空中分解2 #2051の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「通り道」 * いいかい、きみたちは知らないだろうけど、風にはね、決まった通り道がある んだ。本当さ。ほら、あそこに変に曲がった松の木が見えるだろう。あれから、 こっちのあの草むらの上をまっすぐに、風が通り抜けていくんだ。南の風なら、 もう決っていつもそうさ。 松の木の腰がふらついて、まるで「をの字」のような格好をした枝がゆらりと やると、息をつく間もなく、あの草むらが、ざざあっ、と鳴るって寸法だ。 あの男はなんて口が軽いんだ、なんて言われるのを覚悟で話すけどね、ぼくは 、この通り道は、決まった風だけが通るとにらんでいる。いつだったかは、若い 風だったし、ついこのあいだは、親子のような風だったなあ。それにね、腰の曲 がった風まで通っていったよ。そのどれもが、決ってあそこの変に曲がった松の 木をゆすり、息をつく間もなくあの草むらの上を駈けていったんだ。 つまり、この道を通る風は、ひとつ家族の風たちなのさ。もちろん、ほかの家 族たちにとって、別の決まった通り道があるんだろうけど。ほら、犬が電柱やな んかにオシッコをひっかけて、仲間への合図にしているのは知っているだろう。 あれと同じ仕掛があって、きっと、風にとって家族の誰かが通ったところは分か るんだろうと思うよ。 実はね、ぼくの考えでは、何か明りのようなものを目印に残していくのに違い ないと思うんだ。それも、自分たちのからだの一部だろうね。人間でいったら、 ゛唾゛か゛血゛だろうか。 おや、いやに鼻毛がむずむずする。そうか、風がくるんだ。ああ、うまい具合 いに湿ってきたぞ。うん、これは、いい風がくるに違いない。ねえ、いいかい、 きみも鼻の穴を大きく広げてごらん。ね、鼻毛がぴくり、というだろう。誰だろ うね、こんどやってくる風は。 きみ、どこへ行くんだい。ねえ、きみ、ったら。あっ、ああ。きみ、やめなさ い。ああ、あ。だめじゃないか。オシッコをかけたりなんかしちゃ。 「風力計」 * 「あっ」 わたしは、思わず顔をそむけました。どおっ、と吹いてきた風が、わたしの足 元で小さな渦をつくると、砂を舞上げたのです。 しばらくうつむいていた後、わたしは、目をこすりこすり歩きだしました。 と、そのときです。「ひゅう るるる」という奇妙な音が聞こえてきました。 おや、とあたりを見回したのですが、その正体らしきものは見あたりませんでし た。 おやおや、わたしが、そうつぶやいたのと同時に、「ひゅう るるるう」とい う音が、また聞こえてきました。こんどは、音のした方向を逃しませんでした。 見ると、通りがかりの家の屋根に、「風見鶏」が建っていて、その頭について いるダインス型とよばれる風力計が、くるくるいそがしく回っているのです。 ほお、わたしは、それを見上げながら、音の正体に納得しました。 ところが、しばらくして風力計がとまりそうになったときでした。どこからか、 「だめだじゃ。続けてやんのは」 「そだそだ。ずるすんでねえべした」 「ずるでなんかねえ」 「したら、おらも続けてやるはんで」 「なんも。かまねべさ。こえぐなるだけだっちゃ」 そんな、子どもたちの言い争う声が聞こえてきたのです。 おや、と首をめぐらしてみましたが、声の主はどこにもいません。小さな透明 な風たちが、そこらを巡っているのが見えただけでした。 ははあ、どうやら、風の子どもたちが、誰がいちばん風力計を速く回せるか、 くらべっこをしているらしいのです。 「いぐどっ」 そんなかけ声が聞こえたかと思うと、青白く霞んだ風が、風力計めがけて、ひ ゅう、とかけていくのが見えました。風力計は、「ひゅう るるる」とうなり声 をあげると、目が回るほどの速さでくるるる、と回転しました。そのとき、「風 見鶏」が迷惑そうに顔をしかめたのを、わたしは見逃しませんでした。なんだい 、あれっぽっちの勢いに、なんてだらしのない、わたしは、「風見鶏」に向かっ て、舌を出してやりました。 「見でろ」 別の風の子が、かけ声もろとも、風力計に突進していきました。「ひゅう る るるう」と風力計が悲鳴のような音をたてると、「風見鶏」までが、ぎっし、ぎ っし、とうなり声をあげました。 「はあ、「風見鶏」がぎしぎし、言ったもな」 「言った、言った」 「べそ かいたべした」 風の子どもたちが、いっせいにはやしました。 わたしも、一緒になって笑いました。そのときの、「風見鶏」のしょげたよう な、怒ったような、にが笑いをしているような、なんとも不思議な顔といったら ありませんでした。 もう一度やったら、「風見鶏」の奴は、どんな顔をするのかしらん、ふふ、ね え、やっちゃえよ、わたしは思わず、そんなことを口の中でつぶやきました。 すると、どうでしょう。 「もういっぺん」 「だあ」 「はやぐするだじゃい」 風の子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきました。 わたしが、にぎりこぶしを振り挙げて、おお、おおと声援を送ったのが聞こえ たのでもありましょうか、小さな風がひとつかたまりになると、どおっ、とばか り、「風見鶏」めがけて駆けて行きました。 「ぴゅう うるるるう」 風力計が、それまでにない叫び声をあげたとたん、さっきまで、つんと気取っ てあさっての方を向いていた「風見鶏」は、ひとたまりもなく吹き飛ばされてし まいました。 そして、瓦を壊しながら屋根の向こう側に滑り落ちると、ガチャン、と景気の いい音を上げました。 わたしは、思いっきり飛び跳ねると、はあはあ笑いながら、かけ出しました。 ところが、「るるう るるう」などといいながら、誰かが後を追いかけてくる ではありませんか。 あれ、わたしはすっかりおどろいてしまいました。どうしたことでしょう。風 力計が、くるくる回りながら、わたしの頭の上を飛んで行くではありませんか。 そのとき、はあ、まんつ、いい気持ちっこだなす、そんな声が聞こえてきまし たが、それは、風の子どもたちのものではないように思われました。 −おしまい− 8/13
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