空中分解2 #1428の修正
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池袋の最大の難所は、西口方面に東武デパート、東口に西武デパートがあることだ。 このせいで何度か迷った事があるのは、私だけではないだろう。 今日は池袋「文芸座」で映画を観ることにした。 クロサワ監督の『生きる』と『酔いどれ天使』が同時上映。 なんて、ものすごい組合せなんだ。 志村喬がまるで別人のように見えるが、それを狙っての組合せだろうか? この劇場とも長いお付き合いになる。 以前「アエラ」と言う雑誌でこの劇場の特集が組まれた事があった。 ただそれだけだが、なんとなく嬉しかったので記憶に残っている。 文芸座に入ると渡される「文芸シネウイークリー」と言う小冊誌(と言うよりは映画の スケジュール表と言ったところかな)を見るたびに、「この劇場は、ツウだな」などと 思ってしまう。『ニューシネマ・パラダイス』は名作だと思うが、この映画に出てきた 映画館、トト少年がいつも通った映画館を、ふと連想させるのが、この文芸座である。 なんてことを言ったら誉めすぎか? 映画が終わり、サンシャイン60にでも行こうかと思ったが、そちらの方面は人混みが わずらわしいので、雑司が谷の方に足を伸ばしてみる事にした。 雑司が谷霊園には、日本文学界のアイドル、夏目ソーセキさんが寝ておられる。 ついでに泉鏡花さん、小泉八雲さんも拝んで行く事にしようか。 泉鏡花は異常なほどの潔癖症だったそうで、なにか食うにも必ず火を通して食ったと言 う。変わったオヤジだが、どこか変わっていないと人間として面白味が無いだろう。 日本人は無個性だなんて話をよく聞く。 表情が無くて、外人は日本人をみて能面を連想するとか。 教育システムがそうなっているからと言う事も考えられる。 また、日本社会では、伝統的に「出る釘は打たれる」ようになっているような気もする。泉鏡花を見習うべきかもしれない。 我ながら変わった趣味だが、たまに「墓場」にブラリと訪れるのは妙に気持ちいい。 何やら「夢のあと」のようなものを見ている気分になるのだ。 どんなやつでもいづれ死ぬ。 シェークスピアは言った。 「死んじまやあ何もかも帳消しだい!」と。(VOWと言う本で得た知識。) 墓を見ていると、あらゆる事がたいした事では無いように思えて来る。 そう、死ねば終わりだからなあ。 雑司が谷には「鬼子母神堂」がある。当り前だの鬼子母神、なんて言葉がある。 今では使わない「死語」だが、何か機会があったら私が使ってやることにしよう。 まあ、そういうふうに生き返る事が出来るのが言語ってやつだし、こうした言語のカタ マリの「文章」がいつまでも残るというのは、人間にとっては救いですなあ。 夏目ソーセキさんも、泉鏡花さんも、小泉八雲さんももういないけど、彼らの作品は生 きているものね。そのおかげで出版社が儲けてるのを考えると、死後も金を稼ぐ彼らは 大したもんだ。なかなか出来ない事だよ。 夏目ソーセキさんの墓前で手をあわせながらそんな事を考える私は、実に不敬なやつだ。1992年1月の、のどかな日の事であった。 END
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