空中分解2 #1782の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
今から私がお話するのは、五十年近くも昔の話であります。当時は大東亜戦争のまっ ただ中でした。 私の友人であるK君は、出身である九州の帝大を優秀な成績で卒業し、海軍の佐世 保工廠に造船官として着任しました。その前に学徒の徴兵がありましたが、彼は理工 系の学部を専攻しておりましたので、卒業まで徴兵を免除されていたのです。 ここで、私の話をしますと、私は法律を専攻しておりましたので、真っ先に徴兵に 取られるはずでした。しかし、元来病弱だったのと、叔父のY子爵の力により徴兵を 免れていたのでした。 さて、K君は帝大卒のエリートとして、前途揚々の青年でした。無論、日本の前途 は暗雲立ちこめる状況でありましたが・・・。 しかし、そのK君はある日突然、私達の手の届かないところへいってしまいました。 そう、K君は不幸にも亡くなったのです。 K君の死ぬ数日前、私は彼からある相談を受けました。それは実に奇妙なものでし た。彼はある夢を見たのです。同じ夢を何度も何度も繰り返し見たそうです。それは、 決して恐ろしい夢などではなく、彼に希望を与えるすばらしい夢でした。 K君の見た夢というのは、ある女性の姿でした。K君はその女性の姿を薄暗い部屋 の一室で、こと細やかにこう語ってくれました。 「冴え渡る青い空に、地平線の遥か彼方にまで続く花畑。美しい花の数々。それはま さに天国というにふさわしい空間だ。そして、そこには美しい天女の姿。 無論、僕は本当の天女の姿など見たことはない。しかし、彼女の美しさは天女とい うに値する、すばらしい女性だ。 彼女は目のさめるような淡いピンクの洋服をまとっているのだ。決してけばけばし くはない、ちょっとくすんだ、桃色だ。今にも青空にとけ込みそうな清潔なピンク色 だよ、君。 そして彼女の首から胸に広がっているのは、純白のリボン。ぱっと大輪 の花が咲いたようで派手に見えるが、ちっとも嫌みでないのは、淡いピンクに白がと け込むような印象を与えるからだろうか。いや、そうではあるまい。それは彼女の清 楚な美しさからきているものなのだろう。 形のいい眉に、きりりとしまった目元。美しい黒い眼は、あどけない少女のように も見え、また、その知性を感じさせる。そして整った鼻から、美しい紅に彩られたや わらかそうな唇。ふっくらと肉付きのいい頬。白くきれいな耳。髪はアップにしてい る。つやつやと光沢のある、実にきれいな髪だ。そして、うなじにかかる髪が数本・ ・・。 そして、細く白い手、美しい指。スカートの下から出た足はすらりとのびて、彼女 の肌はあくまでも透けるように白く、しかし決して病的な白さではなく、美に例える ことが最もふさわしい白さだよ。 僕に女性の歳はわからない。たぶん二十歳そこそこだろうか。 爪の先まで美しい、いや、かわいいともいえる実に不思議な女性、それが毎夜のよ うに僕の夢に現れるのだ」 ふだん無口な彼とは対照的にうってかわって、歯の浮くような文句を並び立てまし た。聞いていてむずがゆくなるような、それでいてうらやましい話です。 私は、 「そりゃあ君、いい夢じゃないか。僕の夢にもでてくれないかなぁ。大歓迎なのだが」 と、思わず冗談混じりにいいました。すると、彼は意外にも怒りだしたのです。彼は、 いきなり立ち上がって、 「冗談じゃない! 彼女は僕の夢にだけ出てくるのだ。君の夢になど出させてたまる ものか」 「いや、冗談だよ。冗談。しかし、いい夢だな。うらやましいよ」 私は彼をなんとかなだめると、 「それで、どうなんだ? まさか今日僕を呼んだのは、そんな自慢話をするためだけ じゃないだろう?」 彼はようやく座ると、少しトーンを下げて私にいいました。 「まあ、そうだ。今日君を呼びだしたのは・・・」 「うん。その理由は?」 「その・・・。うーん。こ、この女性と話ができないものかと思ってね」 それを聞いた瞬間、私は思わずせき込んで、 「な、何をいいだすのだ。無茶をいうなよ。僕がどうこうできることじゃないだろう? 君の夢だ」 「・・・・・」 「夢の中で女性はしゃべらないのかい?」 「ああ、僕の方を向いて、ただにこやかに笑っているだけなのだ」 「それなら、遠慮なく彼女の方におじゃますればいいじゃないか」 私は、K君の余りにばかばかしい相談に、ついつっけんどんな意見をいってしまい ました。しかし、K君はきわめてまじめに、 「それが、そうはいかない。行きたくても行けないのだ。前に歩こうとしても歩けな い。足がどうかしたのか、と思う。しかし、足があるのかないのかさえわからないの だ。顔も動かせない。手もそうだ。声も出ない。まったく夢見心地でなにすることも できないのだよ。」 K君の口調はだんだんと熱を帯びてくるようでした。 「それじゃあ完全にお手上げだ。こうなったら会話はあきらめて彼女を見ることに徹 しろよ」 「君もそう思うか? 見ることに徹する・・・か」 急にK君の口調が沈みました。彼は、そのまま黙りこくってしまいました。私は急 に静かになった部屋がとても重苦しく感じ、それをはねのけるように話題を転じまし た。 「それはそうと君の母上のご様子は、どうだい?」 彼は、依然として何か考えているようでしたが、ふと、顔を上げて、 「あ、ああ。少しは元気になったようだ。しかし、今でも父は生きていると信じてい るようだ」 彼の父上は海軍少佐で巡洋艦に乗っていた人です。ところが、開戦から一年ほどし て敵の雷撃により艦は沈没。彼の父上も海底に沈んだのでした。私も幾度かお会いし たのですが、立派な紳士でした。なんでも若い頃は、ご婦人方の人気の的であったと か。 「お気の毒なことだ。今度またご挨拶におうかがいするからと、お伝えしてくれよ」 「うん、わかった。母も君のことはとてもほめていたよ。僕に見習いなさいとね。母 も君と話すと気も晴れるだろう」 それから、しばらくは取り留めのない話しをしてK君は、帰りました。私はK君が 途中から何事か考えだしたのを不思議に思いながらも、余り気にも止めませんでした。 しかし、K君に対しもっとまじめに助言してあげるべきであったと、後々後悔する ことになろうとはその時の私に知る由もありません。 * * * * それからしばらくして、K君は行方不明になりました。造船官という仕事がら、警 察や海軍の必死の捜査が続けられました。にも関わらず彼の行方は杳として知れませ ん。 私は、K君の母上に疾走する直前のK君の様子について訪ねました。母上によると、 K君は日に日にやつれ、工廠に無断で休むこともしばしばだったそうです。母上が問 いただすと、「疲れがたまっているだけだ。睡眠をとれば直る」といって取り合わな かったそうです。しかし、K君は一日中寝ていても快復の兆しはありません。それよ り、どんどんやつれが目だっていったそうです。 私はK君から聞いた「夢女」の話しを思い出しました。しかし、そんなことはバカ げていると、考えを打ち消しました。 彼が発見されたのは、それからさらに半年後のことです。K君は哀れな半分白骨化 した死体として深い山中で発見されたのです。 * * * * <つづく> 続きもご覧下さいね。レレレのレー 弾正(だんじょう)
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE