空中分解2 #1987の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
午後六時十分。僕はタイムカードを押して会社を出る。今日いちにちの労働 が終わったのだ。もちろん、まだ残って働いている同僚や上司もたくさんいる。 けれども、僕は今日は早く上がらせてもらうことにした。仕事も一段落ついた し、そのためにここ一週間ほどはかなり残業したのだ。少しは楽をさせてもら ってもいいだろう。 外は曇り空とはいえ、まだ陽は落ちていない。湿度が高くて暑い。僕は地下 街を歩くことにした。地下街なら冷房がきいている。 地下街は、僕の向かっている私鉄の駅へと急ぐ人と、それとは反対に僕がい ま来た方にある地下鉄の駅へと急ぐ人とで混雑している。僕は反対方向から流 れてくる人々を軽く身をかわして避けてゆく。ここでは人はお互いに単なる遮 蔽物にしか過ぎない。そして僕も紛れもなくそのなかの一つなのだ。往き交う 人々のことをよく眺める訳でもなく、ぼんやりと前方に焦点を合わせながら歩 いてゆく。 誰が誰であろうとお互いに関わり合いはない。もっと正確に言えば、関わり 合うことはできないし、関わり合う可能性はないのだ。 長いエスカレーターを昇って、ようやく駅に辿りつく。夜は帰る時間が人に よって異なるので、朝に比べると構内はずっと歩き易い。僕は発車間近の特急 に乗り込んだ。 吊り皮につかまって派手なネオンが窓外を流れていくのを見送る。朝ほど混 んではいないものの、吊り皮が余るほど空いてはいない。立派に乗車率は百パ ーセントを超えている。 吊り皮につかまってぼんやりと外を眺めている僕と同年代くらいのサラリー マン。新聞をしかめっ面で読んでいる中年の管理職風の人。漫画に没頭してい る派手なTシャツの男、たぶん大学生だろう。大きな鞄を膝に抱えて眠ってい る座席の制服の女子高性。吊り皮につかまらずにじっと窓の外を見ているOL、 そのせいで電車が揺れる時には必死でバランスをとっている。 誰もが好きで朝晩満員電車に乗っている訳ではないだろう。どんなに馴れっ こうになった人でも、狭いところに他人と一緒に押し込まれて、電車が揺れる 度に他人の靴を踏まないようにバランスをとることが、苦痛でない筈はない。 ここでは誰もが被害者でしかないのだ。 満員電車に揺られている自分の姿を仮の姿だと考えるのは無理のないことだ。 なぜなら個人が拒否されるからだ。はやりの映画をやっている映画館や評判の よい飲食点なんかでも、これと似たようなところがある。簡単に言えば、人間 が商品や物として大量に一括して扱われるのだ。誰が誰であろうと構いはしな い……。 と、そこまできて僕は地下街のことを思い出した。(誰が誰であろうと関わ り合いはない)という言葉を思い出したのだ。結局僕たちは人混みの中に紛れ 込んでしまうと、一個のモノに成り下がってしまうのだろうか。この疎外感を 拭うにはどう考えればいいのだろう。 電車が僕の降りるべき駅に着いた。僕の乗ってきた後ろから二両目のこの車 両は、駅の出口に一番近いところに停車するから、どっと人が降りる。僕は降 りてゆく人たちの軽いだんご状態の渦に加わった。少し押し合うような形で僕 は電車から吐き出されてゆく。只一個のモノとして。
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