空中分解2 #1718の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ありがとう。こんな幸せな事はない」 ああ、ケン、愛してる。 管制官からの通信が、私たちの間に割って入った。 「こちらボードレール。ナンバーフォーティー、そろそろ磁気嵐の始まる時間 だ。特に影響はないはずだが、念のため待避せよ」 ケンの手が、私を離れて、操縦レバーにかかった。 「いくよ、ロッテ」 「はい」 ナンバーフォーティーは頭を下に向け、降下をはじめた。 渦巻く白いガスの雲の中へ入った途端、気圧計が振り切れた。 塩素と硫黄の高圧の嵐にあおられ、機体が悲鳴をあげる。 「くそっ、まだ乗れてないっていうのに」 流されそうになる機体を安定させながら、ケンが毒づく。 私は、そんな彼を見つめているしか、できる事がない。 せめて、私は彼の雄姿を、この目に焼き付けておこう。 力いっぱいやって、私がずっとそばにいてあげるから。 「ロッテ、前を!」 頭をめぐらせた私の眼前に、緑の森がどこまでもひろがっていた。 嵐の中で、木々が激しく葉を踊らせている。 「やっぱり、木だったのね」 「まるでジャングルだな。よし、着陸だ」 「着陸って、陸があるの?」 「ああ、高度計が作動してる。衝撃に注意」 機体が一段と下を向き、衝撃が来た。 ナンバーフォーティーは、葉をちぎり、枝をしだきながら、森を突っ切って降 下する。 まるで終わりがないかのように、密度の高い葉と枝が続いている。 その時、またしても計器が反応した。 「ケン、止めて! 金属反応!」 ケンがあわてて制動をかける。 ナンバーフォーティーは、からみあう木の枝にひっかかり、宙ぶらりんになっ て止まった。 「どうしたんだ、ロッテ」 彼には応えず、計器を操作する。 「これは、調査艇だわ! ほら見て、ケン」 画面に映ったシルエットは、私たちが乗っているナンバーフォーティーと、似 たような形をしていた。 「調査艇って、まさか」 私たちの声がハモった。 「ナンバースリー!」 私たちは、ハッチを開けて、ナンバーフォーティーの外に出た。 「驚いたわ。ここは空気も引力も、ボードレール、と言うか、地球とまったく同 じ環境になってるみたい」 「きっと、木々の厚い層が、外のガスや磁気嵐を防いでいるんだろう」 私は、胸いっぱいに深呼吸をした。 みずみずしい空気は、いやな臭いひとつしない。 私たちは、枝をつたって、やはり枝にひっかかっているナンバースリーの方に 近づいていった。 ナンバーフォーティーよりもひとまわり大きな機体にペイントされた、「3」 の数字。 まぎれもなく、ナンバースリーだった。 苔むして機体のあちこちに亀裂がはいり、そこから木の枝や葉が出入りしてい る。 きっと十五年間、ここにぶら下がっていたんだ。 機体を調べていたケンが戻ってきた。 「操縦席には誰もいない。ハッチが開いたままになってるから、乗組員は、多分 脱出したんだろうな」 ゴオッ! ふいに、強い風がふいて、私の髪をないだ。 まわりの木々が、葉をこすらせ、枝をきしませ、ナンバースリーの機体がゆら ぐ。 ナンバースリーの機体に、おばさまの面影がかぶさった。 おばさま、おばさま。 どこにいるの? 私、会いたい。 会って、話を聞かせて。 「ケン、地表までの距離は、どのくらい?」 「え?」 「森を抜けて、下に降りてみましょう。私がナンバースリーの乗組員なら、枝を つたって地表に降りているわ」 「分かったよ、ロッテ。そうしてみよう」 一度は止まったナンバーフォーティーが、地表へと向けて動きだした。 どれほどの間、葉と枝をしだいて飛んだろうか。 ふいに振動が消えて、滑空状態に入る。 はるか下方に、地表が見える。 緑の木々、赤い土、青い川、岩、丘、山、草原。 地球と同じ、自然の大地が! 上空には緑色の天井、それを支える、何キロもの高さの数本の木。 「この目で見ても信じられないわ。成層圏、それも高圧ガスと磁気嵐のただ中に、 こんな世界があったなんて」 「バビロンの空中庭園だな。自然の驚異だ」 私は、思わずケンをまじまじと見つめた。 バビロンの空中庭園。 どこかで聞いた言葉だ。 急降下から低空飛行へ。 「ねえ、着陸してみない」 「そうだな、いい場所があったら教えてくれないか」 「はい」 私は、計器を操作して、地表を調べはじめた。 あるひとつの計器が反応した。 「あっ!」 私を、巨大な衝撃がおそった。 目が、釘づけになって離れない。 「どうした? ロッテ」 心の底では、もしかしたらそれを望んでいたかも知れない。 でも、実際にはそんな事、ある訳ないと思って、自分をねじふせていた。 信じられない。 「ロッテ・フォイエルバッハ! 報告!」 きびしい口調で、ケンが怒鳴った。 私は、くいしばった口を無理やり開いた。
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