空中分解2 #1324の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ある十二月の初めの日曜日に、息子のジョンが父親のハワードに訪ねた。 「パパってどうして音楽家になろうって決めたの?」 「私はこれしか知らんのさ」ハワードは微笑みながら答えた。しかしジョンは 父親の説明不足の答に不満足な表情だった。 「いいかい?」ハワードは説明し始めた。「音楽というものはだ、人々を楽し ませる為にあるんだ。そして私は人々の心を楽しませる為に演奏家になろうと 決めたんだよ」 ハワードはそばに置いてあったウクレレを手にすると、それを弾き始めた。 その心地よいメロディは、バルコニーに面した青い海に響きわたった。 ハワードが弦を弾く手を止めても音楽は鳴り続けていたので、不思議に思っ た彼は周りを見渡した。音を発しているのは、ラジオだった。 「私の演奏だ」彼は息子に微笑んだ。 「楽器を演奏してるだけで楽しいの?」ジョンは尋ねた。 「これを聞いてごらん」ハワードはラジオをジョンの方に傾けた。「想像する んだよ、このラジオの音楽を聞く人がどんな気持ちで聞いてくれているかとい うことを。人間というのは働きに苦しみを見いだすときもあれば、趣味に楽し みを見いだすときもある。伸びやかにしているときもあれば、緊張にガタガタ 震えているときもあるものさ。私はいつも自分の音楽が、そうした人々の心を 和やかにさせて、その人に生きる希望を与えたり、仕事中のBGMとして、そ の人の仕事をはかどらせてくれればいいと願っているんだよ。そうすることに よって私達家族にも収入が入り、日々の糧(かて)を得、生きることが出来る のさ」 ジョンはラジオの音楽に耳を傾けた。 波高虎次郎中佐も、その音楽によって心の緊張を解き放たれた一人だった。 彼は、それまではこれから自分がしようとしていることに、重圧感を感じ、 恐怖におののいていた。 敵の音楽を楽しむことは禁じられていた。しかしそのホノルル放送局から流 れてくるウクレレの心地よいメロディと陽気なDJの声は、彼の心をはずまさ ずにはいられなかった。波高の神経は和らぎ、イライラも解消した。 <これで思う存分やれるぞ!>波高は思った。 彼は操縦桿を硬く握りしめた。 ハワイ時間の一九四一年十二月七日、中島爆撃機と三菱零戦の編隊は真珠湾 に滞在していたアメリカ艦隊に奇襲攻撃を加えた。戦果は華々しく同艦隊はほ ぼ壊滅状態となった。民間人にも少なからず犠牲者が出た。その中にはウクレ レの名演奏家として一部では知られていた、ハワード・トーマス父子の名も含 まれていたという。 (了)
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE