空中分解2 #2001の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ホテル、いつもの部屋で芳春の父は働いていた。 そこに、フロントに立っていたはずの従業員が現れた。 「支配人、御子息様がいらっしゃいました」 父は、しばらくなぜ息子が来たのか思い当たらぬようにしばらく考えて いたが、やがて腰をあげた。 部屋を抜け、広い事務室を抜け、フロントに出る。 十階まで吹き抜ける広いロビー。 茶褐色の大理石を主とした落ちついた床が、外からの夕焼けと周りのラ イトで照らされる。 その中、雑踏の中、3人の一際めだつ娘達に囲まれて、息子がいた。 その美しい娘達に、見覚えがあった。特に、長女の更紗に。 父は、ちょっとのためらいの後、更紗に声をかけた。 「ようこそ、おいで下さいました。本来なら、こちらから先に御挨拶に行 かねばならないと言うのに」 「良かったら、」 言葉の途中で、更紗の声が入った。 「は?」 「良かったら、御一緒に夕食を食べませんか?」 「……………」 最上階、この街一番の展望を誇るレストランの一番おくまったテーブル に、5人は座った。 窓の下では、だいぶ暮れかけた夕焼けに浮かび上がる、祭の様子が見え た。 元国道ぞいに沢山の露店、家族、恋人、友達などが溢れている。 家の明かり、ライトが次第につきはじめる。 次第に、夜になっていく。 山ぞいに浮かぶ月が、しだいに白く光りはじめていた。 「息子が………芳春がなにか」 父は、芳春が何かをしたために、もしくは祖父の約束がデマだったため に、芳春が返されるのだと、想像した。 いや、息子もそんな悪い人間でもないし、祖父もデマを言うような人で はない。 息子は父と一緒に住んだ方がいいと言う理由だろうか? 芳春も、同じようなことを考えていたが、更紗の答はその逆だった。 「芳春君を、いただきに来たのです」 「……?」 「芳春君をすっかり気に入ってしまいました。彼さえよろしければ、佐久 間翁との約束通り、預かりたいと思って」 その後、更紗は「こんな娘が当主ですが」と照れ笑いをつけ加えた。 父は不思議な気分だった。そう言われて急に、寂しい気持ちがしたので ある。 他人に大事なものを盗られたような、寂しさ。 それでも、父は芳春に目を向けた。 全ては、芳春自身の気持ちに任せるつもりだった。 「ぼっ、僕は、どちらでも構いません」 そうか、どちらでも、か。ならば、祖父の約束は絶対である。 「祖父との約束通り、どうぞ宜しくお願いします」 更紗は、にっこりと微笑んだ。 「解りました。責任を持って、預からせていただきます」 更紗がピース、ピースと芳春と舞姫にサインをおくったが、舞姫はつれ ない顔、芳春は苦笑するしかなかった。 料理が運ばれてきた。 まずは、前菜とパン。 「いつも、このパンのせいでお腹一杯になるんですよね」 と愚痴ったのは、常にお腹をすかしている萌荵だった。 目に前にあるものは、だいたい口に運んでしまう彼女は、一品ずつ持っ てくる中華料理をもっとも苦手としている。最初の方でお腹をすぐに一杯 にしてしまい、最後まで食べた経験がないのである。 西洋料理でのネックは、このパンだった。 どうしても、メインディッシュがくる前に、食べ過ぎてしまうのである。 もっとも、体格からは想像ができないぐらい食べるのではあるが。 いつものようにずっと黙っていた舞姫が、前菜に手をつける前に、芳春 の父に目を向けた。 「一つだけ、質問をしてよろしいですか?」 「なんでしょうか?」 「息子と離れて暮らして、寂しくはないですか?」 実際のところ、それほど寂しい気持ちがしなかったので、返答におもわ ず口ごもってしまった。 「息子にとっていい経験になれば」 とだけ、答えた。 更紗は、いつもの調子で前菜をぺろりと平らげると、「舞姫の方が美味 しいわね」と呟きながら、言葉を続けた。 「実は今日、突然こちらに来たのには、理由があるのです」 舞姫が思わず、「本当に考えた行動なの?」と疑わしげな視線をよこし たが、更紗は構わず続けた。 「芳春君がなるべく早く馴染んでくれるように、早くお父さんに会ってお きたかったのです」 ふむ、と頷いたが、ちょっと首をかしげた。 「会って、それで?」 「いやその、会って話をすれば、今あるつっかえが取れるかななんて……」 舞姫が、「やっぱり何も考えていない」と苦々しい顔をした。 でも、芳春には何となく理解ができた。 神無月家にもらわれることに、あまり抵抗はない。が、でも何となく、 つっかえがある。何だかしらないけど、心が苦しい。 なぜ、更紗はそれを知っているのだろう? 「それに、佐久間翁との約束も早めに果たしておいた方が、あなたのつっ かえも取れるかな、なんて」 あはは、と更紗が笑ったのに対して、父は強く頷いた。 「そうですね。貸し切りにはできませんが、どうぞお泊まり下さい。祖父 も喜びます」 祖父。 舞姫のスープをはこぶ手が止まった。 「もう一つ、お尋ねしてよろしいですか?」 「はい」 「佐久間翁はどんな考えがあって、芳春君を預けることにしたのでしょう か?」 これには、さすがの父も答えられず、しばらく沈黙が続いた。 「私も知らないのです。御存じないでしょうか」 ト 舞姫も更紗も首を横に振った。 「そうですか」と言って、ため息をひとつつく。やはり、私のせいなのだ ろうか? 何はともあれ、考えるのはよそう。 ほとんど会えないのだから、むしろ彼女達に任せた方が芳春にとっても 幸せのはずなのだから。 「それにしても、御聡明な方ですね」 「末妹です。姉としては、肩身が狭いです」と更紗が言うと、父ははじめ て笑った。 「芳春と同級でしたね。話を聞いたことがあります。どうぞ、宜しくお願 いします」 「こちらこそ」 「今日は、貸し切りの代わりにスィートにお泊まり下さい。プールの方は 8時で終わってしまいますので、それから貸し切りにしましょう」 外の夜景はいつしか、街の明かりだけとなっていた。
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