空中分解2 #1679の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
4.目の寺院、活神の宮 3月23日(月)。 ホテルでの清算をすませていよいよポカラを後にしようという朝、空港へと向か う背後に高峰が顔を見せていた。昨日は厚い雲に覆われて遠い山はひとつとして見 られなかっただけに、白い雪冠を抱いた「世界の屋根」の景観は一峰とはいえ少な からぬ感慨を俺たちに抱かせる。 つきまとっていた物売りのおばちゃんにYとKが訊いたところによると、その山 の名はマチャプチャレ、というらしい。マチャプチャレの威容をふりかえりふりか えり、俺たちは空港への短い距離をゆっくりと歩いた(Y注:マチャプチャレ、と は“マチャ(魚)の尻尾”という意味だそうです)。 朝食は空港の目の前のアンナプルナホテルというところで摂った。ポカラに来て から俺はまともな飯にありつけてなかったのでちょっとでもうまいものを、という 配慮からだ。といっても単なるブレックファーストのメニューだ。パンを食ってお 茶を飲んだだけなので、まずくはないが特にうまいというわけでもない。なにより、 はじめて食ってみたオートミールというシロモノがどうにもまずくて食えない。駄 目だ。やはり俺はポカラでは食い物に呪われているのだ。ああ。 空港に向かうと、例によって手つづきはのんびりとしてなかなか進まない。チェ ックは素通りで、飛行機はなかなか到着しない。砂埃ばかりが待合室にぶわあと舞 いこんでいる。ただひたすらぼわーと飛行機の到着を待った。ん? 来たらしい。 んじゃ乗るか。万事に行動がだらけてしまう。んだらーっ。 飛行は往路以上に荒っぽい運転だった。上下左右に自在にピッチングローリング、 ジェットコースターより面白かったのだが、俺の前の座席でこどもが一人、酔って ぶろぶろ戻していたのは少々かわいそうだった。おい、もうちょっと静かに運転し てやれよ。 そしてふたたびカトマンズへ。もう少し長くポカラでだらだらして、ドラッグな りトレッキングなりしていたかったのだが、帰りまでのスケジュールと飛行機のチ ケットの取得状況を考えるとどうしても一泊のみにとどめざるを得なかったのであ る。 カトマンズに帰還して最初によるところは、ボードナートとかいうところだそう だ。どういうところなんだか例によって俺にはよくわからない。いけば何かがある のだろう。とばかりにタクシーに乗る。 降ろされたのは何だか妙な商店街だった。その先を左に曲がれば目的の場所だと いう。なんなのだろうと言われたとおりに左に曲がると、門の向こうに巨大な卵が あった。いや、この表現は誤解を招くな。 白い椀を伏せたコンクリートの巨大な塊を想像してみるといい。その天辺に塔が そそり立っている。椀の表面にはイースターの卵よろしく巨大なブッダ・アイが描 きこまれている。そしてその表面にオレンジ色の僧衣を着た無数の人間が、ところ 狭しと群れているのだ。なんだかさっきからマイクを通して妙な演説が広場全体に 流れている。まるで新興宗教の集会のような雰囲気だ。 タイ(Y注:台北。台湾のまちがい)からの交流使節か何かだということだが、 どうもこう異様だな。などと思いつつブッダ・アイの刻まれた寺院を真ん中に広場 を半周する。ハンドマイクからはなんだか聞き苦しいおっさんの声でわけのわから ない妙な歌が流れはじめていた。 寺院内への入口を見つけ、入ってみた。観光客らしい連中が建物の下部にひしめ いている。脇に小さな仏堂らしきものがひかえ、その内部では無数の蝋燭が幻惑的 に朱々と燃え盛っていた。左まわりに進むと、卵上部へと昇ることのできる階段が あった。その階段にも外国人がぼやーと人だかりを形成している。卵上部には黒山 の――とはいかぬ橙山の人だかり。なんだか教団の幹部らしきおばはんの一団が寺 院中央部に列をつくって、真ん中でマイクにがなり立てる妙なおっさんの歌に唱和 している。皆も一緒に歌おうとでも言いたげににこにこしながら周囲を見まわした りしているのだが、オレンジ色の大集団の大部分はなんだか所在なげにそんな光景 を眺めるばかりだ。むろん観光客にも単なる野次馬の域を踏みこえる気など毛頭な い。いかにも空々しい情景だ。 階段上は人が群れててそれ以上進める余地もなさそうなので、中途でおりかえし て壁と寺院の間に設けられた狭い通路を巡りはじめた。頭上の奇妙な人だかりに比 して、この通路には人影がない。ああ、あの歌うるせえなあ。最初っから同じメロ ディ、同じ歌詞を延々とくり返してやがる。満場に集ったオレンジの集団のテンシ ョンはまるで盛り下がったままだというのに。 スワヤンブナートと同じような、真言の刻まれたハンカチみたいな旗が洗濯もの みたいにはためくのをくぐり抜けて裏手にまわる。この壁をよじ昇ればあの連中と 同じ高さに立てるぞ。幸いここらあたりには橙山の人だかりも途切れているし、と KとYを置き去りに壁にとりつき、卵の上に降り立った。 いちばん高い位置まで昇ると、ガラス容器におさめられたオレンジ色の蝋燭が壁 ぎわに無数に並んでいる。なんだか二、三、落ちて割れているのもある。むう。け っこういい加減な寺院だな。 ふりかえり一望すると、カトマンズの市街が見えた。びょうびょうと風が吹いて いる。ティベタンの衣裳がばたばたとはためいた。うん。なかなかいい。 と、なんだかオレンジ僧衣の一団がおもむろに立ち上がり、ぞろぞろだらだらと 移動しはじめた。歌はまだつづいているのだがどうやら奇妙な茶番劇は一応の終幕 をとげたらしい。ぞろぞろと俺のわきを擦り抜ける坊主頭の老若男女の面貌には、 一様にほっとしたような表情がはりついていた。中にはあの奇妙なメロディを口ず さんでいる奴もいた。口ずさむくらいなら、唱和してやればよかったのに。 巨大なコンクリートの塊の上をふらふらとあちこちさ迷い歩いたが、どこをどう 見ても内部への入口らしきものが見当たらない。もしかしてこの建物、小っぽけな 仏堂以外には内部というものが存在しないのかもしれない。中身までコンクリート で詰まってるのかな。異様な建物だな。外見も異様だけど。異様な歌は群衆の大部 分が散ってしまってもまだつづいていた。なんなんだいったい。 寺院を後にしてお茶の時間。例によって現地食堂らしきところへ入ったのだが、 ここで妙なものを見つけた。みそ汁である。すでに一度ジャヤさん宅でごちそうに なったので大体どんな味かは見当がつくのだが、妙に郷愁がわいてしまう。なによ り俺の郷里は赤みそを使うので、東京に出て以来赤みそのみそ汁にはほとんどお目 にかかっていないのだ。 というわけで、みそ汁を頼んでみた。ほかにチョコレートシェイクというメニュ ーが目についたので、「それはできない」と言われそうな気がしないでもなかった のだが試しに頼んでみると「OK、Try」と恐ろしい返答がかえってきた。大丈 夫かな。 みそ汁は、まあ、うん、現地の味だったよ。まあ、おいしかったね。うん。うん。 いいんだよ。うん。で、紅茶をほこほこと飲むYを尻目にチョコレートシェイクが 出てくるのを待っていたのだが、これがなかなか出てこない。なぜだろう。手こず ってるのかな。なにせOKトライだからな、と気長に待っているのだが、どうもい つまで経っても一向に出てくる気配がない。これじゃいくらネパールタイムといっ てもひどすぎる。と声をかけてみたら、どうやらオーダー受けたのをころっと忘れ ていたらしい。ひどい。 出てきたチョコレートシェイクは、うん、まあ、なんというか、その、ココアの 粉とシェイクがほとんど分離していたなあ、と。まあ。 通りに出てベビタクとっつかまえ、またまた長い時間をかけて王宮通り裏に降り 立った。今日あたりリコンファームをしておかないと下手すっと帰れなくなってし まうのでBIMANのカトマンズオフィスをさがして歩く。腹が減った。足も疲れ ている。おかしいな、たしかこのあたりにあったような気がしたんだが、いくつか 航空会社の出店がならんでいるのにあの妙なマークのBIMANだけがまるで見あ たらない。ああ。疲れたなあ。もしかして、表通りの方なんだろうか。そういえば 王宮前からこっちっ側にも航空会社がたくさん立ちならんでいたよなあ。 と道を聞き聞きずるずる歩いているうちに、あった。馬鹿だ、ここは初日に通り がかったじゃないか、そういえば確かに「ここにBIMANがあるなあ」と確認し た覚えがあるぞ。まったく疲れているというのに間が抜けているにもほどがある。 無事リコンファームを終え、昼めしはこれも初日にその看板を見かけた「串ふじ」 に入る。この日本食レストラン、つくりは確かに和風を模造しているのだが、従業 員は全員ネパーリだ。柱や梁を見ていると日本だが、窓の外に目を向けるとやっぱ りネパールだった。それでもひさしぶりに畳の上に胡坐をかけてずいぶんリラック スできた。なんだこのネパーリの兄ちゃん、わざわざ正座しながらメニューとりや がる。うーん。ぎごちない正座だなあ。無理してそんな姿勢つくらなくてもいいの に。店の方針かな。 やがて食卓に焼肉定食、うどん、雑炊、牛ヒレの照り焼き、あげだし豆腐、大根 おろし等が無節操にならんだ。店のネパーリ、こいつらいったいなんなんだと思っ たろうがそんなことおかまいなしに俺とKは野獣のごとく食欲をみたす。Yは雑炊 とうどんを進まぬペースでもそもそ。 ふうと一息ついて両足投げ出し、ここで俺たちが奇行をおこなえばそれがそのま ま日本人の評判につながるのだぞとさまざまな奇行例をKとともにあげつらってY を困惑させたりしながら長い時間をのんべんだらりとそこで過ごした(Y注:実際 に口にしたことを実行しかねない2人だから困惑したのです!?)。やはり畳の部 屋はおちつくなあ。
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