空中分解2 #1366の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
俺は手錠をはめられ、さらに首輪でつながれてじっと順番を待っていた。 「次、36番」 進行役の男が言うと、俺はステージの中央に引っ張り出された。 客席の奴らがざわめく。 それはそうだろう。おれは容姿や肉体にはちょいとばかし自信がある。おそ らくこのオークションの最高値で競り落とされるだろう。 「250万」 「280万」 客達によって俺の値段がつけられていく。 このオークションは今では法的に認められている。産業の高度成長と共に産 業のロボット化、すなわち無人化が進み、エンジニア達はごく一部を除いて不 要になっていた。 そのため失業者があふれ、浮浪者が急増し、それに伴って犯罪が激増した。 事態を憂慮した政府は今まで裏マーケットでしか行われなかった人身売買を合 法化したのだった。 もちろん、名目は人身売買ではなく個人従業者である。個人従業者とは企業 単位ではなく、個人と契約し、契約者の指定する労働を遂行することによって 被契約者は契約者によって衣食住を保証されるのである。この契約はほとんど の場合、賃金は支払われず、また自由は保証されない(例外はあるらしいが)。 要するに奴隷なのだ。それでも衣食住が保証されるのならば、とこの個人従 業者を希望する失業者は後を絶たない。もちろん、俺もその一人である。 「400万」 ダブルの背広を着た恰幅のいい紳士がぐっと値を釣り上げた。 「400万、400万、後はいないか」 結局俺は400万で競り落とされた。くそっ、思ったより安かったな。 俺は手錠をはめられたまま目隠しをされて車に乗せられた。終始無言のドラ イブは一時間程続き、降ろされたところはやたら空気がきれいな感じがした。 俺の雇い主に手を引かれて玄関らしきところへ向かう。雇い主が鍵を取り出 す気配。ガチャッと鍵の開く音。俺は背中をぐいっと押され、中に入る。背後 で鍵の閉じる音。 さらに引きずられながらある部屋に連れてこられた。エアコンで快適な温・ 湿度に調節されたその部屋で俺は目隠しをはずされた。 照明がやわらかく調節されていたので俺の目はすぐ生き返った。俺の目に最 初に飛び込んだのはロッキングチェアーに座った15・6歳位の少女だった。 純白のドレスに身を包み、そのドレスに負けない位白い肌をしている。 俺は振り向いて背後にいる雇い主を見た。勿論例の恰幅のいい初老の紳士だ。 「私の娘の小百合だ。」 雇い主は言った。 「生まれてすぐに母親を亡くし、しかも盲目だった。病弱でもある。そんな 娘を男手一つで私は精一杯育てた。しかし、甘やかしすぎたのか高慢でわがま まな娘に育ってしまったのだ。そして先日、娘は私にこう言った。ペットが欲 しい、それも人間のペットを……ってね。」 淡々と話し続ける。俺は無言で聞いている。雇い主の許可がなければ喋る事も できない。 「私は先日合法化した個人従業者のことを思いだした。私自身はそんな物、 利用する事はないと思っていたが娘に人間のペットをとせがまれたもんでね。 ちょっと覗きに行ったら君を見つけたんだ。私はある大手企業で人事の仕事を しているもんでね、人を見る目はある。なに、君が優秀な人間だって事じゃな い。君は典型的な人畜無害な男だよ。大それた事、人を裏切る事なんか絶対に 出来ない男だ。だからこそ個人従業者なんかになろうとしてるんだろうが……。 それに結構見栄えもいい。体も丈夫そうだしね。まあ、娘は目が見えないから 見栄えは関係ないがね。」 ちょっと言葉を切って、 「さあ、君は今日から小百合のペットだ。小百合の言う事だけを聞いていれ ばいい。そうすれば食う事は保証しよう。ただし、この部屋からから出る事は 許さない、いいね。」 今度は少女に向かって、 「ほら、小百合、おみやげだ、おまえのペットを買ってきたぞ。」 そこで初めて少女は口を開いた。 「あら、本当? お父さん」 鈴を転がしたような声と言うんだろうか。涼しげな、それでいてはっきり通る 声だ。 「ああそうだ、好きなように遊びなさい。お父さんはまたすぐ出掛けなきゃ ならないから」 「はい、お父さん、行ってらっしゃい」 父親はその言葉を聞いて部屋を出て行った。 「そうね、おまえの名前を決めなきゃいけないわね、こっちにいらっしゃい」 俺は命令通りに少女の前に進み出る。少女はその柔らかい手で俺の全身をくま なく触れて考え込む。 「うーん、結構体格いいのね。もっと華奢な感じのが良かったんだけど。名 前、いいのを思いつかないからとりあえずポチにするわ、ねえ、ポチ……」 と言いながら俺の体をその華奢な腕で抱きしめる。まだ成熟しきってない胸が 俺の顔に押しつけられる。 「よしよし、ポチ、いい子ね。これからは私の言う事、よーく聞くのよ」 と俺の頭を撫で、そのバラのつぼみのような愛らしい唇で俺の額にキスした。 「ポチ、お返事はどうしたの?」 「はい、わかりました、お嬢様」 俺は一語一語はっきり区切って返事をした。少女は俺のその言葉を聞いてパッ と微笑んだ。その年齢に似つかわしいあどけない笑顔だった。笑うと口元に可 愛らしい八重歯が覗く。 「うん、じゃあ、私をソファまで連れてって」 俺は命令通りに小百合の手を取り、ソファに座らせた。 「ポチ、私のとなりに座って」 というので言う通りにした。 「あのね、ポチ、私の話し相手になってね」 そう言って小百合は喋り始めた。 「私、生まれてから一度も外に出た事がないのよ。病弱で、おまけに目が見 えなかったから。それに私、お父さんとお医者さんとメイドさん以外の人と口 をきいた事がないの」 少女は悲しそうな表情で続ける。 「外に出てみたいって言ってもお父さんは絶対聞いてくれない。それに外に 出ないからお友達もできない。ねえポチ、私、学校にも行ってないのよ。家庭 教師もつけてもらえなかった。お父さんは私を15年間こんな狭い部屋に閉じ 込めておいてるの。私、お父さんを恨んでる。だからいつもわがまま放題言っ てる。お父さん、仕事が忙しいからってあんまり私にかまえないもんだから物 ばっかり買ってくる」 確かにこの部屋はいろんな物で溢れてる。ピアノ、チェロ、山ほどのぬいぐ るみ、いろいろなゲーム類、化粧道具、巨大な衣装ダンス、エトセトラ、エト セトラ。 「ピアノを買ってもらったって、チェロを買ってもらったって、弾けやしな い。先生もつけてくれない。ゲームを買ってもらったって、遊んでくれる相手 がいない。お化粧したって誰も見てくれない。自分でもわからない。私、困ら せてやろうと思った。無理な物、ねだってやろうと思った。だから、人間のペ ットなんて事言ったのに、お父さん、買って来ちゃった。ねえ、ポチ、ううん、 いくらなんでもやっぱりポチはないわね。あなた、名前はなんていうの? ど うしてこんな所に買われてきたの?」 俺は『個人従業者』について小百合に説明し、 「俺の名前は隼人」 と名乗った。 小百合の話しを聞いていて俺はだんだん腹が立ってきていた。自分の都合だ けで、娘の意志を無視してこんな所に閉じこめておくなんて。自分本意にも、 過保護にも程がある。いつの間にか俺は小百合の手を取って話を聞いていた。 小百合はその手を握りしめ、俺に、 「ねえ、隼人さん、聞かせて。外の世界ってとんなふう? 学校ってどんな 所? 海って、山って、街ってどんな所? ねえ、教えて!」 小百合は見えない目で俺を見つめ、必死な思いで俺に聞いている。 この娘は親父の言うようなわがまま娘じゃない。ただ淋しいだけだったんだ。 俺は小百合がたまらなくかわいそうで、気がつくと自分の役目も忘れ、小百 合の信じられないくらいに細い体を抱きしめていた。 と同時に親父の言葉が俺の頭の中でぐるぐる回っている。 「君が優秀な人間だって事じゃない。君は典型的な人畜無害な男だよ。大そ れた事、人を裏切る事なんか絶対に出来ない男だ」 人畜無害。 大それた事の出来ない男。 裏切る事の出来ない男。 違う違う違う! 俺は……。 小百合はもう俺の腕の中で泣きじゃくっている。俺は小百合の髪を撫でてや りながら、 「わかった。俺が連れて行ってやるよ」 小百合は泣くのを中止し、涙に濡れた目で俺を見上げ、 「本当?」 と呟く。 「ああ、本当さ。海でも、山でも、街でも、連れて行ってやるよ」 「でも、お父さんに見つかったら、隼人さん、確実に殺されるわよ」 「かまわないさ、どうせ売ってしまった命だ」 俺は腹をくくっていた。大それた事の出来ない人間じゃない。 しばらく考え込んでいた小百合は、 「じゃあお願い、連れて行って。大丈夫、あなたが殺されるときは私も一緒 に殺されてあげる」 「それでいいのか?」 「うん、外に出る事もなく、この部屋の中で一生過ごす事になるのなら、外 で殺された方がマシだもの」 小百合のはねあげた前髪の奥の見えない瞳が俺を見つめている。 「よし、行こう」 俺は小百合の手を引き、部屋のドアへ。外から鍵がかかっていたが、二、三 度体当たりしてぶち破った。 迷路のような廊下を突き進む。目隠しして連れてこられたときのうっすらと した記憶と勘だけが頼りだ。 しばらく歩き回っているとやっと玄関らしき所にに着いた。ドアは内鍵しか かかってない。俺は鍵を開け、ドアを開けようとした。 その時、後ろから銃声が響き、俺の背中に一瞬激痛がした。すぐに身体が痺 れてくる。俺は前のめりに倒れた。 「隼人さん!」 小百合が叫ぶ。 「小百合、行くんだ! 君は殺されなくてもいい、早くドアを開けて外に出 るんだ」 一瞬、躊躇していた小百合は、 「わかった、でも、約束だから、後から必ず隼人さんを追いかける」 「いいんだ、君は死ななくても……」 しかしそれは声にならなかった。 かすんでゆく目で小百合がドアを開けるのを見ていた。 外のまばゆい光に包まれた小百合の白い、白すぎる身体は一瞬、光の中に融 けてしまったかの様に見えた。 − 終わり −
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