空中分解2 #2103の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「当日の正午丁度。約束の時間さ。行ってみると、確かに南口に、目印の通り の女がいた。サングラスをしていたな。こちらが声をかけるまでもなく、女か ら寄って来た。俺は名乗って、相手の名前を聞いたんだが、女は名乗らない。 とにかく、俺は女を乗せた。どこに行けばいい? と聞いたら、まずは昼飯っ てことで、近くのファミリーレストランみたいなとこに入った。彼女は窓際、 俺は通路側って具合いに座った。その店には一時間くらいいたな」 「そこで女が入れ替わった可能性は?」 「ないさ。俺は後で、女と寝たんだからな」 開き直ったような口調だ。 「そうだったな。それで? 一時間てことは、午後一時だ。それからどうした ?」 「ひたすらドライブさ。あまりにも方にはまったようなデートコースだった。 名所巡りって感じだ」 俺は、斎藤の言った場所をチェックしていった。 「途中で車を離れたことは?」 「そりゃ、トイレに三度か四度は行った。でもな、いくら聞いたって、無駄だ ぜ。俺はこの後、女と寝たんだからな」 また言いやがった。 「ようし、それなら、そのときのことを話してみろ」 「驚いたことに、彼女の方からホテルに行かない、だってよ。いきなりだ。俺 が何で昼間からって聞くと、今日は夕方までしか一緒にいられないからと答え た。よく分からなかったが、悪い話じゃないと思った。俺達はホテルに乗り付 けた。中くらいのホテルさ。交互にシャワーを浴びて、俺は彼女を待った。ま た驚かせてくれるんだ、これが。サングラスをしたまま、彼女はベッドに入っ てきた。俺が質すと、片方の目の側に酷い痣があるの、見られたくない、と言 った。俺が、サングラスがあったんじゃやりにくいと注文をつけると、部屋を 暗くするんならいいわと女は答えた」 「暗くした? そのとき、何か細工があったんじゃないのか?」 「いいや。電気は俺が消しに立った。その短い間に、人が入れ替わったりでき るものか。それで、ことが済んでからシャワーを浴び、また俺は女と一緒に町 に出た。もちろん、車に乗ってだ」 「ふん」 「出てからは、ずっと高速を飛ばしていた。ある程度行ったとこで、Uターン したな。それから急に女が言ったんだ。『警視庁に向かって』と。訳が分から なかったが、言う通りにした。高速を降りると、ゆっくり走らせるように言わ れた。やがて警視庁に着いた。女はしばらく黙っていた。俺がしびれを切らし て、後ろを向こうとしたら、女は拳銃をバックミラーに映し、『これから私は これで頭を撃ち抜きます。銃声が聞こえたら、後ろは見ないで、一目散に警察 に知らせるのがいいわ。全ては、彼らが始末してくれる……』と言った。俺が 何もできない内に、女はこめかみに銃口をあて、引金を引いた」 「見たのか?」 「いや、振り返る間もなかった。だが、気配で分かった。銃声の後、女の影が 倒れるのがちらりとバックミラーに映った」 「それから?」 「車から飛び出した。恐ろしくなってな。警察にもこの通りに話したんだが、 まるで信じちゃくれねえ」 「俺だって信じられんさ。女が自殺したと思ったら、男が死んでいたなんてな」 俺は両手を身体の前で上向きに広げ、言ってやった。 「どうしたらいいんだ」 「俺が有能な弁護士でも知っているなんて、思ってないだろうな。知っていり ゃ、すぐにでもつけてやるが、お国の選んだので我慢しろ。俺は調べる。そし て真相を突き止める。それだけだ」 「あの女だ。速見今日子だ! あれさえ見つければ、俺が何もしちゃいないっ てはっきりするさ」 そう簡単にいくかな、とは言わなかった。こいつの置かれている状況は相当 に厳しい。それを認識させるには、こいつは今、精神的に弱すぎる。 「ああ。その前に、予備知識を補強しないとな。まず聞くが、死んでいた男に 心当たりはないんだな?」 「全然、知らねえ。顔は相当潰れていたが、見分けがつかないほどじゃなかっ た。だから、知っていたら気付くと思う」 「女からもらった金はどうした? 速見今日子からもらった50万だ」 「10万だけ引っこ抜いて、あとは家に置いて来ちまった」 「警察が調べるだろうな。指紋が遺っていれば、ちょっとしたもんだが」 はかない望みかもしれなかったが、今は何でも期待するしかない。 「速見にしろ、おまえが車に乗せた女にしろ、何も遺していないよな?」 「警察が調べたはずだが、何もないらしい……」 弱々しい声になる斎藤。これは、裁判に引っ張り出されたら、何も答弁でき ないだろう。 「とにかく、気を強く持て。いいか、どんなに責められても、妙な自白はする なよ。いいな!」 どうして男をこんな風に慰めないといけないんだと思いながら、俺はそれだ け言い置き、引き上げることにした。吉田刑事への質問は、また後日−−せめ て死んだ男の身元が分かってからにするとしよう。 こうなると分かっていれば、なんて考えたくもない。しかし、今は思わずに はいられない。あの女に、住所や電話番号も書かせるべきだった。いや、聞い ていたとしても、あの女が最初から今度の事件を計画していたとすれば、嘘を つくに決まっているが。が、せめて筆跡が欲しかった。この国での証拠主義に は、それが必要なのだ。 しかし、と俺は考える。仮にあの女、速見を見つけたとしても、女の罪が問 えるのだろうか? 自殺志願の人間−−女か男か知らないが−−に、運転手を あてがってやっただけだ。自殺を止めようとしなかったのは説諭に値するかも しれないが、まあ、自殺幇助までになるとは思えない。だいたい、速見が自殺 志願の人間の本心を知っていたかどうかなんて、証明のしようがない。運転手 を見つけるように頼まれただけと強弁されれば、それまでだろう。 衝くとすれば、速見と死んだ男の関係だが、簡単に分かると思えない。男の 身元はその内に分かるだろうが、女とのつながりは見えてこない気がする。女 は本名を名乗ったとは限らないのだから。 俺は数日、速見今日子の姿を追って、方々を走り回ったが、全く掴めなかっ た。わざわざ、近くの探偵に仕事を持ち込んでくるような間抜けではなかった ってことだろう。 そうこうしていると、死んだ男の身元が分かったらしく、新聞の隅にそのこ とが出ていた。 「二階堂保夫、二十七才か」 俺は呟きながら、顔写真を見た。にやけた色白の男だ。 が、その外面に似合わず、酷いことをやっていたらしい。麻薬を流していた らしいのだ。 この街は、小前田組という暴力団が占めている。小前田の所は薬関係は扱わ ない主義のはず。そんな土地へ、のこのこと麻薬を流しに来るなんて、どうか していたんじゃないのだろうか、この男。しかし、あまりの前途を悲観して、 自殺したってのも変だ。単純に考えて、ここは小前田に消されたとする方が納 得行く。 だが、どうやって? 斎藤は女を乗せ、そいつがピストル自殺した と言っているんだ。どうやれば、女でない二階堂を殺せると言うのだ? 「吉田さん」 「何だ、相原。やけに猫撫で声だな」 刑事はこちらの腹づもりを見抜いているかのように、そう言った。 「この前約束していた、質問の権利を行使したいんですがね」 「ん? ああ、例の車の事件か」 「死んだ男、二階堂とかいう売人だったそうですが、そいつについてちょっと」 「新聞・ニュースでほとんど述べられてるだろ? 南米から単身で乗り込んで 来て、麻薬を流そうとしていた男だ。四課では、マークを強めていたそうなん だが、こんな形で対面するとは分からんものさ」 「そういうことじゃなくて、二階堂の背格好です、聞きたいのは」 「うーん。正確なとこは知らんが、160あったかな。小柄だったらしいな」 「そうですか。それと、新聞に出ていた奴の写真、あれは昔ので? 今はどん な風貌だったんですかね?」 「変わりはせんよ。ちょいと鼻が高くて、色が白くて……」 「なるほど……。ところで吉田さん。斎藤はどうなるんでしょうかね? いえ、 そもそも警察では、事件をどう見ているんです?」 「おまえにとっちゃあ、悪い話だがな。小前田が二階堂を消すために、斎藤を 雇ったんだと、わしらは見てるよ。そのつながりを立証するために、動き回っ ている最中だ。斎藤の話は、ほとんど全て、嘘だと思っている。……もっとも、 わしは別の事件を担当しとるんで、詳しいことは聞いてない」 「そうですか。……じゃあ、今、話しましょう。二階堂を殺したのは小前田の 手の者によるのは間違いないでしょう。しかし、そいつは斎藤じゃない」 「おいおい、友達をかばう気持ちは分かるが、無茶を言わんでくれ。斎藤の他 に、誰がどうやって二階堂を殺せると言うんだ?」 「ヒントは斎藤の証言と、吉田さん、あなたが今教えてくれたことにあるんで すよ。いいですか? 二階堂は単身で麻薬流通ルートを開拓しようとして乗り 込んで来た。しかし、警察やら元からの暴力団やらのマークがきついので、何 か策を巡らせる必要があった。そこで思い出してもらいたいのが、二階堂の体 型や肌の色です。いかにも、女に化けるのに適していると思いませんかね?」 「何だって?」 「可能性はないと言えますか?」 「……とりあえず、その可能性は認めるとしよう。それで?」 吉田刑事は続きを促してくれた。話の分かる年寄りは、好きだ。 「女に化けて、自分の役目をこなしていった二階堂だったが、小前田組はそれ にも敏感に反応した。ただし、女が二階堂の化けた姿とは知らずに、新たに女 の売人がやって来たと思い込んでね。当然、小前田は”女”を殺そうとする。 だが、暴力団新法やら何やらで、動きが取りにくいご時勢です。小前田の連中 は、ちょっとばかり捻った方法を考え付いた。間抜けな探偵を、組に関係する 美人を使って雇う。依頼は、ある女を運ぶことだ。その女とは、二階堂が化け た女にそっくりの女です。何も顔形まで似せる必要はない。印象が似ていれば いいんですよ。女は、小前田組がアリバイを作る関係もあって、いろんな所を 探偵に走らせる。その間、小前田の腕の立つ連中は、二階堂の化けた女を捕ら え、速見今日子なる女がぼんくら探偵に貸した車・シーマと全く同じ車種・内 装の車に押し込む。そしてピストルで頭をぶち抜いて殺す。この時、小前田の 方は、女が女でないと気付いたかもしれない。が、もう遅かったので、そのま ま計画を続けた。探偵にひっついていた女は、警察の前に車を停めさせ、自殺 の演技を決行する」 「演技だと?」 「そうです。暗示もあって、どじな探偵は警察に駆け込み、洗いざらい本当の ことを話す。その隙をついて、自殺のフリをしていた女はシーマを発進させ、 入れ替わりに、二階堂の死体を乗せたシーマが警察の前に乗り付けられること になる。こうして、奇妙な自殺の完成です」 「……」 俺の言葉を信じるべきかどうか、吉田刑事は考えている様子だ。 実際、俺だってあまり信じられない。しかし、斎藤の言葉を信用すれば、こ れが納得の行く、唯一の答だと思う。 「分からん。わしには判断のしようがない。しかしだ。話は通しておいてみよ う。小前田の所を調べれば、簡単に答は出るんだからな」 「ありがとうございます」 俺は本心から、頭を下げた。 数日後。全く久しぶりに、吉田刑事が俺の城へと足を運んだ。 「小前田組は、おおよその点を認めたよ」 「そうですか」 俺はコーヒーを用意しながら、吉田刑事の話を聞いていた。 「君の友達も、近い内に出られると思う。説諭があるかもしれんがね」 「斎藤の奴には、それくらいの薬じゃ足りません。もっと懲らしめてやらない といけませんぜ」 わざとらしい俺の口ぶりに、吉田刑事は苦笑する。 「ところで、吉田さん。女は見つかりましたか? あいつにはきついお返しを してやりたいんですよね」 「それがな、相原。まだ見つかってないんだ」 「見つかってない?」 「小前田に関係する水商売の類の店は全部当たってみたんだが、該当する女は いなかったそうだ。他の線を調べとるとこなんだが、今のところは見事に消え ちまった」 「本名がどうかとかも分からないんですか? 小前田の連中を締め上げても?」 「そうなんだ。だいたい、今度の事件はほんの一部の若い組員だけが動いてい ただけで、組長以下の重役らは関わってないようなんだな。とかげの尻尾切り でもなさそうで、こちらとしても困惑しているんだよ」 吉田刑事は、コーヒーカップに口をつけると、ほっと息をついた。 「その若い組員らによると、速見今日子なる女の方から今度の計画を持ちかけ られたと言いおって、訳が分からん。ひょっとしたら、二階堂がいた側の組織 から送り込まれた女じゃないかという考えも浮上しているんだ」 「つまり、何かの裏切り行為をした二階堂を消すために送り込まれた……?」 「そうなるかね。ま、速見今日子って女には関わらん方がよさそうだぞ。いき なり小前田組に取り入って、暗殺を実行するくらいの腕だからな」 「忠告、ようく心に留めておきましょう」 俺は口にした言葉とは裏腹に、「速見今日子」の正体を暴くという衝動を押 さえつけられそうもなかった。 −−美しき依頼人.終
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE