空中分解2 #1559の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
* * * 事務所の入口を子分格の男と一緒にならんで潜り抜けると、いかにもそれ 風の男達と何人か擦れ違った。男達の視線が自分に集まっているのは感じて いたが、目を合わす事はせず毅然とした態度で受け流していた。 入口を突き当たりまで歩き、右に折れると直ぐにエレベーターがある。 子分格の男がボタンを押すと、エレベーターのディスプレイが下を指し、 最上階に止まっていた数字が徐々に降りて来るのが見える。どうやらこのビ ルは、七階が最上階らしい。 「ねぇ、あなたの名前は?」 降りて来る待ち時間に、あたしは子分格の男に話し掛けて見た。 「………悠也っていいます、姉さん」 話し難そうにしながら受け答えしているところから見て、あたしは接しに くい相手らしかった。おそらく三代目の結婚相手と言う事で、悠也が堅くな っているの為であろう。 「悠也君ね、よろしく」 「こっこちらこそ…宜しくお願いします、姉さん」 スッッッ。そんな事を話しているうちに、エレベーターのドアが静かに開 く。悠也が先に入りあたしが後を追うように入る。あたしが入ったのを確認 すると、悠也はドアを締め七階のボタンを押す。どうやらお相手は最上階で 待っているらしい。 軽い振動を伴なって、エレベーターは動き出す。 あたしは背を壁に凭れ掛けるようにしながら、これから先どうするか考え てみた。 とにもかくにも、現状は最悪。言わば一筋の光明もないという状態である からして、これを打破することは並大抵の努力では出来ないであろう。逃げ る事は簡単だが、簡単に捕まるのも事実。現にここに居ることが、それの証 明になる。結婚式を明日に控え、それまでに何とかしなればならないのが辛 い所だ。 ”瞬ちゃん、助けに来てくれるかなぁ?さんざん我が儘言ったあげく、あ たしのせいでボコボコにされちゃって……今頃どうしてんだろ?嫌われちゃ ったかなぁ……” そんな事を考えているうちに、あっというまにエレベーターは着いており、 悠也が話し掛けているのも分らない状態だった。 「大丈夫ですか、姉さん?考えごとをしていたみたいですけど」 先にエレベーターを降りている悠也が、仕切りに声を掛けてくれたおかげ で、あたしの思考はぷっつりと切れ、現実の世界へと帰ってきた。 「あっ……ごめんごめん。さぁ、行きましょうかぁ」 さも何事もなかったように返事を返し、軽い足取りでエレベーターから降 りる。 「そうですか。じゃあ、こちらへどうぞ」 そうは見えなかったぞという顔を悠也はするが、すぐにまた先頭を切って 歩き始めた。 殺風景で何の飾り気もない廊下が続いている。 廊下自体が何となく冷たい感じがするのも、建物のなかの扉や照明などの 必要最低限度の飾り付けしかないせいもあるが、ここがヤクザ屋さんの事務 所の中と言うことであたしの中の先入観が先に出ているのかも知れなかった。 これはやはり『ヤクザ』ということでの固定概念からくるもので、これを拭 い去る事はそう簡単にできそうになかった。もっとも、ヤクザ屋さん関係の 人と接したことのないあたしがこんな事を言うのは差別や偏見からくるもの かも知れなかったが……… でも悠也を見ている限りでは、そんなこともなさそうに見える。悠也が凄 んで見せても、きっと誰も怖がらない。多分悠也の方が、ヤクザ屋さんの世 界の中では異分子なんだろうと思う。なぜこの世界の中に入ってしまったの か、今度機会があったら聞いてみることにしよう。 「ねぇ悠也君。三代目って怖い人なの?」 あたしは、黙って黙々と歩き続ける悠也に話し掛けてみる。 「三代目は怖い方じゃありませんよ、姉さん。怖いどころか優しい方です。 俺みたいな奴でも気軽に話し掛けてくれますから」 予想外の応えが返ってきて、些か面食らってしまった。 ”優しい?それだったらなぜこんな事をするのかしら?” 頭の中を疑問符が過ぎる。 「姉さん、ここです」 悠也が立ち止まり、前方を指差している。 悠也が指し示した方向には、今まで廊下にあった扉の倍の大きさはあるで あろう扉があって、見たただけで身分的に高い人の居る事が容易に想像でき る。 当然の事ながら、ここが最終目的地である事は言わなくても分ると思うん だけど… 心臓の鼓動が高鳴り、それと同時に極度の緊張感も襲ってくる。 一歩一歩扉に近付き扉を目の当たりにすると、流石に落ち着かない。 コンコン。悠也が扉をノックする。 二・三秒の間を開けて、扉の奥から返事が返ってくる。 「誰?」 可愛い声。とてもヤクザ屋さんの三代目と言う声ではない。 どちらかというと…… 「悠也です、三代目。姉さんを連れて参りました」 「えっ、本当?早く入ってもらってよ」 カチャ。ノブを回し扉を開けると、そこで待っていた人物は…… * * * 「ちょっと神崎さん、寝なきゃ駄目です!」 おっさんの影に隠れていて見えなかったが、どうやら看護婦さんも一緒に 来ていたようだ。 「絶対安静で、一週間は入院してもらわなければならないのに、服を着替 えて何しようとしてたんですか!」 患者を守るのが使命の看護婦さんにとって、俺の行動はどう見ても反逆行 為にしか見えないのだろう。看護婦さんは目くじらを立てながら、俺ににじ り寄ってくる。 「一週間!?とんでもねー、俺はなぁ、こんな所でのんびりねっころがっ ているわけにはいかねーんだよ」 俺も負けずに言い返す。 ”第一好きでここに入院したわけじゃね〜んだからよ” 口の中で反論する。 「がはははは。重体って聞いて来てみれば、何て事はなさそうじゃねぇか」 おっさんは看護婦さんと睨みあっている俺の姿を見て、さも愉快そうに笑 っている。 「いいですね。とにかくあなたは重体なんですから、少しはそれらしくし なさい。それに高崎さん、あなたもなるべく短めにお願いしますよ」 そういうと看護婦さんは、プンプンしながら部屋を出ていった。 そんなに重体なら、点滴くらい差し直していっても良いだろうに……疑問 に思った。 「どうやら依頼は失敗したみてーだなぁ」 突然おっさんは話を切り出して来た。 「ああ」 「で、これからどうするつもりだ?」 「もちろん、連れ戻しに行く」 俺は身支度を整えながら、キッパリと言い切った。 「やめとけ。今度は、その位の傷じゃすまねぇ。今だって五体満足でいる のが不思議なくらいだってぇのに……それに大体おめぇ連れ戻すっていって も居場所は知ってるのか?」 「……知らない」 頭に血が上っていた俺に、そんなことが分ろうはずもない。 「やはりな……居場所も知らねぇのに連れ戻そうとするとはなぁ……」 「ぐっっっ」 返す言葉もない。冷静に考えてみれば直ぐに分ることなのだが、今の俺 が冷静な状態のなれるはずがなかった。 「まぁ、大体の見当は付くがな」 「どっどこだ、おっさん」 「お前のやられた位置やら事情なんかから考えると、『竜人会』の本部事 務所にいるんじゃねぇか?」 おっさんの言う一言一言を俺は、頭に叩き込む。 「本気で行くつもりなのか………ふん、まぁ止めても無駄なものは止めは しねぇが、先立つものがなければ仕方があるまい?ほれっ」 そう言うと、おっさんは俺に財布を渡してくれた。 「これは……」 「いいか貸すだけだ、後で必ず返してもらうからな。それにこいつもつい でに貸してやる」 「鍵?」 「ああ、バイクの鍵だ。メットはバイクに付けてある」 「サンキュウ、おっさん。借りは必ず返すから」 「おうよ。変わりに俺がベットで寝ててやるから、せいぜい殺されない程 度に暴れてこい」 言うが早いか、おっさんはベットに寝転がってあっというまに高いびき。 本当に寝るのが好きなやつだ。 俺はおっさんに感謝しつつ、静かに扉を開けて病院を抜け出す事にした。 * * * 病院の中はそれほど広くなく、難無く抜け出す事ができた。抜け出す際に 何人かの看護婦さんとも擦れ違って俺を冷や冷やさせたが、取り敢えず無事 に出られたのでよしと言うことにしよう。 俺は病院の駐車場に向かい、そこに停めてある一台のバイクを見付けるこ とができた。車種はFZR250R。タンクの上にはヘルメットが置いてあ る。 俺はバイクに跨がり、ヘルメットを被る。頭に巻いてある包帯の為に、や やヘルメットが被り難い。 「いててててっ」 頭に怪我をしているのをすっかり忘れ、ヘルメットを被ったものだから傷 口が物凄く痛む。 「ったく………これじゃあ頭を守るどころか、その逆だよなぁ」 愚痴を言いながらも、俺は手にしていた鍵を挿し込みオンにする。スター タボタンを押しエンジンを始動させ、しばらくの間アイドリングの状態にし ておく。 「さぁて。リターンマッチといきますか」 俺はクラッチレバーを握り左足でギアをローに落とすと、スロットル全快 で爆走を開始した。
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