空中分解2 #1716の修正
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「だが、改造は手間取りそうだな。硫黄に塩素? ガスを中和するだけでも、一 世代や二世代はかかるんじゃないか」 「詳しくは機械を降ろしてみなければ分からないけど、地上から成層圏まで、ぎ っしりガスが充満しているようね。並の気圧じゃないわ」 アルべルトは座りなおすと、機体の向きを変えた。 「どうも、あの緑色が気になる」 調査艇は、巨大な緑色の斑点の一つを選び、その上空まで飛ぶと、そこに空中 停止した。 マリアが、計器を操作しはじめる。視線を計器に固定させたままでアルベルト に声をかける。 「アル、もう少し、あの緑に近寄れて? 元素分析に反応あり」 「そりゃ、あるだろうさ。塩素と硫黄のカクテルだろう」 「お黙りなさい。女に命令されるの、それほどお嫌い?」 アルベルトはちらりとマリアを見たが、彼女は大まじめな態度で計器をにらん でいたので、「いや、大好きだ」と小さくつぶやいて、ナンバースリーを下降さ せた。 「こちらナンバーワン。ボードレール、非常事態だ。ナンバースリーが遭難した らしい。緊急信号を受信した」 突然のその通信は、届かなかった。 惑星バビロンに、凄まじい磁気嵐が発生していたのだ。 ボードレールの船内に、警報が反響している。人々が駆け、どなりあっている。 緊急待避が決定され、ボードレールから最も近いところにいたナンバーエイト に、辛うじて指令が届いた。 ナンバーエイトは、バビロンの成層圏を文字通り飛び回り、光の点滅による信 号で、仲間に緊急待避を伝えた。 惑星の重力をふり切り、次々と離脱していく調査艇の中で、ナンバーワンが最 後まで留まり、ナンバースリーが緑色の斑点に飲み込まれて消えるのを見届けた。 調査艇の電子頭脳が緊急事態を認識すると、緊急信号と共に、艇内の映像、会 話、通信、取得した観測情報などにいたるすべてのデータが、仲間にむけて発信 される。 が、悪条件の中でナンバーワンが持ち帰ったデータは、磁気嵐のために破壊さ れて、大部分が解析できなかった。 それでも辛うじて、アルベルト・シュリーマンとマリア・フォイエルバッハと の会話が再現された。 「これ、何かしら」 「マリア、まだ降りるかい。これ以上降りると、ガスの雲に腹をこするんだが。潜 るとやっかいな事になるぞ、推力が落ちている」 「炭素? うそ、そんな。まさか!」 「マリア、どうした。何だ、この警報は」 「ありえないわ、こんな星で」 「エンジン出力が落ちてる! 墜落するぞ」 「きゃあ! アル!」 「インジゲーターがおかしい。くそっ、何もかもめちゃめちゃだ。何が起こった んだ。こちらナンバースリー、緊急事態だ。ちくしょう、通信機もいかれてる!」 「いや、いやあ」 「離せ、マリア!」 「抱いてアル、一人で死にたくない!」 「だめだ、落ちる! さらばだ、ボードレール!」 会話の記録は、ここで終わっていた。 ナンバースリー救出という特別任務をおびて、動きうる全てのものがバビロン の上空を飛び回った。 が、残された手掛かりが音声会話だけで、磁気嵐と高圧ガスが前をはばんでい るとあっては、見つける事など、できる訳がない。 そんな中で、天体観測チームのもたらした情報によって、ナンバースリーを襲 った異常の原因が判明した。 それを聞いたボードレール首脳部は、心臓が凍りついた。 引力レンズ効果による磁気破壊現象。 バビロンとその太陽との間で巨大な重力の綱引きが起こった結果に引き起こさ れる、それは磁気のバランスの崩壊による磁気嵐だった。 ナンバースリーは、運悪くレンズの「焦点」に位置したため、他の調査艇にく らべて、磁気嵐のひときわ巨大な影響を受け、制御不能に陥ったのだった。 「そんな事が、自転するごとに毎日起こっているのか。とてもこんな星には住め ない」 人々の頭上に絶望感が漂い始めたのは、異星の自然の驚異が明らかになった、 おそらくはこの時であったろう。 ナンバースリーの探索、そして二人の乗組員の救助活動は、成果のないまま、 十六時間後に打ち切られた。 ナンバースリーのエネルギーが切れる、計算上の時刻を過ぎたからだった。 その後も、ボードレールはバビロンの周回軌道を離れようとはしなかった。 ナンバースリーの事はともかく、硫黄と塩素の混合ガスは、当座の資源として 貴重だったし、公転軌道や太陽からの距離などの調査により、磁気嵐とガスの問 題を除けば、バビロンの可住惑星としての基礎的な環境は、どうやら整っている 事が分かったからでもあった。 * すべての情報が終わり、この出来事が十四年前に起こった事を伝えると、機械 は停止した。 十四年前。 私はまだ、物心がつくかつかなかったかという時期だ。 「おばさま、おばさま」 私はいつしか、椅子に座りこんで泣いていた。 会った事もない、マリア・フォイエルバッハのために、涙を流していた。 ハインリッヒがつぶやいた。 「フロンティアの時代だ。今は伝説になった、熱い息吹の時代に、ロッテのおば さんは生きていたんだ」 それからしばらく、二人とも黙っていた。 そして、ハインリッヒがまた、力をこめてつぶやいた。 「ボードレールがボードレールであった、あの時代に」 私は顔をあげて、ハインリッヒを見つめた。 彼の顔に、決意の色があった。 「決めたぞ。僕は宇宙省の移住調査局に就職する」 とてつもなく、彼がまぶしく見えた。 ふいに、激情がわきおこって、新たな涙になって頬を流れた。 「ハインリッヒ、素敵よ。応援するから、失敗してもいいから、がんばって」 口が、ひとりでに動いた。 私のこの言葉で、彼は絶対に勇気づけられる。 そんな根拠のない確信が、私の心を包む。
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