空中分解2 #1831の修正
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「私をえがいていて。絵でも、文でも、音でもいいの。今の私の一瞬を、あなたが何 かであらわして。そうして、私を、つかまえていて。」 彼女はいつもそう言って、はかなげに微笑む。まるでいつか僕の前から、居なくな るかのように。 彼女はピアノを奏でる。 SatieのJe te veuxを弾く。それは僕への、Je te veux −−あなたが欲しい、の想いの代わり。 僕は絵を描く。 ピアノを弾いている彼女を描く。それは僕の、彼女への、Je te veux。 黒いピアノ。白い鍵と黒い鍵。素早く繰り出される白い指。音の流れのままに揺れ る黒い髪。恍惚とした白い顔。時折きしむ黒い丸椅子。音をつなげる白い脚。銀色の ペダル。僕の目は錯覚し、錯覚のまま描く。彼女一人、monochromeの世界 にいるかのように。 出来上がった僕の絵を見て、彼女はまた、はかなげに微笑む。 「これで、あなたの想いを、信じていられる。いつでも、あなたの想いを、信じてい られる。この絵を思い浮かべる事が出来る限り。」 いつもここで、二人一緒に、この絵を見ていればいいのに。僕はせつなさに胸が苦 しくなる。 側に居るのに、不安になる。いつの日か僕を置いて、どこかへいってしまいそうな、 そんな気がして。 ある日、彼女は、居なくなった。彼女は僕を、選べなかった。伴侶としての男性に、 僕を選べなかった。僕は彼女を選びたかった。彼女は僕を選べなかった。 彼女は誰も選ばなかった。僕以外の人も選ばなかった。彼女は、一人のままでいる、 と言って僕の世界から姿を消した。 僕はあの曲を聴く度に、彼女のJe te veuxを思い出す。彼女は僕の絵を 心の中で、思い浮かべているのだろうか。どこかでピアノを、あの曲を、僕を想って 弾くのだろうか。 僕は彼女を描き続ける。彼女が僕を見つけられるように。僕の描く彼女で世界中埋 め尽くされる時、僕の絵を手繰り寄せ、僕の所に辿り着けるように。僕のこれほどの 想いを彼女に、伝えられるように。 そして、君が、さびしくないように。 ありがとう。 Je te veuxを弾きながらmonochromeの彼女が振り返り微笑む。 もう僕には錯覚なのかわからないよ。 1992.05.30.07:15 Fin 楽理という仇名 こと 椿 美枝子
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