空中分解2 #1557の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
* * * 舞とテーブルを挟んで、俺はメニュー片手にオーダーしていた。 「これとこれと…………これとこれね」 メニューの写真を指差しながら一つ一つ注文していく。 普通は注文の品を名前を呼ぶものだから、きっとウェイトレスのお姉さん は怒っているに違いない。最近のファミリーレストランは、大層な名前を料 理に付けてはいるが、はっきり言ってほとんど意味はない。出来れば横文字 に疎い俺にも分かるような簡単な名前にしてもらいたいものだ。 「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」 ウェイトレスのお姉さんは、営業用のニッコリ笑顔で応えると、メニュー を俺の手から受け取ると、お辞儀して奥へ引き返して行った。 「で、来たい場所はここなわけ?」 お冷やを、一口含むと舞に尋ねた。 「お腹空いてないの?朝御飯食べてないから、あたしは空いたんだけど」 「そーいや、そうだな」 起きてすぐに出掛けたので、すっかり忘れていた。 「そう言えば瞬ちゃん、バス代ちょろまかしたでしょう。百円ちょいで一 人分も払えないってのにね。運転手さん可哀相」 うっ。よく考えたら、そうだ。あのときは慌ててたんで、中身なんて考え てなかったんだ。今更考えても遅いのだが…… 「まぁ、いいじゃん。儲かった儲かった」 舞はクスクス笑っている。 「でも、もともとはその金のせいもあるだよな。大体なんでそんな大金持 ってるわけ?」 たいたんだぞ」 「うん。でも…せっかくだから、おもいっきり使っちゃていいよね?」 「出来たら、来月の生活費くらい残しておいて貰えると嬉しいな」 「分かってるって」 「でもさ……平和すぎるよなぁ『竜人会』の連中も見掛けないし…」 何かあったとしたら、先程のゾンビくらいなものだ。 壁に掛けてある時計の時刻は、9時30分を少し回ったところ。そろそろ 何かあってもおかしくないのだが…まぁ、平和にこした事はない。 「お待たせしました」 会話に割って入るように、ウェイトレスのお姉さんが料理を手に立ってい る。料理の名前を言いながら、一品一品テーブルの上に丁寧に置いて行く。 手慣れているらしく、テキパキとした動作は目を見張るばかりである。最後 注文した料理はというと、流石に朝というだけあってたいしたものじゃな い。サンドウィッチなどの軽い料理と、ホットコーヒーだ。 俺はサンドウィッチを一つ摘みながら、会話を戻した。 「それにしても何ごとも起こらないよなぁ。もう忘れてるんじゃないのか なぁ?」 こうも何も起こらないと、かえって不気味になってくる。 「そうかなぁ。それならそうで構わないんだけど…」 思案顔をしながら、舞は応える。 「そうだな丁度良いから、舞ちゃんの両親が何で『竜人会』から借金する はめになったのか、教えてくれないかな?」 俺の興味だけで、舞を嫌な気分にさせることはない。だから最後に一言付 け加えた。 「あっ、別に言いたくなかったら言わなくてもいいよ。言いたくない事は だれにもあるしさ」 「うん………」 一回言葉を切って、話を続ける。 「家の親の場合、借金の典型的な青天井方式ってやつでね、ちょっとした 借金で一億円になっちゃった訳なんだけど……でも、何となく…」 再び間を置いて、 「何となく、計画的だったんじゃないかなぁて。思うんだけど」 「結婚を強要ってやつ?」 舞は無言で頷く。 「借金をする前からやたらとプレゼントが贈られてきたりして、何だろう なって思ったら、三代目の人からだったの。これって、間接的なプロポーズ だったんだけど……」 「へー。で、断ったんだ」 「もちろん。でも断った後かな、親が借金しちゃって……気が付いたら一 億円。払えなくなったところで、むこうが注文をだしてきたの。『借金が払 えないのだったら………』ってね」 少し怒っているらしく、ガツガツと女の子とは思えないほどの勢いで、サ ンドウィッチをパク付き始めた。どうやら舞は、食べる事で怒りを晴らして いるようだ。 「なるほどねぇ。好かれる事は悪い事じゃないけど、相手が悪かったね」 ハァ。舞は溜め息を付いている。軽い性格の舞も、これには閉口している ようだ。ヤクザにプロポーズされて、『はい、そうですか』と応える人も少 ないだろう。余程好きでもない限り……だ。 まぁ、そこから考えると、舞もまともな選択をしているように思える。 「まぁなんにしろ、あと一日ちょいだし………その三代目が嘘でも言わな い限りだけどさ」 相手がヤクザってのが、いまいち信用できない。逃げ切った所で強引に結 婚させられるかもしれないし……ヤクザと言うものはそういうものだった。 「そうね……そうなったらそうなったで、何とかなるわよ。もしそんな事 になったら一緒に逃げてくれるのかな?」 表情はおどけていて、冗談を言っているような感じがする。 しかし、その中でも瞳だけはしっかりと俺を見据えていた。 「さーて、どうするかな?ほら、捕まって殺されるのも嫌だし……まっ、 もしそうなったらリボン巻いて差し出しちゃうかもね」 もちろんそんな事はする訳なかったが、真剣な顔をして『よし、一緒に逃 げよう』なんて言ってしんみりするよりも、一緒におどけて笑っていたほう が良かったので、俺はわざとらしくそう応えた。 「ふんだ。いじわる」 そっぽを向いて、頬を膨らましている。 「所詮、世の中はそんなもんです」 「もしそうなったら、呪ってあげるから覚悟しといてね」 「呪い返してあげるよ」 俺は、負けずに言い返す。 「まぁ、いいわ。お腹も膨らんだ事だし、次行くわよ次」 と、さも何事もなかったかの口調で、伝票を手に席を立つとレジに向かい 相変わらずの変わり身の早さに、なかなか付いて行けなかったが、それで も一生懸命後を追うところが、俺は健気だと思った。 「ありがとうございます。二千十八円になります」 舞ががま口からお金を取り出して、ウェイトレスのお姉さんに手渡してい るのが見える。 「一万円お預かりいたします…七千八十二円のお返しになります」 お釣りを受け取り、舞は俺に寄って来ると、 「さっ、行こ行こ」 俺の腕にしがみついてくる。 悪い気はしなかったが、少し照れる。 「ありがとうございます、またおこし下さいませ」 背中にウェイトレスのお姉さんの声を聞きながら、ファミリ−レストラン を後にした。 * * * そもそも、ここに居る事態が間違っている。 ガラス越しに見える宝石の数々。一つ一つがきらびやかで、見る人を引き 付けて止まない。それくらい、印象が強く魅力的なのだ。 しかし、元を正せば只の石。 これを買うんだったら、ガラスで作ったイミテ−ションでも大差がないよ うに思えるのだが………と、俺は思っている。と言うのも、用は価値観が分 かってないからなのだ。 まぁ、確かに見ている分にはいいかも知れなかった。 が、買ってくれって言うのだから話はまた別問題になってくる。 ダイヤだってよダイヤ。店の店員が何だかんだと色々基準なるものを説明 しているのだが、説明を聞いていても馬の耳に念仏のごとく俺には良く理解 できていない。 店員の話を簡単に要約すると、品質の基準となるものがあって、『Col or Cut Carat Clarity』の4Cなんだと。関係のない 話だった。別に鑑定家になるわけでもないのに、次から次へと専門用語を使 われても困ってしまう。 俺は早くここから逃げ出したかったが、舞のほうがしがみついて離れない ので仕方がなくこの講義に付き合っているのだ。 舞は真剣な眼差しで店員の話を頷きながら聞いているようだが、実際のと ころは目の前に出された宝石に魅せられているだけなのだ。何とか引き剥が そうとはするのだが、無駄な努力だった。 「ねぇねぇ」 ドキッ。俺の心臓は跳ね上がった。 「まさか………買ってなんて言わないよな」 「くれないの?」 俺は値札を指差しながら怒鳴った。 「一桁多いの、一桁。この財政困難な中で、ど〜して石ころ一つのために 大金はたかにゃならんのだ?」 値段は、税込み四十五万円。この石のどこに、四十五万の価値があるのだ ろうか。首を捻らずにいられない。 「何がエンゲ−ジ・リングだ。ほれ、おもちゃ屋さんだったら一万円で豪 華なやつが買えるし…そっちにしよ、そっちに」 「やだ!買ってくれるまで、ここ動かないもん」 舞はしゃがみ込んで、だだっ子している。 「大人なんだから、我が儘言わない」 「大人じゃないもん、まだ子供だもん」 「そう言えばまだ年齢聞いてなかったな。いくつだっけ?」 「17」 一瞬足元が崩れ落ちるかのような錯覚に陥った。 昨日未成年と酒を酌み交わし、色めき立っていた自分を思い出していた。 「じゅうなな?職業は?」 「女子こーせー」 「じょ、女子こーせー?!?!が、学校は?」 「ヤクザ屋さんに追われている身なので、自主休学中」 早い話が、バックレ。 「はぁ。まったく………」 溜め息を一つ。舞が来てから何回目の溜め息だろうか? 「いいかい、舞ちゃん。十七才にもなれば分かると思うけど……」 「うん、わかってる」 舞が、機先を制した。 「何だ、わかってるんだったら……」 「十七才にもなれば、当然結婚もできるしエンゲ−ジ・リング貰ってもお かしくないよねー」 違った。機先を制したように見えた舞だが、どうやら自分の良い方向へと 話を持っていっただけだった。 「ちが〜う。もう大人なんだから、子供みたいに駄々こねてちゃだめだっ て言いたかったの」 腕を組み、しゃがんでいる舞の前に立って柄にもなく説教をかます俺。 「買ってくれないと、泣くぞぉ」 目を潤まして、じーっと見返しているがその手には乗らない。何回騙され たか知れなかったが、そう何回も騙されるほど俺も馬鹿じゃなかった。 舞の背後に回り込んで、両手を脇の下にいれて無理やり立たせ、足を掬っ て抱き上げると、俺は猛スピードで店の外へと脱出をするのだった。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE