空中分解2 #1783の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
今日は、K君の四十九日でした。日本の旗色はますます悪く、本土にもアメリカの 爆撃機が飛来するようになりました。 私は悲しみのあまり、痴呆のようになってしまったK君の母上の代わりに一切を取 り仕切ってK君の供養を行いました。四十九日の法要が終わり、一段落ついたとき、 私は夕日に照らされるK君の部屋のベッドで横になっていました。ガラスから入る夕 日で真っ赤な絨毯は気味が悪いほどでした。 この部屋は、もとはK君の父上の書斎であり、調度品や家具もずいぶん立派なもの です。 私は夕日に照らされて「K君はこのベッドで女性の夢を見ていたのだ」と考えてい るうちに、ふと、異様な気配を背中に覚えました。最初は一瞬の出来事でした。しか し、背中の気配を感じようとすれば、するほどその気配は強くなってゆくのです。そ れも異様な気配・・・。 私は何か言い様のない恐怖にかられました。ベッドを押したりして調べてみました が、どこも異常はありません。 その瞬間、私は直感で床の下に何かあるのではないだろうかと思いました。根拠な どありません。一瞬のひらめきでした。 ベッドの下も赤い絨毯がひかれ別に異常はありません。この下を調べるとすれば、 ベッドを移動させなければなりません。私は躊躇しましたが、K君の母上は先述のよ うな状態でしたので、かまうものかという勢いで、重たいベッドを動かせ、絨毯をめ くりました。 果たしてそこには、明らかに後から床を張り合わせたといえる、長方形の痕跡があっ たのです。私は物置に行くと大工道具を持ち出し、床をはがすことにしました。とこ ろが、木の床の下は煉瓦で固められていたのです。私は、必死の思いで二時間ほどか けてついに床をぶち破ることに成功しました。しかし・・・。 ああ、恐ろしい。なんということでしょう。 私はあの瞬間を生涯忘れないでしょう。そこには、鼻をつく異臭とともに人間の白 骨死体が埋まっていたのです。顔は識別のつかないくらいに崩れ、着物はズタズタに なっておりました。うじむしに喰いあらされ汚いひからびた肉片が顔や手足にこびり つき、頭髪もほとんど抜け落ちていました。目などは当然なく、しゃれこうべに二つ 穴があいているだけです。 しかし、長い髪と洋服からこの死体が女のものであることはわかりました。私は、 そこで驚きを新たにしたのです。なぜならば、その白骨死体の着物はK君のいう淡い ピンクの洋服であり、胸に広がっている薄茶けた布は、恐らくK君のいう白いリボン に相違ないからです。 ああ、これはいったい。私は余りのショックにしばらく呆然としていました。 しばらくして、ふと穴の隅を見ると、何か燃やしかけたものやらが散らばっていま す。私は、おそるおそる遺体に触らぬようにしてそれらを取り出しました。 それらは、すべて手紙でした。差出人は「S.T」、宛名は「S.K」、つまりK 君の父上です。ほとんどは焼け焦げていて判読不可能でした。しかし、かろうじて判 読できた手紙は、すべて熱烈な恋を認めた恋文でした。恐らく焼けた手紙もすべてそ うだったのでしょう。 しかし、日付が新しくなるに従って、恋文はやがて愛を乞う悲壮なものになってゆ きます。察するところ、K君の父上は、この「S.T」なる女性と縁をきりたかった ようです。どうやら、K君の母上との結婚が親同士で決定していたようです。K君の 母上は、M海軍中将の長女だそうですから、またとない縁談だと思ったのでしょう。 しかし・・・。そうすると、この「S.T」なる女性殺しの犯人は、K君の父上と いうことになります。 私は、これを警察に知らせるべきかどうか悩みましたが、死亡したK君の父上の名 誉や、K君の母上のこともあり、伏せておくことにしました。いつかはばれるでしょ う。しかし、その時までは黙っていようと心に誓ったのです。 * * * * 夜遅くなって帰宅した私にさらに大きな驚きが待っていました。また、それと同時 にすべての謎も氷解したのです。 その「驚くべきこと」とは、他ならぬK君からの手紙だったのです。私は一瞬我が 目を疑いました。しかし、まちがいなく「死んだ」K君からの手紙でした。冷静になっ て考えると、恐らく戦局の悪化で郵便事情が混乱していたのでしょう。何しろ帝都さ えも爆撃にさらされているご時勢ですから。 K君の手紙には一枚の写真が同封してありました。なんと、その写真に映っている 女性こそK君の話していた女性にそっくりなのです。実に美しい女性でした。 私は余りの驚きに半ば呆然としながらも、K君の手紙を読みはじめました。残念な がら今ここにその手紙はありません。記憶を探りながら要点だけを紹介することにし ましょう。 「拝啓。M.A君、僕が突然姿を消したことを許してくれたまえ。その理由を君はう すうす感づいているかもしれない。そう、僕の夢に出てきた女性だよ。僕は、その女 性を探しに出たのだ。 君に相談したあの日から僕は彼女を見つけ続けた。彼女もまた夢の中で僕に笑顔を 返してくれるのだ。幸せだった。職場に行くのさえ億劫になったよ。ひたすら眠って 彼女を見ていたかった。母も上司も同僚も心配してくれているのは、わかっていた。 しかし、もう僕は彼女なしでは生きてゆけなかったのだ。それほど、彼女は美しく、 そして気高く、かわいかった・・・。 ところがある日、僕がカフスを落としたとき、本棚の下に潜り込んでしまったのだ。 手を差し入れてとろうとすると何か手にあたるものがあったのだ。それが同封した写 真だった。僕は驚いた。夢の中の女性にこんな形で会えるとは思わなかったからだ。 どうして彼女の写真が僕の部屋にあるのだろうか。それもこんなに新しい写真がい つから僕の部屋に・・・。いくら考えてもわからない。しかし、僕はこの写真を手が かりに彼女を探し出す決心をしたのだ。手がかりはこの風景だけだ。夢の中とまった く同じ風景だ。僕はきっと彼女を探し出してみせる。 そうして僕は歩き回った。今では、金も尽きて、この手紙を書くのが精いっぱいだ。 僕の気力も体力も限界にきている。恐らく今の僕は他人からは、狂人にしか見えない だろう。恐らく僕はもう君に会えないだろう。しかし、僕は本望だ。彼女を追ってど こまでも行くつもりだ。 僕は君にだけは僕が旅に出た理由をはっきりと知らせておきたかった。最後に勝手 なお願いだが、僕の死が確認されるまではこの手紙のことはいっさい君の胸にしまっ ていることを約束してくれたまえ」 ああ、なんと気の毒なK君よ。君は、大きな勘違いをしている。君の愛する女性は、 すでに・・・。 私はその時、はっとして女性の写真に目をやりました。そして「ああっ!」と声を あげて思わず後ずさったのです。なぜなら、その写真は、K君が手紙でいうようにまっ たく新しいものだったからです。あのK君の家でみた白骨や、K君の父上と恋仲にあっ た頃を考えれば、今から二十年近く前の写真であるはずです。 それが・・・。それが・・・。今撮影したばかりのように新しい・・・。 いったいどうしたことでしょう。 * * * * 私は、この歳になった今でも心霊写真などは信じていません。しかし、あの写真の 彼女は、確かに生きていた。そう、写真の中で生きていたのではなかったでしょうか。 なんという恐ろしいことでしょう。とすれば、我が友人・K君を魅了し、死に追い込 んだのは、あの「S.T」なる美しい女性の怨念だったのかもしれません。しかし、 私はむしろ彼女に同情を禁じ得ません。恨むべくは、亡きK君の父上ではないでしょ うか。恐ろしい罪を犯したK君の父上の罪は、あの世にいっても消えるものではあり ますまい。 その後、私は「S.T」なる女性のために小さな墓をつくり、写真を納めました。 そして住職に頼んで懇ろに弔っていただきました。 最後にもう一つお話せねばならないのは、彼女の遺体のことでありましょう。実は、 その後の空襲によりK君の屋敷に爆弾が命中し、すべては闇へと葬り去られました。 K君の母上が避難しており無事だったのは、なによりでした。 これは、今も私の生涯決して忘れることのできない思い出であります。 亡きK君に捧ぐ。 1992年X月吉日 君の親友 M・A (なお、K君の母上は現在97歳にてご健勝にあられる。K君よ安心されたい) <完> 以上で完結です。レレレのレー 弾正(だんじょう)
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