空中分解2 #1947の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
さとるはヒマワリの黄色い花の下にしゃがみこんで、忙しそうに立ち働いて いる蟻たちをじっと見ていた。黒蟻たちがヒマワリの根っこのところに作られ た小さな砂糖の山に群がっていた。白い砂糖の小片を口にくわえて運ぶ黒蟻た ちの行列と近くの巣穴からやってくる仲間の蟻たちの行列とが絶え間なく擦れ 違いながら地面に一本の黒い線を描き、真夏の陽の光りに照らされながら左右 に微妙に揺れ動いていた。さとるは、黒い艶やかな身体を持った黒蟻たちがチ ームワークよく勤勉に立ち働く姿を見るのが大好きであった。このときだけは 厭なことを一切忘れることができた。 しかし、さとるのこの幸福な時間は赤蟻たちの襲撃によっていつものように 中断されてしまった。砂糖の匂いを嗅ぎ付けてやってきた赤蟻の大群に黒蟻た ちは追い散らされてしまったのである。彼ら赤蟻は黒蟻たちよりはるかに体が 小さかったが、戦闘においてはよく鍛えられた戦士たちであった。労働におい て勤勉な黒蟻たちも、赤蟻との戦いでは木偶の坊同然であった。逃げ遅れた何 匹かの黒蟻たちが赤蟻たちによって横っ腹を激しく噛みつかれ、死骸となって 地面に転がった。 さとるは小学校2年生。家でも学校でもとても大人しい子であった。まだ幼 いのに、なにか心の中にあるものをいつも自らぐっと抑制しているような子供 であった。商店街の七夕祭の夜、従兄の道夫さんと連れだって祭見物に行った ときも、さとるはなにも買わなかったし遊びもしなかった。その夜、商店街に はいろんな夜店が賑やかに立ち並び、綿菓子の袋や色様々な風船が風に揺れ、 トウモロコシやお好み焼きの香ばしいかおりが通りに漂った。こんなとき、子 供たちは心をわくわくさせながら手に持ったお金を握りしめ、金魚掬いをしょ うかボンボン釣りをしょうかといろいろ迷うものである。さとるもプラスチッ クの大きなたらいのなかをモゾモゾと動き回るヤドカリには興味を持ったよう であった。立ち止まってじっと眺めているさとるのそんな姿を見て、道夫さん が、「ヤドカリ、欲しいの。買おうか」と声を掛けた。しかし、少年は黙って かぶりを振り、またすたすたと歩き出した。その後も、道夫さんがいくらさと るに誘いかけても、さとるはなにも欲しがらなかったし、遊びたいとも言わな かった。 従兄の道夫さんはさとるの家庭教師もやっていた。さとるはとても賢くて理 解力があったし、それに大人しかったから、とても教えやすい子供であった。 しかし、その日のさとるは全く勉強に身が入らなかった。道夫さんの話を上の 空で聞いていた。しかし、それも仕方のないことであった。さとるの両親の激 しい夫婦喧嘩の声が二階の子供部屋にまでびんびんと響いて来るのだから。 さとるの父の鈴木さんはさらに声を荒げてどなった。 「やることがいくらなんでも無茶苦茶じゃないか。彼女からの手紙だけなら ともかく、俺に来る手紙を全部隠してしまわなくったっていいだろう。早く 返してくれよ!!」 だが、鈴木さんの奥さんは大きくかぶりを振って言い返した。 「変な言い掛かりをつけないでよ。そりゃ、あの女の手紙は見たわ。でも、 あの女の神経がよく分からない。何度も何度も家に手紙を送ってきて。私が 開封することを初めから分かっていて、嫌がらせにやっているとしか思えな いわ。そうよ、あの海老名早苗って女はそんな陰険な女なのよ。でもねー、 なんで私があいつの手紙を含めてあなたへの手紙をみんな隠さなければなら ないの。そんな馬鹿な言い掛かりをつけて、一体あなたたちはなにを企んで るの!!!」 階下での夫婦喧嘩はますますエスカレートしていった。じっと下を向いて聞 き耳を立てていたさとるが、急に道夫さんに顔を向けて質問した。「えびなと いう人の名前は漢字でどう書くの」。 翌朝、新聞を郵便受けに取りにいった鈴木さんの奥さんは、郵便受けのなか に鈴木さん宛の手紙が何通か入っているのを発見した。但し、海老名早苗から の手紙は一通もなかった。 さとるは今日も学校から帰ると独りで蟻の行列を眺めていた。
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