空中分解2 #2003の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「この部屋ね」 渡された鍵で、部屋の扉を開ける。 「スゥイートと言っていたけど、本当に豪華かな?」 ゆっくりと中の様子が見えはじめる。 「これは凄いっ!」 「わぁ」 更紗達の泊まることになった部屋は、想像以上に凄かった。 部屋は6室を数え、寝室、居間は当然のこと、ビリヤード台、それに高 級酒の並んだカウンター付きのカジノ部屋まであった。 最初入ったところが居間でいちばん広く、グランドピアノが無造作に置 かれていた。 「これ、みんな無料なのっ?!」 「更紗………はしたない」 「いっ、いいじゃない。こんな時くらい」 外の好きな萌荵が一番にベランダまで出ると、そこにはちょっとしたプ ールまであった。 夜空にライトアップされた淡い水色に照り光るプールの横を通り過ぎ、 手すりまで走っていく。 萌荵の想像通り、海からの風が吹きかけてきた。 「気持ちいい!」 他のみんなもぞろぞろと外に出てきた。 「凄い豪華さね」 「僕も来たのは初めてです」 舞姫と更紗のスカートが風に大きくはためく。 風に揺れる髪を後ろに流し、更紗は大きく伸びをした。 「うーん、いい気持ちっ!」 遠くで、海を眺めてはしゃぐ萌荵。 すぐ前で、大きく伸びをする更紗。 後ろで、なびく髪をおさえる舞姫。 そのまま写真にして、残しておきたいような光景だと、芳春は強く思っ た。 プールがさざめき、キラキラと光っていた。 「芳春君、わたし、お礼がしたい」 「えっ? でも、僕は何も」 「おじいちゃんの代わり。お礼したい気持ちなの」 舞姫が、頭をかかえていた。 「また、お金がからまない仕事ばっかり」 「仕事じゃないと思うと、いくらでもしたくなるのっ!」 「えっ、えっ?」 「お母さんに会わせてあげる」 「えっっっ!!」 舞姫が、部屋の中からなにやらとってのついた花瓶を持ってきた。 「こんな感じでいい?」 「ちょっと重そうだけど、いいか」 「あの、母に会うって」 「会いたくない?」 芳春はぶんぶんと横に首を振った。 写真でしか会ったことがない、僕を生んで死んでしまった母に、何度も 何度も会ってみたいと思っていた。 でも、会わせるって。 「なにしろ、この道のプロだから」 そう言って、更紗はにっこりと笑った。 水のいっぱい入った花瓶を両手で持ち、プールサイドまで歩いていく。 まるで、彼女にスポットライトがあたっているように、花瓶をゆっくり と頭上にあげた。 「………………」 何かを呟いているらしい。 まるで、神に祈りを捧げる巫のように。 花瓶をぷぁっと回し、プールに何か文字を書いた。 円、三角、線、文字、絵。 何やら、文様をプールの上に描いたらしい。 空になった花瓶をおき、くるりと振り返る。 風に全身の服をなびかせながら、こちらに来るように手招きしていた。 「はい!」 自分達が向かって行くにつれ、更紗が近づいてくる。 すぐ目の前に来ると彼女はひざまずいて、視線の位置を合わせる。 「来たわよ」 「えっ?」 更紗に後ろがまばゆく光った。 まるで、ライトの光を一カ所に集めたような光。 その光が次第におさまると、そこには一人の女性が浮いていた。 髪をきっちりと結い、和服を着たまだ20代の若い女性。 更紗がびっくりした。顔立ちが、自分とかなり似ている。芳春の父が戸 惑ったりしていたのは、きっとこのせいだったのだ。 「お母さんっ!」 「芳春。あぁ、初めて名前を呼べたわ」 プールの上に浮く、幻像のような芳春の母の頬には涙が伝っていた。 「あとは抱くことができたら本望なんだけどねぇ」 「お母さん……」 「芳春、元気そうで何よりね。ちゃんと守ってやるからね、これからも」 芳春は、何を言ったらいいのか解らなかった。たくさん言いたいことが あったような気がするのだが、何も思い出せはしなかった。 ただ何となく、嬉しくて、寂しかった。 「更紗さん、うちの子をどうぞ宜しくお願いしますね。何やら、義父から 夫まで迷惑をかけているようですが」 「いえ、こちらこそ、お礼を言いたいくらいです」 後ろの方で、花火が上がった。 お祭の終わりに合図代わりに打ち上げる花火が、赤い火の弧を作って夜 空に消えた。 「懐かしいわ。あの人にプロポーズされたのもこのお祭の時なのよね。あ なたが生まれたのも、この頃だし」 からからと、笑った。かなり明るい性格らしい。 「芳春、言いたいことはあまりないわ。とにかく遊びなさい、恋をしなさ い」 知ってか知らなくてか、舞姫のことをちらっと見つめ、そして向きなお り、芳春の瞳を真剣にじっと見据える。 「そして、幸せになりなさい」 命令口調だが、その中にこらえきれないほどの優しさが含まれていた。 幸せになりなさい………。 芳春の胸が、ぐっときた。 いいたい言葉も、何も言えなくなってしまうほどに。 「芳春君のお母さん、良かったら私の体をつかいませんか?」 「ああ、乗り移るのね? でも、いいわ。そんなに多くをのぞんじゃ、他 の人に悪いわ」 「それじゃあ、明日。あの人をお祭に誘いますから。いかがですか? 親 子水入らずなんていうのは」 「夫をですか? それなら、お言葉に甘えようかしら。なにやらあの人、 今回のことでぐじぐじ悩んでいるみたいだから」 芳春の母は、ちょっと蹴るようなまねをした。 「そのなまっちょろい根性に、ちょっといっぱつ蹴りを…………あら、は したない」 やっぱり、面白い人だ。 あの人に、実に合いそうな明るい女性だった。 「また明日ね。芳春」 そう言うと、出てきたときのようにまばゆい光をはなち、消えてしまっ た。 あとはただ風と、花火の音だけが残った。
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