空中分解2 #1437の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「瑠璃。わかった?」 あたしは、CSP本社の情報処理課にいる同期の橋本瑠璃にコード909につい ての情報を調べてもらっていた。本当なら非番なんかとって、本社くんだりまで来 たくなかったのだが、7地区のCSPの情報処理課では何も検索できないのだ。 「……これはオフレコね。今年に入ってMSE患者の発狂事件が5件も起きてるん だけど、その内二件が異常なほどの猟奇事件でね。二人とも射殺されてるわ。だけ どあとの三人は殺人とかまで発展してなくて、そのまま今も病院でリハビリを続け ているわ。」 「どういう事?」 「その射殺された二人と生きている三人のMSE患者の違いってのを調べれば、何 かわかりそうな気がするんだけど……詳しい事は検索不可…というより故意に消さ れた形跡があるわ。」 「違い?」 「例えばよ。非合法でMSEを施されているとか……」 「つまり人体実験をして、失敗した者を証拠が残らないように始末するって事?」 「そういう可能性もあるって事。あくまでも可能性よ。…とは言っても8年前なら いざしらず、現在に至ってはMSE自体は法律的には何の問題もないからね。非合 法という考え方はおかしいかもしれないんだけど………。」 「サンキュー瑠璃。今度なんかおごるわ。」 「………あんた、あんまし危ない事に足突っ込まない方がいいよ。こういう事は捜 査部に任せとけきゃいいんだから……」 あたしはふいにあることを思い出し、バイザーの保管してある備品室に向かった。 そう、あたしのあのバイザーにはあの時のデータが保存されているはずだ。 「霧島さん。あたしのバイザー出して。」 備品室の管理人の霧島さんに、訳を説明する。すると、バイザーと一緒に電算室 の鍵も貸してくれた。 「それも必要なんだろ?申請はわしがしておいてやるから早く行きな。」 さすがは、ベテラン。あたしが何をしようとしているのかをちゃんとわかってい たみたい。そうそう、バイザーのデータの分析には、電算室のコンピュータが必要 なのよね。 「ありがとう霧島さん。」 そう言って、逸る心を抑えながら駆け出していった。 モニターに映し出されるひろし君の情報。確かに右腕だけ、MSEの規格外の義 手を使っている。拡大分析して見ると間接部に組み込まれた強化モーターがはっき り見える。これならば、あの異常な程の力が納得できる。 しかし、なぜMSE患者にパワードアームなどを使用していたのだろうか? ふと、頭の中に瑠璃との会話が浮かんでくる。もし、ひろし君が実験体としてパ ワードアームを施されていたとしたのなら………。でも、パワードアームなんかM SE患者に施したって意味がないはずだ。所詮AMC(戦闘用サイボーグ)にかな うはずがない。 そこまで考えて、頭の中が再び白紙に戻り、少しひと休みしようと考えて背伸び をしたとき、別の考えが頭を駆けめぐる。 「実験!!」 その考えを口に出して、自分で驚く。そう、実戦に使うわけではない。実験とし てデータのみを取るには問題はないはずだ。そもそも、パワードアームを施されて いた事に着目しすぎて、その基本的な問題を忘れていた。 AMCの欠点。それは、動作速度においてはMSEの関節補助機である小型アク チュエータに劣る事だ。今、盛んに開発されているAI(人工知能)は、戦闘ユニッ トであるドッグタイプのロボットにも使える程度に進歩している。もし、戦闘用と してアンドロイドを造るとするならば、AMCではなくMSEの本体を利用して開 発するはずだ。 「……だけど…ひろし君………あなたはなぜ、それを承知したの?」 気づいた時には、あたしは涙を流していた。 「確かにきみの父は捜査課の人間だ。だが、平川二級巡察員!きみは巡察課の人間 であって、きみ本来の仕事は他にあるはずじゃないのかね!!」 目の前の巡察課長は、予想通り怒鳴りの攻勢に出てきた。 「だから…あたしはあの子に接触した人物として事実を報告してるんです。」 あたしも負けじと大声を出す。課長なんかに負けてられないわ。 「きみの言っていることは事実ではない。ただの推測…いや空想にしかすぎない!」 「なんで、そうなんですか?あの子を殺したって何にも解決しないんですよ!!そ の原凶である立丘重工を摘発しないかぎり、この先何人もの被害者がでるんです! その人達も加害者と決めつけて殺していくんですか?!!」 「証拠があるのかね?!……どこにそんな証拠があるのかね?!!相手は大企業で あり、うちのスポンサーでもある。証拠もなしに動いてみろ、どういう事になるか わかるか?!!」 あたしはそこで言葉につまってしまった。自分でもかなりくやしかった。はがゆ くて、むなしくてなんとも言えない気持ちが心の中をもやもやとさせる。 正義なんて、所詮権力者があってのものなのだろうか? 落ち込んではいられなかった。その日は遅番で、またもや真夜中のパトロールが 待っていたのだ。 杏子先輩は怪我で入院している為に、その日の相方は班長代理の長谷川さんだっ た。とりたてて性格の悪い人でもないので、いやな気分にされることはないが、落 ち込みかかったあたしを勇気づけてくれるほど優しい人でもなかった。 −ピーピーピー 「7地区第一管区S−40にて909発生。付近をパトロール中の巡察員は直ちに 急行せよ。繰り返す……」 「はい。こちら8号車、長谷川班。直ちに急行します。」 脳裏にいやな予感が走る。いや、予感なんかではない。この事件は確実にひろし 君がらみなのだろう。 現場に到着すると、予想通りというのだろうか?死体の山が見つかった。それも また、小学生ぐらいの子である。 「平川。」 ぼそりと長谷川さんがあたしの名を呼ぶ。 「はい。なんでしょう?」 「おまえ、犯人と接触したんだったよな。どんな感じだった?」 「どんな感じ、と言われても。ごく普通の男の子でした。ただ、ちょっと興奮して いたみたいで……」 「怖くなかったのか?」 長谷川さんのその言葉で、あたしはなんだかやるせない思いにさせられた。この 人は犯人を化け物とでも思っているのだろう。そして、ADCSや課長や一般の市 民の人達もこの事件の犯人を化け物だと思っているに違いない。だからこそ、簡単 に殺すなんて事を考えるのだ。 今、ここに杏子先輩がいない事を恨んだ。杏子先輩はあたしと同じくひろし君を 人間として認めている。ADCSからの無線を聞いても顔色を変えずに、ちゃんと あの子を説得して保護しようとしたのだ。長谷川さんに任せていたら、多分、説得 もせずにあの子を撃つだろう。だけど、あたしには長谷川さんに撃つなと命令でき ない。 「平川!反応だ。右前方40メートル。」 バイザーの反応とともに泣き声が聞こえてくる。女の子のか細い声だ。 「待って、違う子よ。」 あたしは、反応方向に銃を向ける長谷川さんに銃を下ろすように告げる。 長谷川さんは、少しおびえたように立ち止まり、あたしにも静止の合図をすると、 照明弾を取り出してそれを空に向かって打ち上げる。 辺りはもわーっと明るくなり、反応のあった場所に小学校高学年ぐらいの女の子 が泣いてるのがわかる。よく見ると足をひねったようで、地面に足を投げだしてし きりに足首をさすっている。 「あたしたちはCSPの者よ。安心して。」 CSP手帳を掲示しながら、優しく微笑みかける。だが、「安心して」と言って おきながら気を抜いていたのはあたしの方だった。 「平川!左だ!!」 ゴーグルに表示される生体反応が2つに増えた時は、もう遅かった。あたしは鋭 いパワードアームの攻撃を右肩で受けてしまった。その後は、本当に奇跡的な反射 神経で致命傷に成りうる攻撃を交わして、そのまま地面に二、三回転した。 ひろし君はかなり興奮している状態だった。まるで、闘争本能を剥きだしにした 野獣のように、殺気だった気配を周りに振りまいている。 あたしは、重要な事を思いだし背筋はぞっとなった。まだ、女の子が近くにいる。 早く保護してやらなくてはという気持ちが先走り、無意識に拳銃をぬいていた。 バイザーの2つの生命反応が、次第に距離を近づけていく。 あとは無我夢中で、女の子を助ける事しか頭になかった。 銃声がこだまする。 射撃の腕は支部内でもトップクラスである。弾は見事に男の子の左胸部を背中か ら貫いていた。そこには、MSE患者の生命維持装置が組み込まれている。とっさ に頭の中の記憶から引き出されたその情報は、本来ならその男の子を救う為を思っ て調べ上げたMSEに対する知識であったのだ。しかし、皮肉な事にその命を奪う 事に使ってしまっていた。 「ひろし君!!」 あたしは叫んだ。もしかしたら夢なのでは、だから目を覚まさなきゃ、そう考え ておもいっきり叫んだ。 だが、夢ではなかった。いくら叫んでも目覚めやしない。そして、目の前のひろ し君も永遠に起きあがることはなかった。 「沙那ちゃん面会よ。」 病院のベッドでうなだれていたあたしは、杏子先輩の声に一瞬胸を踊らせた。 「杏子先輩。もういいんですか?」 「うん。あたしはもう退院よ。傷口はもうとっくに閉じてたんだけど…担当の先生 がね、無茶すんなってわたしの事をベッドにくくりつけんだもの。」 杏子先輩の久しぶりの笑顔を見て、なんだか落ちついてきた。 「少しは元気でた?」 「はい。」 あたしのその返事とともに急に杏子先輩の顔色が曇る。 「じゃあ、この話を聞いても大丈夫よね。ちょっと今のあなたには酷かもしれない けど聞いてちょうだい。」 あたしは覚悟を決めてうなずく。だいたい話の内容は予想できる。ひろし君関係 の事なんだろう。 「ひろし君はね、白血病の末期患者だったの。だけど、MSEの技術治療にはかな りのお金が必要なのは知ってるわね?そんな大金を用意できる程あの子の家は裕福 でなかったの。だから、ほとんど死を待ちながらの入院生活を送っていたわ。とこ ろが、ある人から技術治療費を割引するから新規で開発した部品をMSEの一部分 に使わせてデータをとらせてくれないかって話があったらしいの。親御さんは藁に もすがる思いでその話に飛びついたわ。ひろし君はね。最初はMSE患者になるこ とを拒んだの。……だけどね、MSE患者になっても野球ができるって事に納得し て、それに同意したの。」 「それって、もしかしてパワードアームの実験に使うって事だったんですか?」 「そうよ。右腕のパワードアームと両足に組み込まれた新型アクチュエーターの実 験の為にね。まあ、本来のMSEでは常人の三分二程度の力しかだせないから、野 球をやりたがっていたあの子には、魅力的な条件だったの。」 「それで、ひろし君はMSEに……」 「だけど、立丘は重大な欠点を忘れていたのよ。S型バイオチップに致命的な欠陥 品が混じっていた事に気づかないままMSEの治療を続けていた。その結果、深層 心理の暴走による発狂事件が起きたの。ただ、それもノーマルなMSE患者なら問 題はなかったんだけどね。中には、戦闘用の装置や部品を組み込まれた”実験体” もいたわけだから、事が大事になるのはあたりまえよね。」 「……そこで、CSPに実験体の始末を依頼した。」 「…ひろし君はね……野球がしたかっただけなのよ。だけど、あまりにも人間離れ したひろし君に周りの子が驚いちゃってね。騒ぎだして……それが引き金となって 一気に暴走しちゃったのよ。」 涙がぽつんと、握りしめた拳に当たる。 「くやしい……くやしいよぉ杏子先輩。あたしだって、あの子がただの男の子だっ てわかってたよぉ。なのに…なのに………」 「沙那ちゃんは何も悪くない。あなたには選択の余地がなかったのよ。ひろし君を 撃たなければ、あの女の子はどうなっていた?」 すっかり泣きじゃくるあたしに見かねたのか、杏子先輩はすっと立ち上がりドア から出ていく。 が、すぐに戻ってきてあたしにもう一度笑顔を見せる。 「そうそう、今日はもう一人面会者がいるの。……いらっしゃい。」 杏子先輩はドアの方を向いて手招きをする。 恥ずかしがりながらも、両手いっぱいのデイジーの花を抱えてやっていたその少 女は、あの時あたしが助けた子であった。 「お姉ちゃん、ありがとう。」 あたしはこの街が大好き。だから、この街に住んでいる人も好きになりたいの! 数日後、立丘重工は正式にS型バイオチップの欠陥を認めた。 そして、データの回収を終えた立丘重工は、次世代のMSE開発を進める。 了 『平川沙那18才、一級巡察補佐に昇進。大人への一歩を歩みだした。』
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