空中分解2 #2098の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
印象的な一時を過ごしたせいもあってあたし、大胆になれたみたい。あの日 から教会でも学校でも、スムーズに話しかけられるようになった。紫苑君は、 他の男子が冷やかしてもちゃんと相手になってくれるし、紫苑君の方から話し かけてくれることもあった。 当面の問題は、クラスの大部分の女子が恨めしそうな目で見ること。どうや らあたしが知らない間に、紫苑君のファンクラブみたいなのができたらしく、 共同戦線を張っている節が伺えるのよね。 「気を付けた方がいいみたいよ」 お昼、さすがに紫苑君とは一緒に食べれないので、ミエやきよちゃんと一緒 に、外で食べてる。 「何が?」 いつも入れてる厚焼き卵を半分かじってから、あたしはミエに聞き返した。 「入峰紫苑親衛隊のこと」 「へぇー、そんな名前だったの、ファンクラブ」 「そんな落ち着いてられる状況じゃないわ。いかにも下世話なんだけど、みん なが、リマが出しゃばってるから何かしてやろうって話してたの、聞いちゃっ たのよ」 「うん、あたしも聞いた」 きよちゃんがゆっくり言った。二人が言うには、女子トイレでそういう相談 をしているのを聞いたらしい。 「何かって何を?」 「それは分からないけど、中には少し不良がかった子もいるからさ、どんなこ とになるか知れない」 「あたしはそんな親衛隊に入ってグループ交際みたいなのをしたい訳じゃない んだし、どんな規則があっても、あたしには関係ない」 「理屈じゃそうだけど、暴力に訴えるかも」 きよちゃんが心配そうに言った。すぐに想像する性格だから、泣きそうな顔 になっちゃって。 「そう? 親衛隊って、おとなしいって言うか普通の女子ばかりだったと思っ たけど。ミエが言うような不良っぽい子って、いたかなあ」 「それがさあ、クラスは違うけど、鮎河原っているでしょ。勉強はできるけど、 先生に反抗してばっかりって」 噂って程じゃないけど、聞いたことある。フルネームは鮎河原琉香だっけ? ミエみたいに成績上位に名前をよく連ねているから、有名人と言っていい。そ れに、彼女のお兄さんてのが輪をかけたって感じらしくて、暴力団に関係して いるとも、聞いたことがある。 「でも、その子が紫苑君をどうこう思っているなんて、聞いたことない」 「今まで硬派で売ってきたから、表だっては言えないんじゃないの」 「ふうん。にしたってよ、鮎河原さんだって誰だって、個人的につき合いたい ことに間違いないでしょ? 親衛隊の言いなりじゃ、結局、鮎河原の天下にな っちゃうんじゃないかなあ」 「そんなことには、今は誰も気付いてないのよ。ま、気を付けるに越したこと はないから」 「うん、分かった」 あたしは気楽にうなずいておいた。 帰る方向が違うこともあって、あたしは紫苑君と一緒に下校することはでき ない。無理に遠回りしてもいいんだけど、ここは女の友情を立てて、きよちゃ んやミエと一緒に帰るのだ。 今日はあたし達三人に加えて、幼なじみの細山猛君がいる。 細山君はこの夏休み、三年生を除くと四人しかいない推理小説研究会を盛り 上げる役としてあたしが声をかけたんだけど……。合宿中に殺人事件があって、 ゴタゴタしたんだよね。同じクラブでもないのに飛んでもないことに巻き込ま れて、ちょっと遠ざかっていたのよね。 今日一緒になったのは、たまたまクラブの練習が早く終わったからだと思う。 「陸上、終わったの?」 「ああ。大会が近付いてるんで、顧問が早めに切り上げたんだ」 明後日の方を向きながら、細山君は言った。そのまま、彼は話を転じた。 「それよりさ、入峰のことで何かざわざわしてるよな、女子の方」 「気になる?」 ミエが面白そうに口を挟んできた。きよちゃんもご同様らしく、表情がニヤ ついてる。どうやら三角関係を期待してるみたいだけど、そんな風にはならな いわよーだ。 「別に。ただ、何人かの女子がかたまって、リマのことをどうにかしようとし てるみたいだったからさ」 「それをして、気になるって言うんじゃない? ね、きよちゃん?」 「そうそう。今日に限って一緒に下校してるってことも、何だかできすぎてる わよねー」 二人して勝手なことを言ってる。細山君だって、困った顔してるじゃない。 「どう取ろうと構わないけど、注意だけはしとけよ。それと……。当然、知っ てるんだろうな、情報早いから」 急にもったいつけるようになった細山君。気になるじゃない。 「言ってくれなきゃ、分かんないわ」 「入峰の父さんって、いないんだろ?」 「そうよ、知ってるわ。他の女子の大部分は知らないはずだけど」 「どうして死んだかも知ってるのか?」 「……知らない。聞けないわよ、そんなとこまで」 「そうか。話しとくべきじゃないかもしれないけど、ここまで言ったんだしな。 偶然、噂話で聞いたんだが、引っ越す前の街で、酔漢の醜態を注意したのが」 「スイカンのシュータイ?」 急に耳慣れない言葉が出てきたので、思わず聞き返したのはあたしにきよち ゃん。 「まあ言ったら、酔っぱらいの悪ふざけさ。バス停か何かの列を乱したのに加 え、女の人に嫌らしいことを言ったみたいだ。古い言葉なら、セクハラか? とにかくそれを注意したのが仇となって、暴行を受けてね……。相手が複数だ った上に、どうやら暴力団関係の男もいたらしいし」 「本当?」 「多分ね」 「周りの人は? どうして止めてくれなかったのよ!」 あたしは怒りで身体が震えていたみたい。往来であるのも忘れて、細山君に 掴みかかるように聞いた。 「さ、さあ……。時間帯は夕方だったらしいから、人はいただろうけど。ロー カルニュース扱いらしいから、これ以上は分からないよ」 「……かわいそう」 目が、瞼がじわーっとしてきて。涙が出そう。 「その暴力団関係の男ってのが捕まってないらしいんだ。他のは逮捕されたよ うだけど。それで、故意か偶然か知らないが、その暴力団の本拠地がこの街の 隣……」 「え? じゃあ、その暴力団て」 あたしの言葉にうなずいた細山君は、隣町で勢力を奮う暴力団の名を口にし た。鮎河原のお兄さんの琉真って人も、そこに関わっているはず。 「ここのとこを、入峰はどう考えているのか気になってさ。わざとここに越し てきたのか、もしそうなら、何のために?」 あまり推理小説は好きじゃない細山君が、探偵もどきのことをやってる……。 「……どうしてそんなことを知ったの? 噂話ってどこで聞いたのよ?」 「それは……その、入峰の教会でさ。たまたま日曜の朝通りかかったら、庭で 入峰ともう一人女の人が話してるのを聞いたんだ」 「女の人? お母さんかしら?」 「知らないよ。じゃ」 急に腕時計を見ると、細山君は走り出して行っちゃった。 「あーあ。照れ隠ししちゃって。たまたま教会を通りかかるなんて、不自然よ ねー。気になってるのよ、やっぱり」 ミエが相変わらずの調子で言って、肩をすくめてみせた。 「そんなんじゃないわよ。……それにしても、紫苑君のお父さんがそんな亡く なり方をしてたなんて」 あたしはそっちへの興味が湧いていた。まだ捕まってない最後の犯人を見つ けて、とっちめてやりたい。紫苑君がどうしてここに越してきたのかは知らな いけど、考えようによっては凄く危ないとも言えるじゃない。 このとき、あたしは紫苑君に忠告−−暴力団のことを知らないなら気を付け て、知っていて復讐のつもりで来たのなら止めてと−−してあげようと思った んだけど、まさか、電話でする訳にいかないじゃない。それで、明日に伸ばそ うと決めたのが悪かったのよね、結果的に。 朝、教室に入ってみたら、いつも早くから来ている紫苑君の姿がない。どう したのって、何人かに聞いてみると、 「新聞、見てないの?」 と言われた。こう言った彼女は、本の虫で有名だから、新聞もきちんと読ん でるみたい。反対に、朝寝坊の私には、そんな時間がない。あくまで、時間が ないから読まないのよ! 「昨夜、十一時頃ってあったかしら。入峰君の教会で、人が死んでたそうよ」 「え? どういうこと?」 あたしがもっと聞こうとしたら、他の女の子も寄ってきた。途端に騒がしく なる。本の虫も、「死んでいたのは、鮎河原さんのお兄さんてことだけ。他に 詳しいことは載ってなかった」と言ったので、あたしはその騒がしい輪を抜け 出した。死んだのが鮎河原さんのお兄さんてことは、つまり暴力団関係で……。 これはややこしくなりそう。 直に予鈴が鳴って朝のホームルーム。担任の先生は、入ってくるなり、 「新聞で知ってる者も多いかもしれんが、入峰はちょっとした事件の第一発見 者ということで、捜査に協力している。だから、今日は休むと連絡があった。 皆も動揺しないように」 とだけ言って、次の話題に移ってしまった。んもう! 余計に気になるじゃ ない。これは放課後、行ってみなくちゃ。 と考えてる内に、放課後。さすがに鮎河原さんは休んでるみたい。彼女を中 心とした親衛隊も、どう対処していいか分からないって様子。ま、紫苑君を訪 ねるのは、あたし達四人だけの方がいいことはいいんだけど、ちょっと気にか かる。 もしかしてまだ、警察の方じゃないかと心配していたんだけど、紫苑君は帰 ってきていた。まずは一安心。紫苑君のお母さんも快く、あたしやきよちゃん、 ミエ、それに細山君を迎えてくれたみたい。 −続く
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