空中分解2 #1448の修正
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最後のフライト 今日、俺は東京駅に由枝を迎かへに行った。由枝はいつものように、中年のおば さんが、買物のときに引きずっているようなバックをひっぱていた。(俺はよく、そ の姿を見て、笑ったものだった。その度に由枝は目尻に化粧シワを寄せて、苦笑して いた。)由枝は、俺をみつけると、いつものように手を振った。だが、由枝はいつも のあの明るい笑顔ではなく、目には光るものを貯め、悲しそうな目をしていた。 車中では重苦しい沈黙が2人を支配していた。なにを話してよいのか−−−、口を 開けば、すべて未練になってしまう。そんな雰囲気を察してか、由枝も沈黙してい た。海岸線に出て、海が見えてくるころ、どちらともなく、手を握った。細く、柔ら かな由枝の手をしっかりと握った。由枝もそれに応えるかのように、握り返した。 そして、俺は由枝の肌のぬくもりを感じながら、愛し合っているのに別れねばならな い、この残酷な運命を呪った。 2時間後、車は箱根タ−ンパイクを経て、「芦の湖」へ着いた。そこで、始めて、 俺は口を開いた。 「ボ−トに乗らないか...。たしか、3年前も....。覚えているかい?」 「ええ、覚えているわ....。」 と、由枝は消え入るような声で頷いたが、まだ、なにか言いたかった様子だった。 俺は2人乗りのボ−トを借り、別れという哀しみを打ち消すかのごとく、オ−ルを 漕いだ。俺はオ−ルを漕ぎながら、このまま、この湖で由枝と死んでしまいたいと、 ふっと思った。(このまま、由枝と2人、永遠に結ばれたいと...。) 「今日はあなたと、最後のフライトね...。最後まで、ちゃんとショ−アップでき るかしら....。」(※ショ−アップ・・・スチュワ−デスが搭乗すること) と、目に大粒の涙を貯めて....。泣き出したくなるのを必死にこらえているのが、俺には痛いほどわかった。俺自身、同じ気持ちなのだから...。 「大丈夫だよ。きみはベテランだから...。」 俺は由枝の肩に手をやり、その細く柔らかな躰をしっかりと、強く抱きしめ、髪を まさぐった。由枝の躰は心なしか、微かに震えていた。 「恭平さん....。もっと強く抱いて...。」 俺は頷き、3年間の2人の愛を確認するべく、しっかりと抱きしめた。そして、 由枝の唇へ、唇を重ねた。それは別れという苦く、せつない味だった。そして、俺の 頬は女の涙で濡れた。 俺は上着の内ポケットから、不眠症のため、いつも常用している薬−−−「ブロバ ン錠」を手にした。 「ブロバン錠 精神安定及び、催眠効果あり。注意 常用性あり。劇薬指定」 「永遠に結ばれないか....。」 由枝は俺の目を瞬きせずに、正視する。俺も由枝の目、いや、心を正視した。 由枝、俺の陰りのない気持ちを読み取ると、俺の胸に顔を埋め、 「そうね...。私もそのつもりだったの....。でも....、恭平さんから、れて嬉しい....。」 瓶には1/3、約20錠の白い固まりが残っていた。ブロバン錠は、一時期問題に なった睡眠薬「ハイミナ−ル」より、格段に副作用が少ないが、利きも弱い。2瓶 が致死量だ。20錠では死ねないのは分かっていたが、由枝の気持ちを最後にどうし ても、知りたくなり.....、そんなことを言ってしまった。
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