空中分解2 #1882の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
それから二日後の九月十日に、赤川修宛に手紙があった。それにはこう書か れていた。 「やあ、元気かね、修君? カードじゃなくて、期待はずれではないかな? この前の勝負は、君がトリックを見破り、私が宝石を頂いたのだから、引き分 けというところだろう。よって、勝負を決着すべく、新たなる予告状を発する ことにした。S区の大林正の家で、密室殺人事件を起こしておいた。その謎を 解ければ、君の勝ちということで、先日、私が頂いた『太陽の涙』を返してし んぜよう。もし解けなかった場合、同じトリックで、私は無関係な人間を殺し 続ける。これが今度の勝負だ。では、御機嫌よう。−−超人仮面より」 文章は筆跡を隠すためか、ワープロで打ってあった。ともかく彼は、すぐに 吉野刑事の所に行った。 「大林とかいう人の家で、密室殺人があったと、手紙で、超人仮面の奴が……」 「知っていたんですか? 超人仮面の仕業らしいから、これから呼びに行こう と思っておったとこなんだ。いや、話が早い。確かに、密室殺人は起きている。 ただ、被害者はその家の者ではなく、米口刑事だった。全く、恐ろしい奴だ」 吉野刑事は、部下に赤川が手にしていた手紙の検査を指示してから、こんな 風にぶちまけた。 「米口と言いますと、超人仮面が殺したと言っていた、あの刑事さんですか」 「そう。死因は窒息で、素手で絞めたみたいだから、扼殺ですな。死後、一月 は経っていたか。で、現場は密室と言っても、家全体が密閉されていて、玄関 や勝手口のシリンダー錠、一階の窓の三日月錠とも、内側から閉められていた という状況だ。それから、そこの主人が大林正という独り者で、四十六才のサ ラリーマン、身内の者は近くにはいないらしい。事件当時は、出張中だったと 言っておりましたかな。米口刑事とは、何の関係も接点も見い出せませんでし たな。まあ、これは当然でしょう。超人仮面の奴が、適当に大林の家を選んだ だけなんだろうから。問題は密室だけだ」 「その方法が分かれば、太陽の涙は戻って来るんですから、力を入れないと」 「どういう意味です、そりゃ?」 訝しがる吉野に対し、赤川は、自分に届いた手紙の内容を詳しく話して聞か せた。 「そう言えば、さっきの手紙、まだ見せてもらってなかった」 吉野は慌てて手紙を見に行き、また戻ってきた。 「信用していいものか、怪しいもんだ」 「そうですね。この超人仮面は、義賊を嫌っているんだから、約束を守るとは 限らない。その反面、奴は探偵や他の犯罪者、つまりは警察の鼻を明かすよう な者に対して、ひどく対抗意識を持っている様子もうかがえるから、そういう 人との約束なら、守かもしれません。今回は、この赤川修との約束をです」 「それならいいんだが、警察の鼻を明かすというのは、気に入らんな」 ぶつぶつ言う吉野を後目に、赤川は警察を出て、大林の家を訪ねてみた。彼 は自己紹介を済ますと、上がり込ませてもらい、話を始めた。 「今度は災難でしたねえ。全く関係がないのに、死体を家に置かれるなんて。 そこでですが、現場となった部屋を見せてもらえますか」 「はあ、まあ、別に構いません」 大林は、貧相な顔をした男で、探偵という職業の者を怪しんでいる様子があ ったが、赤川の熱心さに折れたのか、協力をしてくれた。 「現場と言っても、この家全体がそれみたなもんですがね。死体があったのは、 応接間です。見れば分かるように、大窓が一つと、鍵のないドアが一つあるだ けでして、大窓は鍵−−今度の事件で知ったんですが、三日月錠というやつで −−は、完全にロックされてました。何しろ、まん中のボタンを押しながら回 転させないと、鍵がかからんのですから。大窓だって、窓枠もろとも溝から外 すなんて芸当も、できやしません」 「なるほど。では、他の出入口は?」 「玄関と勝手口だけですが、ご覧になります?」 「ええ。ぜひ」 赤川が言うと、大林は案内してくれた。 「玄関はさっき見たでしょうから、勝手口ですね……。……ここですが、外か らかけようと思えば、鍵を使うしかありませんや。内からは、つまみをひねっ たら、施錠されるんです。玄関も、これと同じ仕組みですよ」 「うーん。どこにも隙間がないから、糸を使うことはできないなあ。窓の方は 少しは隙間があるみたいだけど、中心部を押えなきゃならないんだから、無関 係だろうし。合鍵はどうでしょう?」 「作ってません。ここにある、これ一つだけです」 大林はそう言いながら、玄関と勝手口の鍵を見せてくれた。 「その二つは、あなたが出張中、ずっと身につけておられたんですね?」 「そうですとも」 「それでは、ここ一ヶ月の間に、誰か人を家に呼んだということは?」 「警察の方にも話したんですが、ありません。どうしてそんなことを聞くんで ?」 「いや、超人仮面の奴が、あなたの友人にでも変装して、この家に来て、鍵の 型を取って合鍵を作ったんじゃないかと、そんな可能性を考えたんです。いな いのなら、この可能性は消える訳です」 そうして、赤川は礼を述べた後、大林の家を離れた。 翌日、再び、赤川は吉野刑事を警察に訪ねた。 「昨日、大林氏の家に行ってみたんですが、いやあ、今度の密室は完全ですね」 「そうでしょうかな? 私も色々と考えてみたんだが、何とかなりそうに思う」 吉野は腕組みを解き、身を乗り出すようにして言った。 「はあ。聞かせて下さい」 「小説にあった物なんだが、屋根を持ち上げるというのが」 「吉野さんも、推理小説を読むんですか! でも、無理でしょう。あの様なタ イプの住宅が、屋根が外せるとは思えない。第一、クレーンを乗り入れなきゃ いけないでしょうから、人目について仕方がない」 「では、窓ガラスを外し、後でパテを使って直すとかいう……」 「パテが新しくなって、ばれるんじゃないんですか? 警察の捜査力を持って すれば、気付くでしょう?」 「そりゃそうだな。でも、パテの真新しさを、ウェザリングとかいう手法で汚 せると聞いたが」 「外側はともかく、内側は新しいままですよ」 「犯人の電話による脅迫で、強制自殺をさせたとか」 「あれ? 死因は扼殺でしたでしょう?」 「ああ、そうだった」 頭をかく吉野。そして気を取り直した様子で、話を再開する。 「超人仮面の奴は怪盗だから、万能鍵を持っているのかもしれん」 「ああ、ギザギザがいっぱい付いた鍵のことですね。確かに持っているでしょ うが、あれは開けることはできても閉めることはできないんじゃないでした?」 「……うーん、やっぱり無理か」 吉野は諦めたようにため息をついた。 しばらくの間、沈黙が続いたが、それを破ったのは赤川修。 「吉野刑事、大林正が出張していたのはどこです?」 「いや、まだ調べていない。何か関係があるんで?」 「まだ言えませんが、調べてくれませんか」 「……よく分からんが、やってみるか」 そう言うと、吉野は奥に引っ込んだ。十分もしない内に、彼は戻ってきて、 言った。 「大林の会社に電話で問い合わせたんだが、大林が出張に行っていたと言って いる日の間、大林は会社を休んでいます」 「それはそうでしょう。出張してたんですから」 「そういう意味ではなく、出張なんかしてなくて、欠勤していたという意味な んだ」 「何ですって? それじゃあ、大林は嘘をついていたことになる……」 「こいつは何かあるな」 「うんうん。何て馬鹿にした密室なんだろう! こんな物を完全密室だと悩ん でいたと思うと、腹が立つ。大林が犯人、つまり超人仮面なんだ。奴は鍵を使 って堂々と、密室を作ったんだ。本当に馬鹿にされたもんです」 「こいつは、大林を詰問しなきゃいかんな」 吉野はそう言って、浜本刑事や赤川修と共に、大林の家に向かった。しかし、 そこにはもう、誰もいなかった。 「くそっ、どこに行きやがったんだ」 吉野が息巻くと、赤川は落ち着いた声で口を挟んだ。 「とにかく、太陽の涙を捜してみましょう。あるかもしれない」 大の男が三人、四つんばいになったり背伸びをしたりしながら捜したが、仲 仲、見つからなかった。 結局、一時間近く経ったところで、赤川が見つけた。 「ありましたよ!」 「本当か? どこに?」 「洗濯機のホースの中に押し込んでありました。それに例のカードも」 赤川は洗濯機を指さしながら、二つの物を刑事達に見せた。 カードには、 『よく見つけた 私がその宝石を君達に返すということは 君達が私の密室の 謎を見破ったことを知ったからだ どうして私がこんなにも早く 君達の推理 を知ることができたかは 吉野刑事の腕時計を見れば分かるよ 今回は私の負 けだ 宝石は友広氏に返してくれたまえ だが 次の機会に勝のは私だ 超人仮面より』 と書かれてあった。 吉野刑事が自分の時計を見てみると、そこには小さな盗聴器らしき物が取り 付けられてあった。 「この野郎! いつの間にこんな物を!」 「恐らく、吉野さんが初めて大林にあったときに付けられたんでしょう」 「そうか、くそっ。何としても、あの野郎を捕まえてやる」 「捕まえるって、どうやってです? 非常線を張るには、遅いと思うんですが」 「この家や盗聴器、それに大林正についても調べてみれば、きっと何かが分か るはずだ」 「そうですか。それでは、また超人仮面の予告があったら、呼んで下さい。今 度は捕まえてみせますよ」 そう言って、赤川はトレードマークになりつつある袖の長いコートを直した。 「おい、吉野の奴、もうこれだけの事を調べ出していやがる」 「どれ。超人仮面に関するデータ、か。変装の名人、殺人鬼、宝石泥棒……当 り前のことばかりじゃないか。おっ、足のサイズ27.5センチ(大林の靴よ り)か。菜食主義(同台所)。筆跡も知られているし、血液型がB(切手より) だとさ」 「大丈夫か、おい」 「なあに、まだまださ。筆跡なんて、いつでも変える自信はあるし、足のサイ ズだって、靴と同じとは限らん。血液型だけで御用、何てできっこない」 「そうだな。やっとこれだけ、名前が売れたんだ。世界的に有名になれるよう、 やり続けるしかない」 「そうだとも。ところで、例の太陽の涙はイミテーションとすり替えたんだろ うな?」 「もちろん、本物の宝石を使ったイミテーションとすり替えたんだ。ばれるこ とはない」 口元に笑みを浮かべて、男はポケットから本物を取り出した。 「フフフッ。今度も負けないぜ、赤川修」 −超人仮面登場.終
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