空中分解2 #1196の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「美里さーん、待ってよぉーっ!」 ”えーい、ついて来んな!” 私は心の中で叫ぶ。 世の中に一人や二人くらいはどーしても我慢の出来ない奴(何か悪いことを したわけでもないのに)、ってのが存在すると思う。 簡単に言えば相性が悪いってコト。 たとえ世界が滅びてこいつと世界中に二人だけって事になっても決して近寄 りたくない人間。 私、大塚美里にとってはそれがこの男、山中一平だ。 何が気に食わないと言えば、まず顔が嫌いだ。 丸まったイモ虫みたいな顔をしている。 さらに、あのオカマみたいな声と喋り方が嫌い、なで肩が嫌い、狸みたいな 腹が嫌い、ガニ股で細い足が嫌い、猿みたいな長い腕が嫌い、とにかく嫌い、 嫌い、嫌い、なのだ。 なのに、なのに……。 ある日の放課後、私は人気のない体育館裏にいた。呼び出されたからだ。 人伝で呼び出されたので誰がやって来るかはわからないが、雰囲気的に告 白タイムらしかった。 私はいままで男の人とつきあった事もないし、告白されたこともない。 だから、こーゆーのは初めての経験で、 ”大好きなH君だったらいいなぁ。”とか、 ”いきなりアイシテルなんて言われたらどうしよう” などと一人であれこれ考えてポーっと赤くなったりしていた。 10分ほど待つと、体育館の向こう側から一人の人影が現れた。 イヤーな予感がした。 ”ゲッ、やっぱり。” 夕焼けの赤っぽい光に浮かび上がったその男は、そう、あの、私の天敵、イ ドの怪物、山中一平その人であった。 私は本能的に彼に背を向け、走りだそうとした。 「あっ、ちょとぉ。」 という一平のこっ汚い声が背中越しに聞こえたが知ったこっちゃない。 私はまだアレルギー性心筋梗塞(そんなもんあるか!)で死にたくはないの だ。あの男と一分間向かい合っていたら狂い死にしてしまうかも知れない。 心の中で”アバヨ”と捨てゼリフを吐いた、その時。 一瞬、夕焼けで真っ赤だった空が紫色に輝いた。 それだけだった。 ”なんだったんだろ?” と思いつつ一平を振り切り、家路に付くとさあ大変。 いつものにぎやかな通りに人っこ一人いない。 それどころかあちこちの交差点や曲がり角でつぶれている車・車・車! どれもドライバーの姿はない。 魚屋の店先の威勢のいい兄ちゃんも、ファミリーレストランの窓越にいつも 見える客やウエイトレス達の姿も、いつも庭先を掃除しているレレレのおじさ んの姿もなーんにもない。 まるで私一人を残して他の人間がぜーんぶ消えてしまったみたいだった。ま るでへたくそなSF小説の様な世界だ。 私は走って家に帰り(いつもはバスなのだが、バスは電気屋の店先に突っ込 んでいた)、ゼェゼェあえぎながらテレビを付けてみた(いつも”お帰りなさ い”と迎えてくれる母の姿はなかった)。 どのチャンネルもサンド・ストームだけだ。 ラジオも同じ。雑音しか聞こえない。 念のためバンドを短波に合わせ、海外放送を拾ってみようとしたがこれもダ メ。 次に電話。 これも全く通じない。 私は絶望感に襲われ、その場にへたりこんだ。 ”ああ、私はもう、世界中で一人ぼっちなんだ。” 涙かあふれてきた。 一人膝を抱えて泣き始めてからどのくらい経っただろうか。 玄関のチャイムが鳴った。 ”私の他にも人がいたんだ!” 私は脱兎のごとく玄関にダッシュし、ドアを開けた。 「よかったあ。美里さんは無事だったんだね。」 と腐った鯛みたいな声を排出したのは、ただれたサルノコシカケみたいな顔を した山中一平その人だった。 瞬間、私は一平を突き飛ばし(手が腐らないかしら?)、玄関を出て逃げだ した。 「あっ、待って美里さん、なんか、僕の他の人間がみんないなくなっちゃっ てさぁ。美里さんは無事かどうか心配になって来てみたんだよぉ。」 えーい、うっとうしい。 一平はめげずについてくる。 「美里さーん、待ってよぉーっ!」 ”えーい、ついて来んな!” 私は心の中で叫ぶ。 世の中に一人や二人くらいはどーしても……。 ってワケ。 どんなに逃げても一平はついて来る。 走っても、川に飛び込んでも、刑務所の塀を越えても、空を飛んでも、ワー プしても、タイム・スリップしても一平はついて来る。 石を投げても、金属バットで殴っても、手留弾を投げつけても、ダンプでひ いても、ライオンをけしかけても一平はついて来る。 けなげな奴……。 私はほんのちょっぴり心が痛んだが、生理的に受け付けないものはしょうが ない。 こんな奴にかまってないで他に存在している人間を捜すのが肝心なのだ。 しかし、いっこうに見つからない。 そして一平はついて来る。 「ねぇ、美里さんったらぁ!」 その泥酔者のへどの様な声についに私は切れた。こめかみの血管がぶちっと音 を立てる。 私はくるっと一平の方に向き直った。 一平の顔がぱっと輝く。何を勘違いしてるんだ、この猿面犬が! 私はおぞましいのをこらえつつ、一平の首を力いっぱい絞めた。 もがく一平。 信じられないと言った表情の一平。 世界中に二人しかいない人間の片割れを殺そうとする人間がいるとは信じら れないのだろう。 そして、愛する人(てっ、照れる!)に殺されようとしている絶望感。 一平の超醜い顔がさらにこれ以上醜くしようがないってくらい歪んだ。 絶望感が一平を変えた。 かわいさ余って怒りが一億倍になったようだ。 信じられないくらいの馬鹿力で私の手をひきはがし、親にもぶたれたこ とのない大事な顔を力一杯張りとばす。 「きゃっ!」 と私は飛ばされて倒れこむ。 そしてあろう事か、この馬鹿は私の体に覆いかぶさってきた。 「いやぁーっ!」 全身鳥肌が立った。力一杯抵抗した。 でも、でも、男の力にはかなわなかった。 よくショック死しなかったと思う。 そして、私は一平がさらに嫌いになった。 ……この下手クソ! 十数年後、私と一平には五人の子供達がいる。 私は一平も子供達も嫌いだ。 一平も高慢な私を嫌いになったようだ。子供も嫌いなようだ。 子供達も両親と(愛情を持たれていないのだから当然だが)兄弟全員が嫌い なようだ。 全員が全員を嫌っている世界になってしまった。 それでも生きていくためにみんな協力しあってるし、嫌いなもの同士でも生 きていけるもんだ。 とりあえず、表面的には平和なんだから、きっとこれでいいんだろうと思う。 − おしまい −
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