空中分解2 #1251の修正
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『 すべての一瞬は、可能性という無限大の選択肢を持っている。 』 その薄暗く細長い廊下は、そのまま闇への入り口を誘うかのように空気を張り つめていた。 突然、張りつめた沈黙が破られる。緊迫感のある足音は廊下全体にこだまし、 一人の男が薄闇の中を駆け抜けていく。 その残響は軌跡となり、あとから追いかけてくる者達の心を駆り立てる。 追跡者は、軍服を纏った5、6名の男達である。階級章を見た限りでは、下っ 端の警備兵らしい。 「待てー!」 逃げていく男を目で追いながら必死で叫んでいる。 「隊長!発砲の許可を!あの先へ行ったら我々は手が出せません。」 一人の警備兵は男の行動にあせり、銃をかまえながら隊長に進言する。 「馬鹿野郎!ここがどこか忘れたのか?国家のお抱え研究施設だぞ。まわりの機 材の一つにでも傷をつけてみろ………ただじゃすまねえぞ。」 時に統一歴156年。人類はまた、新たに未知なる空間を開拓すべく、外宇宙 空間の他に現時空を基本とした別次元空間への研究を行っていた。 例えば、タイムマシンなどの時空間移動や電磁変換転送による同次元転移(機 械によるテレポーテーション)、そして裏宇宙などにある別次元(パラレルワー ルドなど)への転移などの研究であった。 しかし、現在において研究の成果は芳しくなく、ただ一人の例外をおいては、 基本となる次元間理論さえ理解できない状態であった。 「ちくしょう!なんで自分の職場で逃げまわらなきゃならねえんだ………」 追われる男は、やり場のない怒りを心に鎮めながら、今は逃げきる事だけを考 えようとしていた。 男の名は鷹司。ここワールノク研究所に所属する一研究員であった。しかし、 彼が発表した次元間理論が学会で問題になり、知らぬ内に軍の工作員が動きだし たのである。 訳が分からないまま軍に連行された鷹司は、そこで工作員達に尋問を受けた。 なんの事はない、鷹司にスパイ容疑がかかっただけの事であった。軍事機密で あった光縮炉内蔵の恒星間戦闘空母のデータを転用して某国に売ったとの容疑で ある。むろん、そんな事実は彼には身に覚えのない事なのである。 何とか逃げだした鷹司は、別の部署で次元間の研究を行っていた坂本という男 の事を思いだした。 学会で坂本は、次元間転移は絶対に不可能だというような発表をしていた。と ころが、鷹司の発表でそれが覆され、彼は鷹司に対し敵意を抱くようになったの だ。ただ、自分が罠にはめられたのが坂本のせいであったにせよ、それだけの理 由だけではないのだろうと、鷹司は考えていた。 すべては、次元の謎を解く次元間理論から始まっていたのだ。 次元間理論とは、すべての空間には反転空間(俗に言う四次元)が二重に存在 し、ある反応により反転空間が生まれる。そして、その反転空間を使えば、同次 元間転移や異次元間転移が可能だという事である。ある反応とは、スーパーフォ トン(特殊光子)を使った光縮炉を瞬間的に暴走させてPBH(大気圏内で限定 的に発生させたセミ・ブラックホール)を作る事だ。 しかし、それらの反応は理論上の事であり、実際に光縮炉を暴走させることは 非常に危険で、仮に瞬間的に暴走させてうまくいったとしてもPBHを発生させ るまでのエネルギーを作り出す爆縮状態まで持っていく事は不可能に近かった。 そんな不可能な研究がなぜ問題になったか。 それは、PBHを作り出す事と同じ効果を、生体自体の持つオーラエネルギー が代用するというのだ。その事で学会は騒然となった。 オーラエネルギーの研究は、超能力としてではなく純粋に科学的に研究されて いる。宇宙空間と同じように、人類の体にも未知なる部分が多い。もし、鷹司の 研究が正しいのなら、知られざる人類の一面を発見した事になるのだ。 実際に、反転空間を発生させたデータを提出して発表したのだから、大騒ぎと なって当然であろう。 鷹司が軍に連行された翌日、研究所の一室では、彼の上司である初老の神崎主 任と後輩の研究員が事態について話し合っていた。 「未来の選択肢は無限に存在する。その一つ一つが新たな平行世界を作っていく のだ。だが、平行世界は互いに干渉する事はできない。ましてや、その次元間を 転移することなど物理的に不可能なのだ。」 初老の紳士は、一つ一つの言葉を確認するかのようにゆっくりと呟く。 「だけど、鷹司先輩は…………」 主任の言葉に疑問を持ったまだ若い研究員が口を挟もうとする。 「彼の研究は、元々時空理論を基本とした同次元転移のものなのだ。それがなん らかの偶然により、平行世界に転移するすべを見つけた。」 「しかし!先ほど平行世界への干渉は不可能だと!」 「私たち…………三次元の人間にとってはな。」 初老の紳士は、何か複雑な顔をしながらため息をついた。 鷹司には、亜璃沙という恋人がいた。美人というよりは人懐っこくかわいい感 じの子である。彼女は、鷹司の身に起こり始めた変化に最初に気がついた者でも あった。 それは、鷹司が次元間理論を発表するかなり前の事である。 「なあ、考えた事があるか?」 ベッドの横に寝る亜璃沙に向かって鷹司がふいに問いかける。 「えっ?なーに?」 亜璃沙は、目をぱちくりさせながら問い返す。 「俺たちの未来。」 「やだっ………鷹司ったら………」 亜璃沙は結婚の事と勘違いしたのだろうか、少し照れている。 「ばーか、何勘違いしてるんだよ。俺が言ってるのは未来の選択肢だ。人間の一 つ一つの行動には無限の選択があるってことは知ってるよな?その無限の選択肢 のすべてに別世界が存在するんだ。」 「俗に言うパラレルワールドってやつ?」 「そう。……自分が、何かひとつ行動を起こそうとした時、そこから新しい平行 世界が生まれる。………俺が言ってるのはそのことだよ。」 「それがどうしたの?」 「………だから、あの時ああしてれば良かったとか。そういう風にあととで悔や む事があるだろ?そんな時、過去に戻って行動の選択をやり直したいと思った事 があるだろ。」 「うーん、そうだけど………でも、やり直した選択がベストじゃない時もあるん じゃない?」 「だからさ………そういった平行世界を見てみたいと思わないか?」 鷹司は、上半身だけ起きあがりサイドテーブルに置いてある煙草を取る。 「別に………あたしは今の世界がいいわ。だって………鷹司に出会えたんですも の。」 そう言って亜璃沙は、鷹司を背中から抱きしめる。 「おいおい!火傷するだろ…………」 煙草に火をつけようとしていた鷹司は、ライターを落としそうになったのだ。 そんな鷹司を見てくすっと笑う亜璃沙は、背中に顔を寄せ、軽く噛みながらキ スをする。 しばらくの沈黙の後、亜璃沙は何かに気がついたらしく、興味深そうに質問する。 「ねえ?このアザって、いつできたの?………なんかイレズミみたいに綺麗に見え る………とかいったら怒るかな?」 「やっぱり目立つか?……なんだか知らないけど、二・三日前から急に浮きでてき たんだよ。」 「うふっ…」 亜璃沙は、何かを想像したかのように軽く笑う。 「なーに笑ってるんだよ。」 「鷹司の背中のアザってさぁ、なんか翼の生えてた痕みたい………」 「そうさ、俺は翼をもぎ取られた堕天使なのさ。」 鷹司の背中にアザができたのを境に、彼の身に不思議な現象が起こり始めた。 それは、いつも夢から始まる。 『………次元軸上φに置いて、ベクトルξ・η地点における最大変位ωは、同次元 の中にある反転座標………』 冷や汗を流しながらベッドから起きあがった鷹司は、今の今まで頭の中を埋めつ くしていた超科学の理論に大きな衝撃を受けていた。それは、現在彼自身が研究し ている異次元間法則の常識を覆すほどのものだったからである。 夢にしては鮮明すぎるほどに、頭の中に焼き付いている記憶の結晶。 誰のものでもない、自分自身の記憶に近いものを鷹司は感じていた。 目の前にいるのは、黒い鉄仮面を被った大男。 あいつが誰だか知っている、鷹司の中の何かがそう呟く。 『……ルイス………ルイス・サイファー………もうおまえに勝ち目はない。時空の 狭間で永遠に迷うがいい。………Ёкипор……Яфщюызджч………』 鷹司に向かって投げかけられる不気味な呪文の詠唱。 ここは自分の住む世界ではない、鷹司がそう思った瞬間、目の前が光に包まれ全 身の触感がベッドを捉える。 「なんだってんだ!」 ベッドから跳び起きた鷹司は、自分の周りに元の世界が戻っていくのを感じてい た。目を開けば、見慣れた自分の部屋。鮮明な夢の記憶は、何を物語っているのだ ろうか? (あれはなんなんだ。………いや、俺はあれが何かを知っている。………俺自身の 身に起こった………………。) 鷹司は、研究所の上司であり彼が信用している一人の神崎主任に夢の事を相談し た。神崎主任は鷹司の親代りのような存在で、物事を冷静に見据えながらも、あた たかいアドバイスをしてくれる。それに、なによりも鷹司の性格をよく把握してい るので、単なる冗談として扱われる事もないはずだ。 今までの出来事をゆっくりと話した鷹司は、神崎主任の言葉を待つ。 「単なるデジャブー………いや遠い過去の記憶なのだろうか。」 穏やかな顔をして遠くを見つめるように、神崎主任は言葉を呟く。 「馬鹿な話だと思っていらっしゃるんでしょう?でも、俺の中にはもう一人の俺が いて、そいつの持ってる記憶が時空間……いや、無限次元間の秘密を解きあかして いるのです。………そして、何か恐ろしい事実を俺に伝えようとしているのです。」 鷹司は拳を机に押しつけて、絞り出すような口調で神崎主任に訴える。 「きみの……その次元転移理論だが………気がついているのか?この世界の人間に その理論が通じないことに…………」 鷹司は、うつ向いたまま口を閉じている。 神崎主任は、そんな鷹司の肩に手を置き、穏やかな口調のまま問いかける。 「それでもまだ、次元間理論を学会で………いや、この世界で発表する気なのか?」 そして、鷹司は神崎主任の心配をよそに次元間理論を発表し、学会に一大センセー ションを巻き起こした後、同僚の坂本の罠でその身柄を軍に拘束された。 そこで鷹司は、脱出の為にあるトリックを行った。 PBHが引き起こす虚数磁場は、生体エネルギーが代用する。だが、この世界の 人間には反転空間を作り出す事しかできない。つまり、それを利用して次元転移を 行う事は不可能に近いのだ。 ところが、同次元での転移なら転移目標を確実にすることはできないが、簡易な 転移を行う事ができる。反転空間を作りだした後その空間に入り、タイミングよく 元の空間に戻れば、牢抜けなどた簡単なことだった。 そうして抜け出した鷹司は、前から引っかかっていた坂本の行動を確認すべく、 危険な罠の待っているワーノルク研究所へと舞い戻ってきたのだ。 やっとの思い出警備兵をまき、特別な者しか入れぬ機密区域にたどり着いた鷹司 は、まず、坂本のいる第4ラボに向かった。 ラボの扉が少し開き、中の明かりが少し洩れている。 壁に背を這わせ、静かに扉へと近づく鷹司の耳に聞きなれない言葉が響く。 『そんな所に隠れてないで、堂々と入ってきたらどうなんだ。……鷹司!』 一瞬、鷹司の身体が硬直する。完全に鷹司の行動は読まれていた。 用心しながらも、仕方がなく堂々を扉を開けて入った鷹司は、目の前にいる坂本 を睨みながら呟いた。 「まんまと貴様にはめられたな…………坂本よ。」 坂本は、不気味な嘲笑を浮かべながらソファーに深々と腰掛けている。 『貴様には完全に消えてもらわねばならない。』 鷹司はその声に、背筋が凍り付くような感覚に陥った。 その声は、たしかに鷹司の知っている坂本から発せられてる。だが、その声色は 坂本自身のものではなかった。 「てめぇ!誰だ!!!」 『お忘れかな?………ルイス………いや、鷹司。我が名はセイラ………セイラ・ファ イン。』 (後編に続く)
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