空中分解2 #1762の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
和夫くん> 最近さー、バスで通ってるんだけど、厭なんだよね、バスって。だって 前から乗るでしょ。そうすっとさ、前から乗ってる客ってみんな前を向い て座ってんじゃん。立ってる人も、後ろ向いて立ってる、ってまずないし。 こんでくればいいんだけど、僕が乗る瞬間って空いてるからね。 みんなに見られるのがすっごい厭なんだよね。わかるかな。こんな気持 ちのやつっているのかなぁ。僕の友達の中じゃいなそうだけど。 だからさ、いつもうつむいて乗るんだ。何か恐くてさ。そんなわけで、 今日もうつむいて乗って、うつむいて立ってたんだ。吊革につかまって。 したら隣に立ってる女の子がさ、すっごく可愛いんだぁ。何か、僕とは 別世界に生きてる、みたいなさ。いいないいなぁ。説明しろ、って言われ てもできないよ。とても日本語なんかで説明しちゃうのはこの子に対して 失礼な気がするし。この子は僕の天使だよ、ホント。 いいないいなぁ。僕はただ眺めてたんだ。何かがあると深く考え込んで いる僕なんかとは全然違ってさ。すべてが思い通りにいってそうで。悩み なんて何もなさそうで。素敵な彼氏もいるんだろうなぁ。僕みたいやつ じゃなくて。それで友達もみんな可愛い感じするな。あー、なんて言えば いいんだろ。 この子もくそしたりせっくすしたりすんのかなぁ。カップラーメン食っ たりすんのかなぁ。その時彼女は3分間、いったい何をしてるんだろう。 あー、この子にはくそしたりせっくすしたりカップラーメン食ったりして ほしくないなぁ。 うわっと。僕ってアブナイやつだなぁ。まずいよ。僕ってこんな厭なや つだったっけ? この子の前で、隣だけど、下品な想像して失礼じゃない か。しっかりしろ、和夫! 「あっ! やばい」って思った。だってみんなが僕のこと、見てるんだも ん。 「何あの高校生、さっきからじろじろ女の子のこと見ちゃって」 「たまってんだろ。きっとまだあいつ、童貞だぜ」 「あの女の子とやりたいって思ってんだろ」 「あいつが帰ってからオナニーする方に千円かけるぜ」 「暗そうなやつ」 「どうしようもねーな」 「何のために生きてんの?」 みんながそうささやいてる。きこえよがしに。 僕以外の人間は他人の心が読めるんだ。恐いな。おびえちゃうな。 みんなは僕を軽蔑して、安心してる。 みんなが僕を変な目で見てる。 みんなが僕を見てる。 うわー。 何かが切れた。僕の中で。 「何だおめーら。俺がこの子とやりたいと思ってるって? そんな失礼な ことするかタコ。おめーらと一緒にするな。この、この俺の奇麗な気持ち をよぉ」 そう叫んでやりたかった。でもやめた。そこらへん、僕にだってモラル はあるからね。何のためのモラルかわかってないけど。こういうの、モラ ルって言うのが適当か、とかもわかってないけど。 でも嘘じゃないかも知れない。僕が悪いのかもしれない。いつだって大 衆は正しいんだから。悲しいけどさ。 まあいっか。こんな素敵な女の子のそばに立っていられるんだもん。こ の広い宇宙の中で。すごい偶然だ。素晴らしい。あんびりーばぼー。 ガクン……。 バスが揺れた。反動で僕は女の子にもたれかかってしまった。「す、す いません……」 女の子無言で、すっごい顔で僕を睨んだ。え、ちょっと待ってよ……。 僕、何かした? したけど……。 何かすっごく悲しくなっちゃったよ。今まで他の客に馬鹿にされてたっ てこの子の隣に立っていられるんだ、って思って何とか平静を保っていた んだけど。あんまり保ってもなかった気するけど。 女の子、おまえもか……。 なんていうことないフツーの高校生だったんだね……。 そうだったんだね……。 やっぱり人間なんだね……。天使じゃないんだね……。 表を歩いていればいくらでも転がってる醜悪な人間だったんだね……。 不平不満を口にして生きてるような、むかつくやつには同情もしないよ うな、でも世間ではそれがフツーだっていう、あの人種だったんだね……。 あ、まただ。 みんなが見てる。 僕のこと馬鹿にして、みんなが安心してる。 みんなが猿まわしの猿を見るように、僕を見てる。 「アハハ。あいつ馬鹿でー」 「そうよ女の子。もっと冷たくあしらっちゃいなさいよ」 「これであいつ、もう駄目だな」 「あいつの人生どうなっちゃうんだろ」 「かわいそーよ。少しはね」 ささやきがきこえる。 みんなが馬鹿にしてる。 みんなが、みんなが、さっきまで天使だったこの子さえも。 うわー。うわー。うわー。 また切れた。 「くっそくっそくっそー。何だってんだ馬鹿。この女もどっか行け!」 そう思っただけだった。それでなんだか気が晴れた。復讐してる気にな った。 「俺、さっきトイレ行って手洗ってねーぞ。この手で、お前の唇めくって やる。ほらほらどうした? 頭ん中ばばあのくせしてセーラー服なんか着 込んでんじゃねー」 僕はうつむきながら、女の子にそう言うシーンを想像してた。ざまあみ ろ。それで僕は満足だった。僕はこのくそやろうどもに復讐をしてやった んだ。見事だ、和夫! もうみんなが憎くて自己嫌悪におちいってる暇なんてなかったね。とに かく、僕は復讐したんだ。低能な一般大衆よ、僕はおまえらと違う。あが めるんだ、この僕を。 何かだんだんバスがこんできやがった。人がいっぱい乗ってきた。 前にも言ったとおり、僕以外の人間は他人の心が読めるんだ。だから新 しく乗ってきた客も、僕の心を読みはじめた。 「馬鹿じゃねーの」 「いるんだよねー、こーゆーやつ」 「病院行け、病院」 「やだーあたしー。こんなやつとおんなじバスなんて乗ってらんなーい」 「何のために生きてんの?」 「死ねば」 「死ねば」 「死んでよ」 「お願い、死んでよ」 ささやきじゃない。罵声だ。憎悪だ。僕は見ず知らずの人間から滅茶苦 茶に憎まれている。 うわうわうわうわうわー。 くっそー。みんな同じような顔しやがってよー。このバスが事故ってみ んな死んだら、身元もわかんなくなるぐらいにみんな似てやがる。それで 何か嬉しいか? 僕にはわからない。僕にはわからない。 うっ。 吐きそうだ。と、とめてくれ。降ろしてくれ。吐きそうだ。 でも耐えなくちゃ。頑張るんだ。 ちくしょーちくしょー。気持ちわりー。誰か、気付いてよ。だ、誰か、 う、うう……。 「どいつもこいつもみな殺しにしてやりたい」 ここでそう叫んだらどうなるかな。本心でそう思ってた。人間ってこう も人間を憎めるものなんだな。人間って恐いや。 やっと僕が降りるバス停に着いて、僕は降りた。いきなりそこでゲロ吐 きかました。すごい気持ち悪いぞ。どうしたんだろう。 「大丈夫ですか?」声がきこえた。あの女の子のだ。 「あ、平気ですよ、ただちょっと……」 そう愛想よく言いながら振り返っても、誰もいなかった。んー、そんな もんでしょう?
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