空中分解2 #1878の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
電話が鳴った。それは”突然”鳴ったのではなく、鳴るべくして鳴ったので ある。 「フフ。ついに実行の時が来たな。用意は?」 「ああ、大丈夫。ぬかりないさ。奴らのスケジュールも、あいつとあいつの関 係も調べ上げた。完璧にな」 「それは結構だ。では、我々の輝かしき未来を祝って、乾杯!」 「乾杯!」 電話の主達は、手にしたグラスの縁を軽く受話器に合わせると、 「よし、始めるぞ」 と共に叫んだ。 探偵の赤川修は、割と名の売れた作家である弟の一郎を訪ねるところであっ た。修自身は常に金に困っているような、全く売れない探偵なので、よく弟に 借金を頼みに行くのである。 海に面した高い崖の頂に、一郎の家はある。 修は、運転免許証は持っているものの、車を買う金がないため、ここまで来 るのに、まず最寄りのバス停までバスを使い、その後は徒歩によった。歩くに はきつい道だったが、金のためならしょうがなかった。 若いときに、身体が大きくなるだろうからと大きめのを買ったため、彼の着 ているコートは袖が長すぎる。その端を折って、冬だと言うのに額に汗しなが らもたどり着き、呼び鈴を押す。兄弟の仲にも礼儀あり、だ。 しかし、返事がない。二度三度と呼び鈴を押したが、結果は同じである。で は失礼してとばかり、ドアを開けようとしたが、開かなかった。 この段階では、修はまだ、何の不審も抱かずに、合鍵を使って家の中に入り 込む。兄思いの一郎は、合鍵を渡してくれているのだ。 今のような昼を少しばかり回った頃は、たいてい、一郎は仮眠をとる習慣だ ったため、不審を抱かなかったのだ。ところが、一郎がいつも横になるのに使 うソファが空なのを見て、さすがに修は不審に思った。 まだ仕事中なのかと考え、書斎に向かう。そこも鍵がかかっていたが、一郎 は鍵をかけて執筆する質なので、不思議ではない。大方、書いている内に寝て しまったのだろうと思い、力一杯、ドアをノックした。それでも返事がない。 修は一度、外に出、庭に回って、窓から書斎を覗いてみた。机にもたれ掛か ったまま、動かないでいる一郎の姿があった。 やっぱり眠り込んでいたか。そう思いながら、修は窓枠を軽く叩き、 「おーい! 起きてくれよ。大事な用が!」 と叫ぶ。だが、まだ一郎は動かない。 何やらただならぬ気配を感じ取った修は、室内を凝視した。室内は何の変化 もないようであった。 が、部屋の主人たる一郎の様子を、今一度観察すると、どうやら、眼を開け て倒れているようなのだ。口からは胃液らしき物が垂れている。 「もう、やっているな」 修は弟に、こんないたずらを何度かされたことがあったのだ。 「こいつは」 意味もなく声を発すると、修は手に石を取り、窓ガラスにぶち当てた。三日 月錠に手が届くくらいに、穴が開くと、修は急いで錠を外した。 「おい……」 修は弟の身体に手をのせたが、その感触は冷たさだけである。 「死んでいる……。うわあ! け、警察!」 探偵と言っても、離婚に関する調査ばかり請け負っているものだから、修は みっともない叫び方をして、110番をするために家中を走りまわった。やっ と見つけた電話だったが、その線は切断されている有様。 「畜生、やりすぎだ!」 舌打ちした彼は、弟の家を飛び出し、人を呼びに行った。 先に電話ボックスが見つかったので、十円玉を入れてダイヤルしようとした が、110番のときはボタンを押せばいいのだということを思い出し、慌てて 硬貨を引っ込めた。 「捜査一課の吉野と言います。通報をくださったのはこちらですか」 柔和な顔だが、体格のいい男が、玄関先に立っている。その背後には、大勢 の鑑識員やら他の刑事やらが控えている様子だ。 修は圧倒されながらも、返事をした。 「はい。どうも」 「とりあえず、遺体を見せてもらえますか」 「そ、それが……」 修は言い淀んでしまう。 実は、警察に通報しようと外に出て、戻ってきてみると、弟の姿はどこにも 見えなくなっていたのである。 「その……。最初は書斎で死んでいるのを見つけたんです。それで警察に連絡 しようと思いまして、電話に飛びついたら、通じない。ご覧になれば分かりま すが、線が切られてるんです」 「ほう。確かに」 「それで、外に出、公衆電話からかけました。戻って来たら、弟の姿がなかっ たんです」 「本当ですか?」 疑わしそうな表情になった吉野刑事。 「本当ですとも!」 「あんた、名前と年齢、それに職業は?」 「赤川修、今年で三十になります。職業はその、私立探偵を」 「探偵? ふーん」 一気に疑わしさが増した顔になって、吉野は、赤川修の顔をまじまじと覗き 込んだ。 「いたずらしたんじゃないの、あんた?」 「とんでもない!」 「じゃあ、死体はどこにあるんだよ」 最前とは言い方に変化が生じている。”遺体”が”死体”になっているのは、 悪い兆候ではないか。”仏さん”と言い出すと、最悪なのかもしれない。 「だから……消えたとしか」 「あのね、そんなよた話、信じられると思っているのかい? ええ?」 吉野がそうわめいたところで、修にとっては助け船が出た。 鑑識員らしき若い男がやって来た。 「ちょっと先に調べてみたんですが、庭先から崖の方に、何かを引きずったよ うな跡があります。その途中にこんな物が」 言いながら、彼は片方だけのスリッパを指先でぶらつかせた。 「あ、それ、一郎のです」 「一郎と言うと?」 「あ、弟の名前です」 「弟が一郎だって? こいつは面白い」 「そんなこと、どうでもいいでしょう! それより、スリッパが落ちてたって ことは、弟の身に何かがあったってことじゃないですか」 「確かにね。引きずった跡ってのは、弟さんの身体を引っ張って行ったものか もしれん」 「そうですよ」 吉野は修の言葉を無視すると、崖まである跡を見ようと、外に出て行った。 通報から三日で、おおよそ分かったことは、二月十一日の十三時から三十分 以内の間に、赤川一郎の自宅は書斎(密室状態)で、一郎が毒殺(青酸カリ) され、犯人の手によって、近くの崖から突き落とされたという状況だ。5W1 Hで言うと、「誰が」と「何故」と「どの様に」が分からないことになる。 青酸カリは、書斎の机に吐き出されていた胃液から検出された。 密室の方は、鍵は内側からボタンを押してロックするもので、ボタンを押し て外に出てから閉めても、ロックされないタイプであった。 また、犯人の物らしき足跡が、崖まで続いており、そのサイズは27センチ であった。この点、赤川修は26.5センチだったので、少しは容疑の枠の締 め付けが緩くなった。 「修さん。あなたは相当、弟さんから借金をしていますね」 遺体が見つからぬまま、参考人として、修は事情聴取されていた。 「そうですけど、どうしてそれが分かったんです?」 「こんなに借用書が出てきちゃね。ほら」 吉野刑事は、束ねた借用書を机の上に置いた。紙としての多さだけでなく、 金額もかなりいっているはずだ。 「金の無心に行って、断わられたから殺したってことはないね?」 「そんな! 馬鹿々々しい。遺産がある訳でもなし、生命保険が入るでもなし、 今、自分が弟を殺して、何の得があると言うんです? ちょっと売れただけの 作家の財産なんて、たかが知れてますからね」 「それでも、売れない探偵には大金じゃないか? ま、あんたの言うことも、 分からんでもない。これだけの金額を今まで貸していた弟さんが、いきなり嫌 がるってのも解せんしね。それで問題となってくるのが、他に容疑者がいるか ってことだ。あんた、心当たりは?」 「……ありませんねえ、残念ながら。自分が知っている限り、一郎はちゃんと 仕事をやっていたし、女にもけじめをつけていました。弟の交友関係なんて、 ほとんど知りませんしねえ」 「自殺の可能性は? こいつは飽くまで仮定だが」 「それはあり得ません。当然ながら、弟のことは子供の頃から知ってますが、 あいつの性格からして、自殺なんて。第一、遺書、なかったんでしょう?」 「そうでしょうな。では、仕方ない。こちらの札を見せますかね」 ちょっと気取った言い方をすると、吉野は、後ろに控えていた若い刑事に合 図した。 若い方は、紙片を一枚、机の上に置いた。”SIGNAL”と、ボールペン で書いてある。 「書斎を調べさせてもらったら、出てきた物だ。あの部屋のベッドの上にあっ た」 誇らしげに言う吉野。 「SIGNALというと、信号ですか。いやあ、何のことだかさっぱり。あ、 でも、筆跡は一郎のではないですね」 「そいつは、とっくの昔に分かっておる。これは恐らく、犯人の物だ」 「犯人のメッセージという訳ですか」 「かもしれん。馬鹿げているが」 一転、苦々しげな顔つきになった吉野。 結局、そのまま赤川修は帰された。決め手がなかったこともあった。 −NEXT
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