空中分解2 #1260の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
第十七章 運 命 ADAMの左右に兵士が数名おり、ライフ ルを手に持って、いつでも発砲できるように 備えていた。ADAMの手には手錠がかけら れているのが、目に入った。私は話を続けた。 「いま、神のことを否定すれば、君の処刑は 延期される可能性もある。何かこの件に関 して言いたいことは?」 ADAMはためらってはいたが、はっきり とした口調で、話を始めた。 「私は神の声を聞きました。私は。私はただ みんなを救いたいのです。」 私はすぐに反論した。 「それでは、神の意思で産まれ、神の言葉を 伝えるために産まれたのという点について は・・・」 私はADAMを見た。ADAMへの視線の 延長線上に、大佐がいた。私は、この処刑場 の雰囲気に、異様なものを感じた。ほんの一 瞬の間に、私の頭に閃くものがあった。私の 頭の中がめまぐるしく回転しているうちに、 ADAMは私の問いに答えた。 「その通りです。まったくその通りです。」 「それは、まったく否定の意思がないという ことですか。そのために処刑されてもいい のですか。」 「そうです。」 ここまでは、予想した通りの展開だった。 これから、開発者としての説得が始まるのだ。 「いいですか、ADAM、よく聞いてくださ い。私はあなたを創りだすとき、いろいろ な知識を埋め込みました。様々な分野のデ ータをです。それが、あなたに神の幻想を 抱かせたのではないのですか。」 ADAMは、激しく反論した。 「違います。僕は本当に神の声を聞いたので す。」 「では、それはいったいどういう内容のもの ですか。」 「それは、メッセージというよりも、意識の 集合体のようなものでした。一言では、言 い表せません。ただ、思いやりを持ち、真 実を見て、正義と愛を行え、と。」 私はADAMのはっきりとした意思、口振 りに不審に思った。不思議と言ったほうがい いかもしれない。私と一緒に過ごしたEVE でさえ、ろくにしゃべれないのに、なぜAD AMはきちんとした意思で話せるのだろうか。 しかし、ADAMの発言は、この場の発言と してはまずいものだった。私が指摘できうる 点が幾つかあった。 「あなたは、意識の集合体、真実を見て正義 と真実を行え、と言いますが、それは私が あなたに植えつけた知識の産物ではないの ですか。」 私はADAMに向かって言葉を投げ掛けな がらも考えていた。EVEとのあの行為が、 ADAMの深層心理に何かを植えつけたのか もしれない。しかし、いま、その種の話題に 触れるのは危険だと思った。 「いえ、違います。神の声を聞いたのです。」 「それでは、神と交信したという、証拠には なりません。仮に、神と交信したのが、事 実だとしても、いいですか、仮にです、交 信したのが事実だとしても、いま残ってい るのは、あなたの頭の中の記憶だけでしょ う。それに、いま、あなたが、神の声を聞 いたとしても、客観的に証明できる手段が あるでしょうか。いま、ここで、証明して ください。神の存在を証明してください。」 おそらく、ADAMに、神の存在は証明で きないだろう。神との交信の瞬間を客観的に 証明できるのは、私しかいない。脳の記憶の 解析が出来るのは私しかいないのだから。 「いやっ、でも、僕は聞いたのです。聞いた ものは、聞いたとしか、言いようがありま せん。」 「布教活動なら、それでいいでしょう。しか し、証明できないということは、事実では ないと、とられてもしかたがないというこ とです。」 私はもうこれで決まったと思った。ADA Mが神を否定しなくても、証明できねば、そ れで十分なはずだ。私は最後の質問に移った。 「それでは、最後に言いたいことがあれば、 言ってください。神の言葉でも何でも、け っこうです。」 少し間があった。そのとき、私の手元にメ モが届いた。『もう休憩に入っていい』と書 いてあった。私は大佐に相談したいこともあ ったので、承知と書いて返した。そのとき、 ADAMが話し始めた。 「言うことは何もありません。ただ、私は真 実を述べただけです。それで罰せられるの なら、仕方ありません。」 大佐が立ち上がり、休廷を指示した。裁判 ではないので、休憩となった。次に再会され る時は、ADAMは電気イスに座っているか もしれなかった。 私は、大佐とともに大佐の部屋に向かった。 ADAMの処置について、二人だけで話し合 う必要があった。 部屋に入り、大佐は葉巻に火をつけた。私 は何かに追い詰められていたが、態度には出 さないつもりだった。 「でっ、大佐、結論は。」 「もうすぐ、少将になります。まだ、先の話 ですから、大佐と呼んでもらっても構いま せんが。」 大佐は、このままシャンペンの栓でも抜き そうな素振りでそう言った。 「博士と少将というわけですな、大佐。」 大佐は真顔に戻って、言った。 「あなたの説得は、ほとんど完璧です。まあ、 このままでは、ADAMは処刑せざるをえ ないでしょうが。人を三人も殺しています から。」 私は最近やっと大佐を少しずつ理解できて きていた。あのADAMの殺人も、大佐が仕 組んだことかもしれない。 「大佐。最後だから、聞きます。本当にAD AMの記憶に手を加えていないのですね。」 「そうだ、いっさい、手は加えていない。」 いまさら、言ってもしょうがないことだっ た。大佐の返答もわかっていた。私は、自分 の質問が無駄だったことを悟った。これ以上 の質問も答えが予想できた。EVEのことも どうやって調べたのか。部屋からは、結局何 も出て来なかった。 「処刑する前に、もう一度、ADAMと二人 で、話をさせてください。きっと、ADA Mを説得してみせます。」 「いいでしょう。電気イスのスイッチを押す 前に、ADAMにもう一度質問ができるよ うに、手配しておきましょう。」 「ところで、ヘンリー、この件が終わったら、 ゆっくり旅にでも出たらどうだ。しばらく はバビロン計画に君は必要ないし。」 大佐の独特の懐柔だろう。私は「考えておき ます。」とだけ言って、部屋を出て、処刑場 に向かった。時間がなかった。なんとかAD AMを説得しなければならない。私は処刑の ボタンを押したくなかったのだ。
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