尽くしていたせいかも知れない。 それとも、あの少年っぽい娘のためかも知れない。 少年達がぺこりと頭を下げた。 そして方向をかえて、家路に向かって帰っていった。 不思議な安堵感が体を満たしていく。 加藤さんは、いつものベンチにゆっくりと体を寝かせていった。 久しぶりに、落ちついた寝床を見つけた気持ちがしていた。 月夜の晩の、そんな話。 < 後書き > 月夜話、第3話目をおおくりいたします。気に入っていただければ、幸 いです。 この作品は、けっこう苦労しました。 何がと言うわけではないのですが、どうも思い通りになってくれなくて、 試行錯誤の上の難産、と言う感じです。 だから、可愛いです。 創作って、楽しいですね。 恒例の裏話です。 最近、いちばん好きな漫画はCLAMPさんの「東京BABYLON」 です。 そのなかの「SMILE」が特に好きな話でして、いつかはこんな温か い話がかけたらなぁ……と思いつつ、今回の作品を書き上げました。 この小説を書くきっかけになったのは、最後に出てきたニュース(実話) と更紗のいった言葉(これも事実)のためです。 そして浮浪者。 浮浪者ではなく、酔っぱらった方と僕はよくお話するのですが、これが なかなか楽しい。 辛いかも知れないけど、でもそこら辺の学生よりはよっぽど真剣に考え ていて、好きです。 そんな背景があって、こんな小説になりました。 そして恥ずかしながら、萌荵の性格は僕です。 もっともっと、含めたい言葉はあったのですが、一つの作品にこめすぎ ると他のものの影が薄くなってしまう。 他の大切な言葉は大事にとっておいて、次の小説にしたいと思います。 (^_^) 第4話は、舞姫の話にします。 もうすぐ夏ですし、ちょっと恐い話にしたいと思います。 それでは、次にあなたに会える日を願って………。 この小説は、夏前に書かれたものです。 ちょっと、時期がずれていますが、ご容赦下さい。
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