空中分解2 #2011の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
七月三十日 天気・晴れ 気温・三十三度 夏休み2日目だというのにやりたいことが見つからない。今年は受験だから外出は 差し控えるようにとの担任の言葉がまだ頭に残っている。冗談じゃねえ。休みは遊ぶ ためにあるんだよーん。 午後、参考書でも買おうかと宛てもなく街に繰り出す。返却期限を暫く延ばしていた 市立図書館へ本を返して、それから坂の上と駅の近くの本屋で参考書でも探すかと 考えながら近道である、ホテル街、居酒屋やバーの立ち並ぶ、いわゆる歓楽街をぬけて 市内で一番賑やかな通りへ出る。 一月遅れの七夕の飾り付けが自転車通行者には邪魔で堪らない。細かいやつらが 「あー、きんさんぎんさんだー。」 「せーらーむーんだー。」 と立ち止まって指をさしながら叫んでいるのでこちらも迂闊に飾りに見とれては いられない。そういえば七夕だというのに牽牛、織姫の姿が見当たらない。やはり ただの別居生活者よりも国民栄誉賞の呼び声高き老人の方を世間は求めているのだ ろうか。 バササササササッ ぬぬ、1米近い暑さのビニールテープが足元まで垂れ下がっている。中で何人かと ぶつかったようだが僕に責任はない。 喉が乾いた。 まず図書館へ行く。久しぶりに藤川佳介の小説でも借りようかと思い自動ドアの 所までいくと 【本日休館】 落胆。月末は休館、毎週火曜日は休館、祝日は休館、お盆は休館、年末年始は勿論 休館、火曜日が祝日の場合はその次の日も休館。少しは真面目に働け。うちの親父は 県庁で朝二時まで働いておる。超過労働手当てもでないのに。 いつか労災申告したる。 仕方なく休日用の返却口に本を突っ込むと、ふたたび駅に向かって自転車を走らせ た。 喉が乾いた。 世間はこの暑いのにきちんとまわっている。これは不思議だ。気温三十三度で尋常な 活動をする人間こそが大宇宙の生んだ奇跡なのかもしれない。 結局行った本屋では立ち読みをするにおわり、次に坂の上の本屋へいくことにした。 ここは門前町。市内には有名な寺がおかれているがとにかく高台にあるのでそこへ 至る坂道がきつい。おまけにその本屋は坂道の上にあるので歩道を自転車でとばして いった。 兄は一つ上の高校生。成績は結構優秀らしいが、順応性がなくて人見知りをする らしいのであまり人付き合いがない。そんな兄がいつも通っている本屋だ。 「いい参考書があるぞ」 出掛ける前に兄がぽつりと言った言葉がもういちどだけ頭の中で谺した。 そういえば妹は今年中学受験だ。私立中学を目指しているらしいので問題集でも 買っていってやろうかと小学生コーナーを覗く。 「有名中学突破問題集」 「小学生のベストコーチ」 「これで合格五千問」 「最高水準問題集」 「首都圏有名私立中学受験案内」 そんなごたいそうな物はいらん。目指す中学の偏差値は並だし、第一高い。うちは 赤貧だと親父が言っていたのでなるべく安くて問題数のおおいものを選んでみよう。 「ミニドリル」 「六年生の復習」 ま、こんなところか。 ところで親父はこの間妹の布団に潜り込んで一緒に寝ようとしたら散々殴られて 僕の布団にきて寝ていた。 「俺はリア王だ」 という台詞に爆笑しながら宿題を片付けていたが、咄嗟にそんなことが思い浮かぶ なんて親父は本当は頭がいいのかもしれない。そんなことをあとから思った。 親父は農家の出で、高校を奨学金でなんとか卒業して上京したが、大学受験の費用 を集めるために新聞配達などをしながら金をためている途中に病気になってやむなく 地元の公務員になった、という。十九歳の時だ。 「俺は県一位で入ったんだ」 というのでこっそり調べてみたら本当にそうだった。ただ作文はあまりにも生意気 なことを書いてしまい、点数を引かれて総合では三位だったことも判ってしまった。 凄いな、とその時思った。 親父は公務員にだけはなるな、という。訳を聞くと「貧乏だからだ」という。 そうかな、とは思ったが考えてみれば公務員の息子は奨学金を受けられない。 現に兄は試験には合格したが、あとからの書類提出で「家が公務員なので、諸費用 のやりくりが困難だとは思えない」という判断がくだされて落とされてしまった。 僕は中学二年間とちょっと、のほほんと暮らしてきたからそういった試験などには パスする自信も実力もない。 妹はせめて進学校に入れてやりたい、と親父は考えたのだろう、ここへきて妙に 進学問題と真剣にやりあっている。 参考書代は八百円だった。 それにしても喉がかわいた。 坂を一気に走り下りて、再び七夕飾りの邪魔な通りへ入った。 大きなデパートがあるので、そこでジュースでも買っていこうかと思って地下へ 下りた。 食料品売場は涼しいので好きだ。けれど今は坂の上り下りで疲れているので手早く 買い物を済ませてしまおうとジュースのコーナーへいく。 「ファンタ・ペットボトル 一本 二百六十五円」 「ダイエットコーラ 三本 二百五十五円」 「フルーツ村 一本 八十八円」 どれにしよう。 まず一本単位で考えると・・・八十八円と、二百五十五割ることの三で八十五だから コーラが得、で、コーラ二本で百七十円の勘定になるから、その二倍、つまりボトル 一本分が三百四十円・・・となれば一番得なのはボトルかあ、とそんな数字が脳裏を 過ぎる。 「しかしまてよ、最近あんまり腹の調子よくないし・・・、第一金を使うことには 変わりないんだよな・・・。」 それで決まった。 僕は喉がからからのまま何も買わずに帰宅したのだった。 家に帰ると居間に埼玉でわりと大きな雑貨やをやっているの伯父さんがいた。親が 二人して手招きをするので、挨拶をしながら親父の側に座った。 「丁度雄太も帰ってきたことだし・・・。単刀直入に言ってくださいよ。」 親父は伯父さんに目くばせをした。伯父さんはいいにくそうに口を開いた。 「雄太くんを・・・、うちの養子に欲しいんだ。」 「はあ?」 「嫌だよな、雄太?」 親父が僕の腕を小突く。 最初僕はあまり二人が真剣に僕の顔を見るので、騙しているのだと思った。 話は進んでいった。 僕は何も言わなかった。 長い夏休みが始まった。
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