空中分解2 #2112の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
突然届いた宅急便の中には、磁気シールドケースに収められた5インチフロッピーと 3.5インチフロッピーが1枚づつ、そして数枚の説明書が入っていた。 ル・サイファーNET 専用通信ソフト −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ル・サイファーNET説明書 説明書はこういうタイトルで始まり、使用可能機種や通信条件が続き、 ディスクでNETにアクセスなさった時点から起算して、13週間後に回収に伺い ますのでその場合は速やかにご返却なさってください。 という利用条件が書かれていた。 ぼくは首をひねった。 「新ネットのモニターの依頼かな?」ぼくは某コンピュータ雑誌でパソコン通信のコ ラムを担当しており、時折このような依頼も受ける。しかし、事前の連絡なしでいきな り通信ソフトを送り付けられたのは初めてである。しかもアクセスするのに専用通信ソ フトが必要だとは…。 「とにかく起動してみるか」大抵のソフトはマニュアルを読むより、起動してみた方 がてっとりばやい。特に最近の分厚いマニュアルなど読む気にもならない。 モデムの通信条件は商業ネットや草の根ネットで使用されている設定でOKだった。 ドライブに5インチのフロッピーを挿入して、リセットキーを押す。 ディスクにアクセスするカチカチという音が数秒続いた。見慣れたMS−DOSの起 動画面が現れるのを期待していたのだが、いきなりモデムがダイヤルを始め、すぐに画 面に文章が出現して少々驚いた。 −ル・サイファーNETにようこそ。 −これから今後のアクセスに関して非常に重要な質問をいたします。 −正直に答えて下さい。 − −あなたがいま一番望むものはなんでしょう。 − ぼくはこれが果たして本気なのか冗談なのか判じかねてじっと画面を見つめた。する と、それを感じ取ったかのように、 −これは冗談ではありません。 − という文が表示された。 ぼくは面食らいながら、質問を考えた。一番望むものか…。お金?地位?土地?いや いややはり女がリストの先頭に来るに違いない。ぼくはにやりと笑った。実はぼくには 3年来付き合っている恋人がいるのだ。だから冗談のつもりだった。 ぼくはキーボードを叩いた。大半の若い男ならこう書くのではないだろうか。 −女 すぐに画面に文章が表示された。 − メインメニュー − 1.恵子 − 2.まゆみ − 3.しのぶ − 4.美砂 − 5.今日子 − 選択してください。 − ぼくは笑いだした。要するにこれはH専門の秘密ネットというわけである。女性の名 前が、BBSやらフォーラムやライブラリになっているのだろう。どれもこれもHな情 報や画像データ、風俗情報などで満杯に違いない。 モニターの心境としては少々がっかりした。しかし、一人の男としてはもちろん興味 をそそられた。ぼくは試しに1番を選択してみた。 画面が突然どこかのホテルの一室に変わった。キングサイズのダブルベッドの上に一 人の女が寝ている。何も身に着けていない。ものすごくリアルなCGだった。 女が起きあがった。そして口を開いた。 「お待ちしてましたわ。いらして」スピーカーから声が流れた。合成かサンプリング か、ほとんど実際の女性の声と変わりがない。ぼくは半ばあっけにとられて、半ば感心 しながらディスプレイを見つめていた。 「そう、まず私の全てを見せろとおっしゃるのね。わかりましたわ」女は−これが恵 子か?−濡れるような声で囁いた。そしてベッドの上に仰向けになると両脚を広げた。 ぼくは思わず画面に顔を近づけた。確かによくできている。これほど滑らかな動きのア ニメーションがパソコンでできるとは。 ベッドの上の女は自分の全身を愛撫し始めた。鼻にかかったような、せつないうめき 声をあげ、息を荒くし、身をくねらせ、汗を浮かべ…。 いつの間にかぼくは我を忘れていた。自分が女を犯しているような気分になっていた 。女の柔らかな身体を抱きしめ、固くなった乳房をもみ、全身に舌を這わせ、敏感な繁 みをかきわけ、濡れた中に自分自身を挿入した。女はぼくの行為に反応し、もだえ、激 しく求めた。情熱に濡れた唇からもれる歓喜の囁きはぼくをほとんど獣にした。 いまだかつて経験したことのない快感が全身を貫き果てた後、ぼくは30分以上もデ ィスプレイの前に座っていた。一体何が起こったのか、理性的な記憶はひとかけらも残 っていなかった。ただただこの世のものとも思われない快感の余韻がいつまでも身体の 中を駆け巡っていた。これに比べれば夏子(ぼくの恋人だ)との愛の行為など小学生の お医者さんごっこにより劣る。 理性か知性か、ともかく脳の冷静な部分がこのNETの異常性を強調していた。しか し幸か不幸か本能がその訴えを退けた。指が勝手にテンキーの数字の上をさまよってい る。2のキーを押す瞬間、理由のわからない恐怖がぼくを襲った。だが、指はメニュー の2番を選択し、リターンキーを叩いていた。再び画面が変わり、今度は夕暮れの海岸 で水着を着たさっきとは違う少女がぼくを待っていた。ぼくはたちまち全てを忘れ、少 女の水着を脱がせ、その成熟しきっていない肢体をこの手に抱くことに全神経を集中さ せた。 7日間ぼくは連続して、ディスプレイの前に座り続けた。生理的欲求と食欲を満たす 短い時間だけ、キーボードから手を離した。冷蔵庫の食料がなくなると、ぼくは近くの コンビニエンスストアに電話をかけて、持ち金分の食料や飲物を届けさせた。会社から は何度も電話がかかってきたが、何かいい加減な返事をして切ってしまった。食料が届 くとぼくはNETに接続している電話の他は回線を切った。 この7日間でぼくのとった睡眠は4時間未満だった。それ以外は恋人達−そう、ぼく の、ぼくだけの恋人達だ!−との愛の行為に没頭した。 ああ、情熱的な恵子、汚れを知らぬ清純なまゆみ、不良娘のしのぶ、やさしく成熟し た美砂、明るい笑い声の今日子。みんなぼくのかわいい恋人達、ぼくのアニマ達、禁断 の姉妹達。アクセスするたびに彼女達は違った場所で、違った服を着て、違った表情で ぼくを迎えてくれる。 もはやぼくにはこのNETの仕組みや運営先などどうでもいい。金も地位もいらない 。夏子も…。 そう、夏子は何度も電話をかけてきた。ソフトが届いた翌日のデートにぼくが現れな かったからだ。ぼくはほとんど無視していた。夏子のことは遠い日のもう2度と帰らな い想い出のようだった。 とうとう夏子はぼくのアパートにやってきた。いくらチャイムを鳴らしても、ぼくが ドアを開けないので合鍵で入ってきた。ぼくたちは確かに何か会話をしたようだ。しか し何を話したのか、さっぱり憶えていない。脳が憶えようとしていないのだ。ぼんやり と夏子の驚愕の表情、怒りの混じった泣き声、困惑とおびえが思い出されるだけだ。い つ夏子が出ていったのかすら忘れてしまった。 いまや、ぼくの人生全てがこのNETにあった。ぼくは恋愛のありとあらゆるパター ンを経験した。海に潜り、山に登り、スキーを滑り、スカイダイビンクをした。もちろ ん、深い海中でも人気のない山の中でもゲレンデの真ん中でも大空を果てしなく降下中 でも恋人達と愛を交わした。飽きるということは全くなかった。恋人達はぼくの仕草に 笑い、涙を流し、すね、怒り、憎みすらしたが、どれもこれもぼくにとっては常に新鮮 で感動的な体験だった。 さらに何日か、何週間か−すでに日付の感覚がない−が過ぎた。ぼくはほとんど食べ ることすらやめてしまった。NETに回線をつなぎっぱなしにして、愛し合っているだ けだ。 ただぼくはときどき一瞬だけだが恐怖を感じる。最初の数行を読んだままどこかに放 ってある説明書の1文を想い出すからである。 ディスクでNETにアクセスなさった時点から起算して、13週間後に回収に伺い ますのでその場合は速やかにご返却なさってください。 13週間?回収?返却?このディスクを返却するということは、もうぼくはぼくの恋 人達と逢えなくなるということではないか!いやだいやだ誰がなんといおうとぼくの恋 人達をぼくから取り去ることなど許してたまるものかたとえ神だろうと悪魔だろうとぼ くはぼくの恋人達を大事な娘達を妹達をわたすものか!そうとも決して… ああ、大きな声をだしてごめんよ、しのぶ。さあ、涙をふいて笑っておくれよ。そし て強く抱きしめておくれ。お前を誰にも渡しはしないよ。何の心配もいらない。さあ、 おいで。ぼくの腕の中に。お前の暖かい身体をぼくにくれ。 さあ… (PC-VAN 初UPで
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