空中分解2 #2002の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ホテル別館、プール。 50メートルのレーンが8つ、深さは1メートル30センチ。 天井は2階分の高さがあり、ほぼガラス張りになっている。 そのガラス張りの天井は、蒸気にその面を曇らせているものの、本館か らもれる部屋の明かりをまるで星のように映し出していた。 白い床、白い壁、白い監視台。 カフェテリアとジムがガラス越しに見渡せる。 そんな豪華なプールに、いまは4人しかいなかった。 スポーツ万能の萌荵が、その細い体をゆったりと曲げ、ぴったりとスタ ート台に手をつける。 足はピンっとのばし、顔だけじっと正面を見据える。 髪からは、水滴がしたたり落ちていた。 「よぉーいっ………どんっ!」 更紗のかけ声を合図に、萌荵がきれいな弧を描いて、水面に没する。 水しぶきや音がほとんどしない。 すいっと15メートルほどを魚のように水中を進むと、水面に上がりク ロールで泳ぎはじめた。 さして急いでいる様子もないのに、かなり早い。 「おかしいわね。こぐための表面積は小さいはずなんだけどなぁ」 「その分、水のあたる面積も小さいからね。更紗とは違って」 「本当に、きれいな泳ぎですね」 三人三様の言葉を呟きながら、萌荵を見守る。 萌荵はさっさとターンをすまし、やおら潜水した。 すぃ、とこちらに向かってくる。 「やばいっ」と言うが早いか、今までプールサイドで落ちついていた更紗 と舞姫が、床に上がった。 「えっ?」 対応の遅れた芳春は、またしても、萌荵に抱きかかえあげられた。 「わぁ!」 と言う間もなく、萌荵が全力で泳ぎだし、芳春の体は反対サイドまで持 っていかれた。 「あはは、大丈夫? 芳春君」 「だっ、大丈夫です。泳げますから」 「よし。じゃあ、肩をつかんで。しっかりと」 「えっ?」 萌荵が背中を向く。わけも解らず、肩をつかんだ。 萌荵は、水中に入った。 肩をつかんでいるだけで必死だったけが、凄い光景だった。 ぐんぐんと壁が近づいてくる。まるで、本当に魚になったような気がし た。 「ぷはぁ!」 「おかえりぃ」 芳春の目はまん丸に見開かれていた。 「えらい、えらい。よく手をはなさなかったね」 きれいだった。 溺れている状態に近かったかも知れないけど、でもプールの反対側まで きれいに見渡せた。 お魚さんは、あんな光景なんだうか。 更紗の手をかりて、床に上がると、しばらくぼぉっとしてしまった。 かわって、更紗もざぶんと入り、萌荵はどんどん泳いでいってしまった。 少し落ちつくと、横に舞姫が座っていることに気がついた。 黒地のワンピース。胸元にちょっとだけ花のようなアクセントのある、 すっきりとした水着につつまれ、舞姫がすぐ横に座っていた。 「まっ、舞姫さんは泳がないのですか?」 初めて名を呼ぶことにちょっと緊張してしまった。 「えっ、いや………その………こうしている方がいいの」 舞姫の方の反応はずいぶんと意外だった。焦っていた。 眉目秀麗、成績優秀、沈着冷静の彼女。 「もしかして、舞姫さん」 「そうよぉ、舞姫は泳げないの」 更紗がぱたぱたと、水をたたきながら言った。 「それじゃあ、教えてあげますっ!」 「いいわよ。別に泳げなくたって」 「教えてあげます。舞姫さんには、いろいろ教えてもらったから」 芳春の真面目な言葉に、思わず舞姫は真っ赤になった。 「そっ、それじゃあ。少し」 「ひゅう、ひゅう!」 「うるさいわねっ! 更紗っ!」 「それじゃあ、向こうの浅い方にいきましょう」 「………うん」 プールの奥にある浅い場所へと二人だけで、行ってしまった。 更紗は、くっくっと笑いながらそれを眺めていた。 疲れてきた萌荵と、更紗は一緒に床に上がり、その二人の様子を眺めた。 「不思議な光景ね。芳春君、引き取って良かったわね」 萌荵がそう言うと、更紗がぷぅっと吹きだした。 「あの、あの堅物の舞姫が、顔を赤くしてっ!」 「いい傾向じゃない。私の初恋も、あの頃だったなぁ」 ひとしきり笑うと、静かにその二人の様子を眺めはじめた。 いい子じゃないか。 それにだんだんと馴染んで来ているし。 「お父様も誠実そうな方だったし」 「うん、でも」 「でも?」 「何というのかな、誠実だし真面目だと思うけど、あのお父さんここのプ ールみたいな気がする」 「プール?」 萌荵は、いちどこのプールを眺めまわした。 でも、何の違和感も感じない。 「プールって、どういう意味?」 「萌荵がこのホテルのオーナーとする。あなただった、どうやっておもて なしする?」 「プール、食事、ジムでみんなでワイワイ」 「そうそう。でも、あの人は一人が好きみたいね」 「ふぅん」 「正しくは、一人が寂しくはない。一人でいることの方が普通なんじゃな いかな。こうやって貸し切る方がもてなしだし、自分は顔も出さない方が もてなしみたいね」 舞姫は絶対に信じないが、この更紗も良く考えているし感じていること を、萌荵は知ってた。 それに比べて、自分は何も考えていないし、感じていないことを嫌に思 うこともあるのだが、 「いいの。だから萌荵はいつも幸せだし、周りも思わず幸せになっちゃえ るから」 と言う更紗の言葉で、安心している。 「このプールは豪華だし、綺麗だし、隅から隅まで注意が行き届いている けど、私からみると寂しいような気がする」 「でも、プールなんて、そんなものじゃないの?」 「うっ、そうかも」 前言撤回。やっぱり、大して考えていない。 「でも、何となく、解る気がする」 芳春君を見ていると、そう思う。みんなが当然持っているものを、彼は 持っていないような気がする。 彼はここにきてから、初めて外にでた小鳥のように、目を白黒させてば かりいる。世界はこんなに広いんだよ、楽しいんだよと、思わず連れ回し たくなってしまう。 まぁ、更紗の言葉に変えれば、からかいたくなる、だろうけど………。 視線の向こうで、真面目な二人が真面目に泳ぎの練習をしていた。 ほほえましいほど、真面目に。
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