空中分解2 #1419の修正
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悪い癖 11月の木枯らしが吹きすさむ日、俺はコンサ−トに出掛けた。花の金曜日というこ ともあって、なんとか定時で退社することができた。場所は東京の池袋の1年前にでき たばかりの「東京芸術劇場」だった。昔、「武道館」には何度か足を運んだことがあっ たが、「東京芸術劇場」は別格であった。 エスカレ−トで3Fに上がると、すぐフロントがあり、手荷物、コ−ト類を預かって くれる。「武道館」なんかはフロントなんかないし、荷物なんか預かってくれない。い や、逆に「カメラ」を没収された経験すらある。 各入口には「案内嬢」がおり、チケットを見せると席を案内してくれる。なんか今日 は上流階級に自分がなったかのような錯覚を覚えた。まして「S席」の優越感はいいも のだと思った。けっこう、年配の人でも普通の席の人が多い。 案内嬢に席を教えてもらい、俺はS席中間位の席に腰を降ろした。開演までに10分 位の間があった。とりあえず、自分とはまったく別の世界にすんでいるお嬢品な紳士、 淑女を観察した。すると、けっこう芸能人が多い。評論家の先生や、歌舞伎役者、音楽 家、TVのアナウンサ−とひととおりの有名人が俺と同じ、S席か特別席にいた。 演奏が始まった。でも、俺には「モ−ツアルト」の音楽なんか全然わからなかった。 「バッハ」や、「ショパン」との違いくらいはわかるが、心わくわくするようなときめ いた気持ちにはなれなかった。もし、「矢沢永吉」なら、全身で「ガッツ」なのだが.. 休憩の時間になった。時計は8時を少し回っていた。とりあえず、タバコをやりに 外へ出た。外(フロア・ラウンジ)で、タバコに火を灯した。やけにタバコの紫煙が 目にしみた。花の金曜日に独り淋しく、来たくもないクラシックコサ−トにきた自分 を思うと、よけい目にしみた。悲しい一服だった。まわりはみな、アベックが多いのに 自分は独りで−−−−。あ、そおいえば、かおりのもう1枚のチケットは売れなかった のだろうか、俺の隣は空席であった。 フロアの1部がティ−・ラウンジになっており、みんな「コ−ヒ−」や、「ワイン」 をやっていた。俺も後1時間もクラッシクを聞くのかと思うと、むしょうに飲みたくな った。俺は女にワインを頼んだ。ワインが来るまでに、もう一服したくなり、ポケット をまさぐっていると、「あっ」と、なんと俺は肘で後に立っていた女のワイングラスを 突いてしまったらしい。俺は慌てて、振り返り、 「すいません。大丈夫ですか?」 と、すぐにポケットから、ハンカチを出したが、まさか女性の体に触れるわけにもい かないので、ハンカチを差し出し、これを使ってくださいとだけ言った。女は慌てて ドレスをハンカチでしごいていた。白ワインだから目立ちはしないだろうが、染みに なるかもしれない。クリ−ニング代出さなきゃなんないだろうな−と、考えていた。 女が落ち着いたので、俺は切り出した。 「本当にすいませんでした。私の不注意で−−−−、あの−、クリ−ニング代はいか ほど位−−−」 と、俺は丁重に詫た。女はちょっと考えている様子だった。 俺は胸ポケットに手を入れ、サイフを出し、 「あ、私、こういう者です。」 と名刺を差し出す振りをした。名刺は名刺入れにあったが、俺は名刺を女に出すほど 愚かではない。 「すいません。ちょうど名刺が切れてしまって−−。あの後日連絡しますから、 失礼ですが、電話番号教えて頂けないでしょうか?」 と、俺の悪い癖が始まった。
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