空中分解2 #1436の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「卒業おめでとう。」 パパは、少し曲がったネクタイで微笑みながらグラスを軽く上げる。 「卒業だけ?」 あたしの質問に、パパはわざとらしく首をかしげ「何のことだい?」と呟く。 やっぱりパパは、あたしがCSP(都市治安警察)に入ることを喜んでくれない のね。そりゃあ、自分の娘を危険な目に合わせたくないのはわかるけど……でも、 あたしは刑事の娘よ。あたしが小さい頃、パパがいつもいつも仕事で帰らないから なんでかって泣きながら質問したでしょ?あの時なんて言ったか憶えている? 『パパ達がこの街を守らなかったら、この街はどんどん醜くなっていってしまうん だよ。…………沙那はこの街が好きだろ?パパもこの街が好きなのさ。』 そう言ってあたしを慰めてくれたわよね。あたしはこの街がとっても好きなのよ。 パパに負けないくらい大好きなの。だから……わかってよね。 「まあ、いいわ。今日は卒業のお祝いということで。それじゃ、乾杯!」 「2021年4月1日付けをもって赴任して参りました、平川沙那二級巡察員です。 よろしくお願いします。」 あたしは今、憧れのオレンジ色の制服を着てS−7地区のCSPビルにいる。 とうとうパパには喜んでもらえなかったけど、これから活躍していけば考えも変 わるよね。 「きみ……たしか、平川捜査課長の……」 いささか丸みをおびた温顔の所長さんは書類とあたしの顔を見比べる。 「はい!娘です。」 あたしは誇らしげに答える。だって、あたしはパパを尊敬しているんだもん。 「ふわー…………っぷ。」 真夜中のパトロールが終わりCSPのパーキングに戻る途中、まだ車から降りぬ うちから欠伸がでてしまった。慌てて口をおさえるが、隣の席の先輩は気づいてし まったようだ。 「沙那ちゃん、おねむのようね。」 先輩の女性CSP隊員、朝倉杏子先輩に笑われてしまった。杏子先輩は巡察班長。 腕はたしかなCSP隊員。あたしはとってもとっても憧れてしまう。容姿端麗、頭 脳明晰、それになんたってとっても優しい。あたしは一人っ子だったから、こんな お姉さんがほしかった。 「すみません。……気合いが足らないんですよね。えへっ…」 「しょうがないわよ。まだ躰は子供なんだし……」 「あたし、子供じゃないですぅ!」 「あら、十八といったらまだ少女よ。うふふ…」 「先輩っていじわるだったんですね。」 「でもね…そのうち『少女』って響きが羨ましく思えるようになってしまうわ。わ たしも昔は『GIRL COP』とか呼ばれて、からかわれた時期があったのよ。」 −ピーピーピー −「7地区第4管区P−30にて909発生。付近をパトロール中の巡察班はただ ちに急行せよ。繰り返す…………………」 「こちら13号車。ただちに急行します。」 杏子先輩の顔が真剣な表情に戻る。コード900番台の事件は特殊指定だ。えっ と……パスワード入れて…隊員番号押して…検索キーを押して…それで9・0・9 と……あれっ?反応しない。違ったかな……。 あたしは車に備え付けの端末で事件のデータを検索しようとするのだが、うまく いかない。 「沙那ちゃん…間違ってはいないわ。コード909は多分、上からの圧力でデータ 内容を公表できないんだと思うわ。」 「それじゃ、対応できないじゃないですか。」 「多分……企業がらみの事件よ。」 「ひどい……。」 現場に到着したあたしたちが見たものは、腕をもぎ取られた小学生ぐらいの男の 子達の死体だった。 死因は失血によるショック死。人数は4人、学校帰りでそのまま遊んでいたらし くランドセルが脇に置いてあり、野球のバットやグローブが散乱している。 そして、少し離れた所にある電話ボックスは真っ赤に染まっている。恐らく、中 には通報してくれた人の死体があるのだろう。 「沙那ちゃん!……生きてるわ、この子。無線で救急者呼んで。早く!!」 あたしは杏子先輩の叫び声でやっと我に返る。だけど、躰の震えが止まらない。 怖いものなど何もないと思ってきたつもりなのに……… 救急車と入れ違いで、応援の捜査班がやってきた。なんと、駆けつけたパパの班 だった。あたしは醜態を見せまいと気合いを入れて躰の震えを止めるのだが、これ がうまく行かない。 「まだ、付近をうろついてるかもしれない。池辺は周辺の聞き込み徹底してやって くれ。森野は最悪の場合を考えてADCSに連絡を取ってくれ。朝倉君達は被害が 出ないよう巡察を続けてくれ。それから、所長の許可が出た。君らも最悪の場合は 各自の判断に任せてS装備を使用してもかまわないとの事だ。」 「S装備!!」 S装備というのはショットガンやライアットガンなどの大型銃器の事を指す。こ れはテロや凶悪犯と対する時に許可が出るもので、あたしにとっては初体験の状況 だ。とはいっても7地区のCSPではそれほど珍しくはない事らしいが。 「了解しました。朝倉班は巡察を続けます。」 杏子先輩は敬礼をすると、車のトランクからS装備を出す。 「ショットガンの扱いはわかるわよね。ライアットガンは沙那ちゃんにはちょっと 大きすぎるものね。」 そう言って杏子先輩はクスッっと笑う。その笑顔はなんだか温かみがあって、震 えていた躰を落ちつかせてくれる。ほんとに杏子先輩はいい人だ。 第4管区にはいくつかのスラム街があって、その中はつい数年前までは無法地帯 に近かった。しかし、法律の改正によりCSSがCSPとなってからは少しは秩序 を取り戻してきているようだった。とはいえ、まだまだ不気味な場所であることに は変わりはない。 真夜中過ぎということで、屋台の並ぶこの場所にもほとんど人気はない。 あたしたちは無線機と赤外線ゴーグルが一体型になったバイザーをして、街を巡 回している。このバイザー、あたしがCSPに憧れるきっかけとなったもので、無 線機の部分は平べったい紡錘形のアンテナが片方にうさぎの耳のように突き出てい てなかなかかわいいものがある。ゴーグルの部分は顔を半分覆うような半透明の赤 で、ノクトビジョンと各種センサーの情報表示モニターを兼ね備えている。アンテ ナの部分は白でその先端部分がグレーと黒になっているから、二つあればほんとに うさぎの耳のようである。 張りつめた空気の中、銃声がこだまする。 聞き慣れたこの音は、CSPの捜査班が使う小型のハイパーマグナム弾だ。 「あっちよ!」 パパ達の班の誰かが犯人と接触したのだろうか? あたしたちは銃声の方角へと駆け出していくが、その途中で連続して鳴っていた 銃声は止み、あたりを静寂がたちこめる。 再び、空気がだんだんと張りつめていく。 銃を握るあたしの手にも、じっとりと汗がにじむ。 初めての実戦。 相手はけして容赦はしない。 あたしは心を落ちつけながら、CSPの研修で習った事を必死に思い出していた。 まず、バイザーのセンサースイッチ入れ、ゴーグルに表示される各種情報に注意 をする。そして……えっと…なんだっけ?…… 焦りと緊張があたしの頭の中を真っ白にする。 ふいにあたしのバイザーが反応する。バイザーの表示は、前方50メートル地点 に人間の熱反応があることを示していた。 「沙那ちゃん。気をつけて………………」 杏子先輩は押し殺したような声で辺りを注意深く見回す。 張りつめた緊張感で心臓が破裂しそうなほど鼓動が高まってくる。少しでも気を 抜いたら多分倒れてしまうかも。 「きゃっ!!」 あたしの視界に小さい人影が映る。よく見れば小学校高学年ぐらいの男の子がう ずくまっていた。先ほどのバイザーの反応はこの子だったようだ。あたしは、ほっ と胸をなで下ろしながらその子に優しく声をかける。 「こんな所に一人でいると危ないよ。もしかして、迷子になったのかな?…だった ら、あたしたちが家まで送ってって上げるから安心して。」 その男の子は躰をひくひくさせながら泣いているような様子だった。 「しょうがないなぁ。男の子はそう泣くものじゃないよ。」 あたしがそう言って近づこうとした時、遠くの方から聞き覚えのある声が響いて くる。 「その子に近づくんじゃない!!!!!」 「えっ??」 パパの声に戸惑い、一瞬何が起きたのかを理解できなかった。気づいた時には後 ろから杏子先輩に引っ張られていた。そして、肩口の所がすっぱりと切れ、そこか らわずかに血が滲み出る。我に返ると同時に痛みだす傷口。 目の前には、いたる所に返り血を浴びたその男の子がこちら睨んで立っていた。 バイザーのスキャンでその右腕に特殊な金属反応があることがわかる。データによ ればそれは、パワードアーム系列の特殊義手であった。 「お願いだから…ぼくに近づかないで……」 涙を流しながらその男の子はあたしを睨む。睨むと言っても、それが本人にとっ ては不本意な行動らしい事はその子の言葉や表情から読み取れた。 だけど、我に返った今でも状況の把握ができない。 「あなたはMSE患者ね。」 杏子先輩が、その男の子に柔らかい口調で問いかける。けして責めるようでなく、 それでいて哀れむようでもなく、心から優しくという感じだった。 「名前は?」 続けて杏子先輩は同じような口調で問う。 男の子は、興奮から少し落ちついたように杏子先輩に受け答えをしていく。さす が杏子先輩、といった所かな。 ところが、突然バイザーに無線が入ってくる。 −「こちらADCS、第三班西倉班長だ。犯人射殺の許可が出た。あとはこちらが 受け持つので、すみやかにその場から撤退せよ。繰り返す、すみやかにその場から 撤退せよ。」 「ちょっと待って下さい。相手は子供ですよ。射殺なんて………」 あたしはバイザーから出ているマイクを手で押さえながらひそめた声で応答する。 −「無線で連絡する時は、所属と姓名を申告したまえ!」 「申し訳ありませんでした。こちら巡察課朝倉班の平川です。今、容疑者と接触し ています。もう少し時間をください。そうすれば……」 −「上からの命令だ。被害が広まる前に射殺せよ、との事だ。」 「ちょっ…ちょっと待ってください。もうすぐこの子を保護できるんですよ!」 無線からの命令に少しムカっときたあたしは、思わず怒鳴りそうになる。 −「犯人と接触しているのならすぐに銃を撃て!!そいつはおまえらの手に負える 相手ではない!!前に他の地区の隊員が保護しようとして殺られている!!!」 あたしの頭の中は再び混乱していた。MSE患者の事をあたしは全然知らないわ けではない。だからこそ余計に頭が混乱する。 「ひろし君。家に帰りましょう。」 杏子先輩の言葉と同時に、男の子の足元に銃弾が着弾する。遠くの方から、グリー ンの制服を着たADCSの隊員が走ってくる。 ADCSは、かなり強引に作戦を押し進めるので有名だ。あたしの意見なんかま るで無視。ほんとムカつくったらありゃしない。 その着弾のショックなのだろうか?男の子は、うつ向いて再び泣きだし躰を震え させる。その震え方は尋常ではなく、まるでけいれんを起こしたかのように大きく 震え出していた。 「だめ……もうぼくは家には帰れない。ぼくは…ぼくは…うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」 絶叫とともに男の子の表情が変わる。額付近に浮き出た血管、そして人工眼球の 異常発光はその子の目を黄金色に不気味に光らせる。すべてを憎みきるようなその 表情は、その裏にある何か悲しげなものをほうふつさせる。 男の子は目の前にいる杏子先輩を睨んでいた。そして、不適な笑みを浮かべると 同時にその子の躰が動き出す。 「平川巡察員!撃て!撃つんだ!!」 「なぜ撃たなかった!!!」 課長室に呼び出されたあたしは、見るからに神経質そうな課長さんにおもいっき り怒鳴られた。 あの後、男の子との格闘で杏子先輩は左足を負傷してしまい、呆然となっていた あたしはそのままその子の逃走を許してしまったのだ。 撃てっこなかった。あの子の悲しげな表情を見てしまったんだもの。 しかし、この課長の怒りような普通ではない。なぜ、そこまで射殺にこだわって いるのだろうか?相手はMSE患者とはいえ、まだ小学生の男の子。確かに、あの 力と行動は普通ではないけど、ADCSまで出動させるなんて……。 確か杏子先輩は、一番初めに企業がらみの事件とか言ってたわね。何か裏がある のだろうか? 「GIRL COP」(後編)に続く
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