空中分解2 #1996の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ダブルデート。 おれはあまり乗り気じゃなかった。未那子の友達が言いだしっぺらしいが、お れは、あいつの友達もその彼氏もぜんぜん知らない。 未那子に親友がいるのは聞いたことがある。なんでも、彼氏を見つけたら二人 でダブルデートをしようと約束していたという。 おれは、1年前彼女と知り合い、その親友の友達は最近彼氏ができたらしい。 で、おれを自慢したいらしい。なんともあさはかな考えだろうか。 だけど憎めない奴である。 しょうがないからおれは行くが、本当は気がのらないのだ。 電話のベルが鳴る。 多分、未那子だ。おれが、ダブルデートをフケるんじゃないかと心配なんだろ う。 「もしもし、加納です」 −「あきらぁ、忘れないでよぉ。明日は、1時だからね」 いつもの舌ったらずのソプラノヴォイスがキンキンと響く。 「電話に出ていきなり喋るな!間違い電話だったらどうすんだよ」 こいつは、電話だということを気にもせず、普段の口調で話しかけてくる癖が ある。 −「だってぇ、あきらにそんな事務的な応対をしたくないもの」 「わかってるよ。いつものことだし…言ってみただけだって」 −「そうそう、明日はきちんとした格好できてね。そうそう、このあいだ買ったア ルマーニのスーツを着てきてよ」 「おれは着せ替え人形か?」 −「だって、アレすごい似合ってたじゃん、あきらに。だから、買ったんでしょ?」 「そりゃ、おまえに褒められたから思わず買っちまったが……だけど、なんかいま いちおれらしくない気がしないでも……」 −「でもかっこいい」 「服がかっこいいんか?」 −「違うよぉ。あれを着たあきらがかっこいいの」 「そう面と向かってマジで言うなよ……照れるって」 −「これ電話だよ」 「だぁぁぁ!おまえと漫才してる暇はないんだ。明日のデートの為に今日中に仕上 げなきゃならない仕事があったんだ」 −「大変ね。がんばって」 「おまえ……人ごとだと思って……」 「げっ!」 洋服ダンスを開いて、おれは唖然とした。 ない。 あの高い金を払って買ったアルマーニのスーツがない。 「そうだ!この前汚しちまったものだから、クリーニングに出したんだっけ…それ も未那子の家の近くの店に」 おれは、あせりながら電話を取る。約束の時間まで、あと二時間。おれは、1時 間あれば行けるが、未那子の家からだと2時間かかるはずだ。まだ、出てなければ いいが。 ――プルルルルル…プルルルルル… 呼出音は鳴り続ける。 「遅かったか」 おれは、ため息をつくと洋服ダンスを見つめる。 「しゃあねぇなぁ、はき慣れたジーンズで行くっきゃないな」 待ち合わせの場所は、とあるホテルのロビー。 近くにあるホールで行われるオーケストラのコンサートが、今日のメニューらし い。未那子は大丈夫だろうか、あいつはミーハーなロックファンだからな。 おれは、時間よりも少し遅れてそこへ着いた。 未那子が手を振りながら、こちらを向く。服に逆に着られているような、ロング ドレスを着て、めいっぱいめかしこんで。 「あきら、こっち……………!?!?……」 おれを見つけた未那子の目が点となる。そりゃそうだ。かっこよくびしっと決め てくるはずだったおれが、ラフなジーンズで来るとは思ってもみなかったのだろう。 その場につくと、未那子は、二人におれを紹介する。そして、いきなりわき腹を つねりながら小声でおれに呟く。 「何よ?その格好」 「何ったって…しょうがないだろ、着るものがなかったんだから。これでも、一番 いいやつを着てきたつもりだ」 「スーツは?!」 その声は半ば恐喝調であった。だけど、もともとそういう口調は似合わない舌っ たらずなので、思わず笑いそうになる。 「いやぁ、実はクリーニング出したままだったの、すっかり忘れてた」 「あきら、まだ取りにいってなかったの?」 「だって、そうそう着るものじゃないだろ。高いもんだし、クリーニング屋に置い といた方が安全かな…なんて」 「あきれた」 未那子の顔が少し膨れる。こいつは、怒ってもけっこうかわいいトコがある。 「ないもんはしょうがないって」 「加納さんはどちらへお勤めなんですか?」 未那子の親友の彼。たしか、西田という奴がいきなりおれに訪ねてくる。ブラン ドもののスーツを着て(おれはそういうのに無頓着なので名前まではわからない。) 男のくせに上品な手つきで、コーヒーを口に運んでいる。 コンサートの終了後、ホテルの喫茶点におれたちは入った。もちろん、この西田 とかいう奴の提案だ。 「おれは、フ………………」 「彼は出版関係の仕事をしてるんです」 未那子がおれの言葉を遮りそう語る。本当は「フリーのライターで、小説家志望 なんです」と言うつもりだった。まあ、未那子は嘘は言っていないが、少し引っか かる。 しかし、この相手の男の目線は、かなりおれの事を見下しているようだ。さきほ どから不自然な視線をひしひしと感じる。まるで、自分の方が優っていると目で語 るように。 「私は、商社の人間でね。いつも外国に飛ばされているから、あなたのように国内 で働ける人間が羨ましいよ」 西田のほとんど嫌味な話が延々と続いていく。こんな奴にはつきあってられない。 そう思うと自然に身体が立ち上がる。 「失礼」 おれはトイレへ行くふりをして、仕事仲間に電話する。おれのポケベルを鳴らし てもらおうと悪知恵を働かせ、なんとかこの場からの脱出を試みるためだ。 しかし、おれが電話をかけて戻ろうと瞬間、未那子が二人に何かを言いくるめら れているの気配を目撃する。二人の声は小さくてよく聞き取れないので、なにを言っ ているのかわからないが、あきらかに未那子はうつむいて悔しそうな顔をしている。 おれは、しばらく様子を窺おうかと思ったのだが、未那子の十八番〔おはこ〕の 涙が流れだしたので、そうもいかなかった。 早足で未那子のもとに戻る途中で、突然、あいつの叫び声があがった。 「あなたたちに、あきらの良さなんて…………ばかぁ!!!!!!」 未那子はそのまま、店の外へと駆け出していく。 そして、おれの姿を見つけた二人は、苦笑しながらばつの悪そうな顔をしている。 「あんたら、未那子に何を言った!!」 おれは興奮して男の胸ぐらを掴む。 「いやぁ…そのぉー」 男ははっきりしない。 「ごめんなさい。あたしよけいなことを言ってしまったの。あなたのことを何も知 らないのに……ごめんなさい」 未那子の親友のその子は、ひたすら謝るだけだ。こうしていてもらちが明かない。 そう思うやいなや、おれは未那子を追って走り出していた。 未那子は近くの公園の大きな木のそばで、後ろを向いてうつむいていた。 「未那子」 おれはなるべく優しく呼びかける。が、その瞬間。 「だから言ったのよ!」 未那子が泣きながらおれにぶつかってきた。 おれは何も言えない。こんなに悔しそうで、悲しそうな未那子をみるのは初めて なのだから。 未那子は、か細い両手でおれの胸を一生懸命叩き始める。 「だから、言ったのよぉ!…仕事とか…見た目とか、すぐ見えるトコでわからなかっ たら、あきらがどんなにすばらしい人間かなんて、誰にもわからないんだから!」 未那子はその言葉を泣き叫ぶと同時に叩くをやめ、そのままおれの胸へとすがり つく。 「そんな事、関係ないだろ?」 「違う…違うよ、あきら。あたしはこんなにも、あきらのことが大好きなのに……」 多少、しどろもどろになりながら泣き続けている未那子の涙が、大量におれのシャ ツへと染み込まれる。 「おいおい、そう泣くなって」 そっと腕をまわし、未那子の小さな躯を抱きしめる。 いつもは、そんなに気にしてなかったのに、どうして今日はこんなに小さく感じ るのだろうか?あらためておれは、未那子という存在を再確認する。 「……なのに…なのに、あきらはわかってくれない!……あたしはあなたの良さを 知っている。世界中の誰よりもいっぱい知っている。だけど、世間はあなたのこと はわかっちゃいない。……あたしはそれが悔しくたまらないの」 未那子は、涙をすすりながらおれを見上げる。 「世間がどう思おうと、おれは別にかまわないよ。未那子がそれで、愛想をつかす というなら話は別だが……」 「言ったでしょ。あたしは、あきらが好きって。……あたしが昔から落ちこぼれだっ たって話したでしょ?小さい頃から褒められたことがないって。いっつもお父さん に怒られてばかりでね…社会に出てからもはみ出し者、やっかい者って、言われ続 けてきた。だけどね、あたしはたった一つだけ自慢できることがあるの。それがあ きらなの…あきらを好きになったことなの。…だから……あたしはけなされたって かまいやしない。……だけど……だけどね……」 「わかったから、もう泣くな。」 「あたしはずっと思ってた。みんなに、あきらをほめてほしかったんだって。…… あたしはそのことを誇りに思いたかったって……それって、わがままなの?」 未那子の問いにおれは何も答えられない。いつもなら、笑って「わがままな奴」 と言えるだろうが、今は言えない。 わかっている。 おれは、自分にぶっきらぼうだっただけじゃなく、未那子にもそうしてたんだと いうことを。 おれは、未那子を本気で好きになっていたのだろうか? もしかしたら、かっこばかり気にしていたのは、おれの方だったのではなかった のか? 好きだからこそ干渉したい。 そんなことを疎ましく思ってしまうのは、やはりかっこ以外の何物でもないのだ ろう。 おれは、未那子を抱きしめながらそう感じた。 (了)
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