空中分解2 #1920の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二 ある日の放課後、次郎はマリオと教室にたまたまふたり残ることがあった。 最後の授業の国語の教科書のある文章について話をしていたのだ。その文章で 作者が本当に言いたかったことは何だったのか、教室の後ろの方で二人は話し こんでいた。まあ、こんな所だろうと言うところに話が落ち着いたとき、次郎 は幸福の木がまるで二人の話を聞いていたかのごとく、ひっそりと立っている のに突然気づいた。言いにくそうにではあったけれども、次郎は話題を変えて みた。 「マリオが転校してきてからしばらくして気がついてたことなんだけど。。。」 「なに?」 「君はこの幸福の木に何かしてるの?」 「どうしてそんなこと言うんだい?」 「だって、マリオがこの木に近づくときはいつも木が葉をゆらすように思えて しょうがないんだけど。」 マリオはとっさにはそれには答えず、しばらくだまっていた。 次郎は聞いてはいけないことを聞いてしまったのかという気がした。 「公園へ行こう。」 「うん?」 マリオが突然そう言い出したので、次郎はたじろいだ。が、マリオは教室を 出て歩き始めた。 いつも小学生が野球をやっている公園には、イチョウの木が6本まばらに 立っていた。公園のこちら側は五十センチほど土地が高くなっていて、その高く なったところの中央に、ちょうど腰掛けにできるほどの高さの丸いコンクリー トの台が直径十メートル足らずの円形に6個おいてあった。マリオはだまって そのひとつに腰をかけ、イチョウの木をながめはじめた。次郎も彼のななめう しろに腰かけた。マリオは何も言わない。もともとマリオは姿勢はいい方だっ た。マリオの表情はうつろで、どのイチョウを見ているでもない。イチョウの 木は、なにごともないように風に葉をゆすらせている。 (これではまるでマリオんちのピースケだな) 次郎はマリオの顔とイチョウの木をくりかえし見つめながらそう思った。 20分ほどもそうしていただろうか? 「きょうはこれくらいでいいだろう。」 次郎はあっけにとられたが、マリオの言うまま帰る道へと向かった。 翌日も天気は良かったが、やや風は寒かった。同じようにマリオは丸いコンク リートに腰掛けてイチョウの木をながめる。それをうしろから次郎がみている。 時は流れ、 「きょうはこれくらいにしとこう。何か感じた?」 「えっ? 何も。」 「いいんだよ、それで。」 (これではやっぱりピースケだな) 次郎はそう思ったが、幸福の木のことが気になった彼はあきらめなかった。 さすがに雨の日はやらなかったが、そうしたことが数回も続いた。そんなある 日、次郎の気持ちに変化が起こり始めた。イチョウの木が数本立っていて、そ れが風にそよいでいる。黄色く色づいたイチョウの葉は一枚、また一枚と散っ ていく、それをマリオがながめている。その全体の風景が浮かび上がると同時 にマリオの気持ちだけでなく、イチョウの気持ちまでもが、はじめはかすかに、 そして段々はっきりと伝わって来るような気がした。ちょうどそのとき、マリ オは次郎の方をふりむいて言った。 「どう?」 あてずっぽうでもいいからと次郎は右手に目をやって答えた。 「あっちの木のことを話していた。」 「そう。」 マリオはにっこりしてそちらを見た。そのときになって初めて次郎は公園の すみにケヤキの大木が十メートルくらい離れて2本あることに気がついた。ケ ヤキは七十センチほどの幹の太さで、高さは約三十メートル、葉がよくしげり 木陰(こかげ)はうす暗いほどだった。 マリオは太い方のケヤキの方へ歩いて行った。日差しがよくおい茂った葉の 木陰にはいると、その木にしかないと思われる、むせるようなにおいがした。 ケヤキの後ろにベンチがあり、マリオは木陰にこしかけた。次郎も横に並んだ。 マリオは何も言わない。ケヤキからはシャワーのように何かがふりそそいでく るようで気持ちが良かった。マリオの表情を見ても次郎にはマリオも同じ気持 ちなのだと感じられた。その日、次郎にとって公園にいた時間はずいぶんと長 かったように思え、帰ってもしばらくはボーッとその日にあったことばかりを 思い出していた。 それからはよくいろいろな問題、時には二人にとっては歯が立ちそうもない ような問題について話ながら、いつものようにどちらからともなく、ことばす くなに公園へと向かう日があった。 「人間はどうして動物を殺して食べなければ生きて行けないのだろう?」とか、 「きれいなものは、みんながきれいだと感じるのはどうしてだろう?」とか。 二人はケヤキに向かってこしかける。と、いつのまにかケヤキが二人の話にま るで父親のように耳をかたむけけているような気がして二人は顔を見合わせた。 とにかく、ケヤキは二人の話に耳を傾けてくれるような感じがするのだった。 「それは二人の考えのまま話を進めていいだろう」とか 「ちょっとそれはよしたほうがいいだろう」とかいう返事が返って来るような 気がするときもあったが、二人とも年上の人に自分達の気持ちを聞いてもらえ たという、そのことだけで満たされたものを感じてしまうのだった。なるほど、 ケヤキは樹齢百年はあると思われる大木であった。 たいていはそのくらいのひかえめな意見だったが、時には「それはいかん」 とおこられたような気になることもあった。 ケヤキだけではない。次郎もそのころから自然に教室の幸福の木に心の中で あいさつするようになった。すると気のせいかも知れないが、幸福の木が葉を ゆするような気がするのだった。みちばたの雑草や鉢植えの花を見ても「きょ うは元気そうだな」とか「悲しそうだな」という気持ちが伝わって来るような 気になって鉢の位置をひなたに変えたり、水をやったりすることがあるように なった。 十月にもなると、公園のいちょうが黄色く色づいてパラパラとまい落ち始めた。 それにやや遅れて、ケヤキの木も葉を落とし始めた。葉を落としてしまったケヤ キは心なしか元気がなさそうで、マリオと次郎も話しに行くのをえんりょするよ うになった。
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