空中分解2 #1874の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「このパーティに、戦士と魔道師は要らないか」 酒場の喧騒をぬって、ドワーフの戦士ディーボの耳に若々しい声が飛び込ん できた。振り向くと、彼のすぐ背後には、褐色の肌と黒髪を持つ青年が立って いた。 一体何時の間に、とディーボは狼狽した。彼は、全くこの青年の気配を感じ 取れなかったのだ。しかし仲間を見れば、皆一様に鳩が豆鉄砲を食らったよう な顔をしている。どうやら、ディーポの勘が衰えた為ではないらしい。 「話を立ち聞きするつもりはなかったのだが、パーティに欠員ができたという 言葉が耳に入って」 再び、青年が口を開いた。虚をつかれた格好になっていた人虎族の戦士リー ドは、ようやく我に返り、じろじろと眺め回すと、せせら笑って言った。 「どうやらおまえが戦士らしいが、戦士ってのは顔でするもんじゃないぜ」 リードの嘲りに、青年はわずかに肩を竦めた。実際、青年は戦士らしからぬ 繊細な容貌をしていた。戦士に美形がいないというわけではないが、少なくと も根っからの冒険者や傭兵という訳ではあるまい。気品のある端麗な顔立ちの 中でもとりわけ目を引くのは、切長の目と、それを縁取る長く濃い睫毛である。 睫毛が影を落とす為か、その目はひどく憂いを含んで、二十二・三の外見に似 合わぬ苦渋を湛えているかに見えた。また、青年の体格も、人虎族の筋骨隆々 たる体格に比べればひどく細身に見える。 「体格だけでするものでもあるまい」 青年の背後から、涼やかな美しい声が流れ出た。男性のものにしては高く、 女性のものにしては低い中性的な声音である。耳に心地よいその声はしかし、 うっとりと聞き惚れるにはあまりに皮肉げで刺があった。 「そなたはその体が自慢らしいが、どうやらそなたの頭の中身も、自慢の筋肉 でできていると見える」 「なにぃ」 人虎族の青年は、あからさまな嘲弄に気色ばんだ。 が、顔を真っ赤にして立ち上がったリードに対して、第二の声の主は何処吹 く風といった態度である。 人虎族の強さは、誰でも知っていることである。特に一度怒れば、なかなか とめることができない。それでも尚平然としている美声の主に対して、ディー ボはわずかに驚嘆の念を感じた。非常に剛胆なのか、それともよほどの世間知 らずなのか。もっとも、その表情が涼しげなものであったかはわからなかった。 何故なら、美声の主は、顔を青絹のヴェールですっかり隠していたのだから。 この美声の持ち主が、青年のいう魔道師なのであろう。顔だけではなく、身 体も銀色がかった蒼いローブで包み込んでいるため、性別すらはっきりしない。 わかるのは、エルフ並に華奢であることだけだ。 「てめぇ、やろうってのかよ」 リードの手が、背の剛剣に伸びる。三メートルはありそうな剣−−いわゆる グレート・ソードである。これが人虎族の力によって振り回されるとどうなる かは、この場にいるものは全員知っていた。 だが、蒼いローブの魔道師は澄んだ笑い声をあげた。 「その武骨な代物を、ただ振り回す以外に能がないのか、そなたは」 「てめぇっっ!!」 叫びとともに、目にも留まらぬ早さで大剣が引き抜かれる。仲間の制止も間 にあわず、すさまじい破戒力をはらんだ剣は、魔道師の頭に振り下ろされた。 「リード!!」 誰もが、惨事を予想した一瞬。だが、血しぶきは上がらなかった。グレート ・ソードは魔道師が半瞬前までいた空間を、空しく切ったのみであった。 「何!!」 リードは目を剥いた。その一撃は、必殺の自信をもって放たれたものであっ た。地下迷宮に棲む上位妖魔ハリボリアでさえも、斃したことのある抜き打ち である。間違っても、眼前のひ弱そうな魔道師風情によけられるような代物で はなかったはずであった。 驚愕の念が脳裏を翳めた次の瞬間、彼は足に強烈な衝撃を感じた。彼の斬撃 をかわした魔道師が足払いを掛けたと気付いたのは、その場に倒れ伏してから である。 飛び起きようとしたリードの顔に、黒く平たいものが降ってきた。……魔道 師のサンダルであった。 「ひゃにしひゃがる(なにしやがる)!!」 「確かに最初の一撃はなかなかのものだが、かわされたらそれでおしまい、だ」 リードの顔を踏み付けたまま−−しっかり踏み躙ってもいたりするが−−魔 道師は言った。 「態勢を崩したところを、一発。それで、かたがつく」 「しょうど・まふたあみしぇえなほとふかふな(ソード・マスターみてえなこ とぬかすな)!」 「皆の意見が一致した、ということだ」 魔道師はあくまでも涼しげに、そして、気品と悪意を纏わり付かせながら、 リードの顔を踏んでいる。 ディーボは、あれほどに華奢な、武道には縁のなさそうな魔道師が、かなり の力量を持っていることを確信した。そうでなければ、リードが自分を踏み付 けている者をはね除けもせず、唯ばたばたもがいているはずがない。人虎族は 非常に自尊心の強い種族なのだ。 「ヨシュア」 今まで黙っていた青年戦士が、見かねたように口を開いた。 「いい加減にしろ」 ヨシュアと呼ばれた魔道師は、素直にリードの顔から足をどけた。リードの 顔には、見事に赤く靴跡が残っている。 「でもイルリサット、こいつはイルリサットのこと」 ヨシュアは、今度は青年−−イルリサットに食って掛かる。だが、その口調 は、リードに向けられていたものとは全く異なった、何処か甘えるような響き が混ざり込んでいた。 「いいから」 軽く一蹴されて、ヨシュアは黙り込んだ。どうやら拗ねたらしい。ぷい、と あさっての方向を向く。 「連れが乱暴なことをした。詫びを言う」 ようよう立ち上がったリードに、イルリサットは軽く頭を下げた。シャラン、 と涼しい音を立てて、スケイル・メイルが鳴った。 「そんな奴に謝ることなんかないのに」 そっぽを向いたまま、聞こえよがしに、ヨシュア。リードの目に、再び獰猛 な光が宿る。ヨシュアはそのまま黙っていたが、それはリードのその視線故で はなく、イルリサットの物言いたげな表情の為であろう。 「ところでお前さん方、わしらの一行に加わりたいということじゃが」 不毛な会話の間をようやく見つけて、ディーボが口をはさんだ。このまま放 っておけば、ヨシュアとリードは、えんえんといがみ合いを続けかねない。 「だがお前さん方、根っからの冒険者ではないじゃろうて。それにどちらかと 言うと、わしらは治療の呪文が使える魔道師を捜しとるんじゃ」 ディーボの言葉に、イルリサットはうなずいた。 「ああ。しかし我々は二人とも治療系の呪文も使える」 「ほう。たいしたものだ」 今まであっけにとられ、呆然と成り行きを見ていたエルフの魔道師エルメラ が呟いた。 「その若さで、呪文と武術を修めるとは」 エルメラの声には羨望の響きがあった。彼は、タルスの武道の名門の家に生 まれながら、武術の才に恵まれず、魔道の道に入ったのだった。タルスが滅び て久しい今もなお、あの時、自分も剣を持って、祖国を守る為に戦うことがで きていたなら、という思いがあるのかもしれない。 「俺はごめんだぞ、こんな奴らは!」 リードがヨシュアを指さしつつ、大声でわめく。顔にくっきりとつけられた サンダルの跡は、まだ消えていない。どうやら、今夜のデートはおじゃん、と いうこになりそうである。自尊心を傷つけられた怒りの上に、恋の恨みも加わ ったようだ。 「ふむ」 皆の反応を見ながら、ディーポは腕を組んだ。エルメラはやや賛成寄りの中 立、リードは強固な反対。そしてディーポ自身は、というと、かなり賛成に傾 いていた。強く、また呪文も使えるような者ということになると、滅多にいな い。また、イルリサットはかなり誠実で信頼の置けそうな人物であるし、リー ドとは違って大人のようである。ヨシュアの毒舌の方も、イルリサットがいれ ば、なんとかなるだろう。 「実はわしらには連れがもう一人おっての、答はそいつをまじえて相談してか ら、ということでよかろうか?」 「絶対反対だ!!」と側でリードが叫んだが、ディーボは無視した。このパー ティのリーダーは、ディーポなのだ。 「わかった。我々はヤノクという男の〈銀竜亭〉にいる。そちらの方に来てく れるか?」 イルリサットが、何故かおもしろいことでも言ったように、少し笑って答え た。 「ヤノクの〈銀竜亭〉じゃな」 「ああ。いい答を楽しみにしている」 二人が去った後、リードはなおも文句を吐き散らしながら、酒の杯をあおっ ていたが、ふと、あることに気付いた。 自分とヨシュアはあれほどの騒ぎを起こしたのに、何故に周囲の者達は、気 付いたそぶりを見せなかったのだろうか、と。 〈続く〉
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE